銀河の夜②
街の明るい角にきたところで、ジョバンニは先生とお嬢さんと別れました。二人は烏瓜が浮かぶ川のあかりを見に行くととても楽しそうに話していました。流れていくあかりは天の河のようにそれは美しいのでしょうね、とお嬢さんがうっとりとつぶやきました。ジョバンニはなんだかお嬢さんにほんものの天河をみせに誘いたいような不思議な心地がしました。お嬢さんが天の河をお好きなら、あの丘をぜひに訪れてもらいたいと突然に思ったのです。今まで味わったことのない奇妙な感覚で、ジョバンニはうまくその気持ちを言葉であらわすことができないで、やはり別れ際も顔を赤くして頭を下げることしかできませんでした。
先生とお嬢さんの声が遠のいてジョバンニが歩き出したとき、街の明るい角とは反対側にある橋の向こうに、せいの高い少年が立っているのがちらりと見えました。ぼんやりと見える橋の向こうは暗くてよく見えませんが、その少年はひとりでいるようです。
(みんなで川に灯りを流しに行かないのかしら)
とジョバンニは、遠い昔の自分の姿とかさなるような気がして、ほんのすこしゆっくりとその橋の前を通りかかったとき、少年はふいに高く口笛を吹きました。その音色は夜空に浮かぶ白銀の川のように流れひびき、ジョバンニはおもわず少年の方を振り向きました。少年の姿は橋の向こうにとけてしまいもうほとんど見えません。林の奥で少年が持っていた烏瓜のあかりだけがぼんやりと浮かんでいます。
「カムパネルラ!?」
そんなはずはないとわかっていても声をかけずにいられませんでした。
「カムパネルラ!」
ジョバンニはさらに大きく呼びかけました。すると、その声に応えるようにひときわ高く口笛の音がきこえたのです。気づくとジョバンニは少年が消えた先に向かって走り出していました。
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