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 沙希はページを繰る手を止めることができなかった。見たことのない物語が広がっている。やっぱりジョバンニはカンパネルラのいる銀河の向こうに戻るんだ。私がいるのもここじゃない。こんなところじゃない。突然そう思った。

「沙希!?どこに行くの?」

 沙希が家を飛び出した時、背後から母親の裏返った声が聞こえた気がした。妹のぽかんとした顔を見た気がした。でも、もうそんなのはどうでもいいと沙希は思った。ただひらすら「行かなきゃ」と思って家を飛び出した。胸にしっかりと『銀河鉄道の夜』を抱えて、この本が教えてくれる通りにどこかに行かなければならないと思った。物語のためにはそれが必要なんだと。


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