第23話「恋人宣言」
23話「恋人宣言」
「え!?………夕映ちゃん、斎くんと付き合い始めたの!?」
「シーッ!!南ちゃん、声が大きいよ。」
大学の食堂で、コソコソと話しをしているのは、夕映と大学からの友達である南だった。
斎と付き合い始めてから数日後。
南に会ってから、現状を報告したのだ。すると、南は驚きの声を上げた。
「ごめん………。でも、夕映ちゃんと斎くん、仲良かったもんね。そっかー、付き合い始めたんだ…………。」
南は、ジーッと夕映を見つめていた。
何か茶化されると思ったのだが、予想外の彼女の反応に、夕映はドキドキしてしまう。
南は斎と小学生の頃から同じ学校だったという。南のお家は、普通のサラリーマン家庭らしいが、南が頭がいいのだろう。「成績がいいと推薦してもらえて入れるの。学費も安くすむし。」と以前教えてもらったことがあった。頑張り屋の南を、夕映は尊敬していた。
そんな、昔から斎とずっと同じ学校にいる南だ。
何か斎の話があるのかと思い、彼女の話しの続きを待った。
前の恋人の話しなのか、それともファンクラブとかあったのだろうか……など、女絡みの心配をしてしまう。
あの容姿端麗、成績優秀でスポーツ万能、そして将来有望。そんな男が女にモテないわけがないのだ。
ビクビクしながら南の反応を待ってると、南は「………夕映ちゃん狙いだったのか。」と、何故か納得したように一人で頷いていた。
「え………私狙いって……。」
「斎くんって、あんなにモテるのに、ほとんど誰とも付き合ってこなかったみたいなの。どうしても断れない縁談とかでは付き合ってたみたいだけど、それも長続きしなかったし………夕映ちゃんと知り合いだったみたいだし、もしかして片想いだったのかもねー。」
「そう、なんだ………。」
南の言葉に、夕映は嬉しくなってニヤついてしまう。それを南は苦笑していた。
「幸せそうだね。………私も早く恋人見つけようー。」
「南ちゃん、可愛いからすぐ恋人出来るよ!」
「………ファンクラブができそうなぐらい美人のお嬢様が言ってくれたから、望みはあるかなー。」
「え、ファンクラブ……?」
「見た目だけ王子様の斎くんと美人で優しい大学テニス界のお姫様の夕映が恋人になったってバレたらすごい事になりそうだね。」
「………そんなことないよ。」
南は自分の事をいつもべた褒めする。けれど、夕映は自分がそんなに人気があるとは思っていないのだ。
告白されたことがないわけではないけれど、斎ほどではないのだ。
そんな事を思って返事をしようとした時だった。
「夕映。」
「あ、斎……。どうしたの?」
気づくと話しをしていた本人が、夕映たちが食事をしているテーブルの横に立っていた。
「昼食終わったのか?」
「う、うん……。斎は……。」
顔が少し怒っている?と、オドオドしながら夕映が返事をした。けれど、言い終わる前に、斎は夕映の手を掴んで引き寄せてきたのだ。
「えっ………!?」
「南、こいつ借りるぞ。」
「次は空きコマだから、ごゆっくり。」
「……悪いな。」
「ちょっと、南ちゃん!?」
そういうと、斎は夕映の手を掴んだままズカズカと歩いていく。
南はにこにこしながら手をヒラヒラと振っているだけで、助けてくれようとはしなかった。
けれど、夕映は驚きながらも、彼が自分に会いに来てくれたのを喜んでしまう。
これが憧れだった人が恋人になったという事なのだろうか。そんな事を考えながら斎の背中を見つめていた。
繋いでいる手が少し強くて、それが男らしいななんて感じてしまうぐらいに、夕映は舞い上がっていた。
「おい、夕映。」
「ど、どうしたの?」
気づくと前を歩く斎がこちらを振り返っていた。今は講義室が並ぶ大学の廊下だった。吹き抜けになっており、中庭から夏の風が吹いてきている。
夏の少しじんわり来る風と、クーラーの涼しい風がまざって少しだけぬるい。
それよりも彼の手が暖かくて心地いいな、なんて思ってると、斎が不機嫌そうにこちらをジロリと見ている。
「おまえ、俺と付き合い始めたんだろ?」
「うん……….。そうだね。」
「じゃあ、なんで連絡返さなかったんだよ。学部違うんだから、昼か部活でしか会えないだろ。」
「スマホ見てなくて。それに…………、迷惑かなって思って。」
自分と一緒に居たいと思ってくれているのだと思える言葉は嬉しかった。
けれど、彼がそんな事を言うのは意外だった。
誰かがいる前では、一緒に居るのを見られるのはイヤなのかと思っていたのだ。特にこうやって手を繋ぐなんて、論外だと勝手に思っていた。
けれど、斎はそれを聞いて驚いた顔を見せた。
「なんでだよ。」
「だって、斎は九条の跡取りでしょ?私みたいな小さい会社の社長令嬢と歩いていたなんてバレたら、噂になっちゃうかなって。」
「なんでそうなるんだよ。俺は九条の事なんて考えておまえを選んでない。俺が夕映が好きだから恋人になったんだ。」
「あ、えっ………それはそうかもしれないけど……。」
あまりに突然の告白に、夕映は照れてしまい顔を真っ赤にしてしまった。大学の廊下で斎「好きだから。」なんて言われるなど思っていなかったので、どうしていいかわからず、言葉も出てこなかった。
けれど、斎はそんな様子の夕映には構うことなく、自分の思いを伝え続けていた。
「だから、こうやって大学で手を繋ぐのも、一緒にランチするのだって出来る。それに、こうやって………。」
「え…………。」
彼の顔が近づいてくる。
それに気づいた時には、もう彼に唇を塞がれていた。
予想だにしない彼の行動に、夕映はその場に固まってしまい体を動かせなかった。
けれど、キスはとても短いものですぐに斎の柔らかな唇は離れてしまった。
そして、額同士をくっつけたまま、斎は「キスだってする。」と、ニヤリとしたイタズラっ子のような笑みを見せたのだ。
「…………なっ……。」
夕映は「なんで、」と言葉を続けようとした。けれど、その瞬間周りから「キャー!!」と、歓声というよりは悲鳴が上がったのだ。
夕映が驚いて周りを見たときには、結構な人数のギャラリーがいたので、目を大きくして驚いてしまった。
そして、何よりそんな大学の人たちに、斎とのキスシーンを見られてしまったのだ。
それが何よりも恥ずかしくて、その場から逃げてしまいたくなったけれど、手は斎にガッチリと握られているので、離れることが出来ない。
「斎っ!な、何してるの!?離してよ。」
彼の耳元で内緒話のように小さな声で抵抗の声をあげるけれど彼はニヤつくばかり。
「これで、大学のやつらにも公認だな。」
「っっ!!」
斎の言葉に、夕映は絶句した。
彼は、大学の生徒達に自分達の関係を伝えるためにわざと、このような事をしたのだ。
この騒ぎならば、人伝に噂が広がって明日にはほとんどの人たちがこの事を知るだろう。それを考えただけで、夕映はくらりと眩暈がしそうだった。
今でもすごい視線なのに、明日からはこれ以上なのだ。
夕映は小さくため息をついて、波乱の大学生活の予感を感じていた。
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