7.重い言葉

「そういえば、哭士君、色把さん。ここら辺を歩き回って大丈夫なの? 君たち、かなり厳重に本家からの追っ手に警戒していたようだけど」

 会話が途切れたところで、桐生は二人の顔を見つめ微笑む。

 哭士と色把は、本家を抜け出した後、一週間、菊塵の部下達と共に早池峰家から離れ、本家の様子を窺っていたのだ。

 桐生の言葉に菊塵の表情が僅かに曇った。

「それがですね……。哭士はともかく、色把さんを取り戻そうと追いかけてくると見ていたんですが」

 ちらり、と菊塵は哭士を見る。

「こちらの様子を探っている者は無かった。一週間の間、全く追っ手の気配がしない」

 他の狗鬼より知覚が優れている哭士が言うのであれば、ほぼ間違いはない。


「そして昨日、祖父様の所へ本家から使者がきまして……」

 へえ、と一言だけ発し、桐生は先を促すように首をかしげた。

「色把さんを祖父様の方で引き続き保護するようにと言伝が」

 桐生は目を丸くする。

「あらら、一体どんな心境の変化だろうねえ。攫った色把さんを今度は保護しろだなんて」

 哭士はあの日の夜を思い出していた。恒河沙との戦いの際に「古参側」と「当主側」という言葉が飛び交っていた事を。

本家あちらにも内部で確執があるという事か。……兎に角、用心するに越したことはありませんね」

 哭士の説明を聞き、菊塵が頷いた。



「そうだねえ。それじゃあ、色把さんはこれからも哭士君に護ってもらったほうがいいねえ」

 桐生の言葉に色把は哭士を見た。桐生の後方を黙って見つめたまま、何かを考えているように思えた。

 色把は、身を挺して自身を守ってくれた哭士に何か恩を返したい、籠女として契約は結べずとも、何かしら、制約を外すための力添えができれば、そう思っていた。

できるのであれば、哭士の制約を外す手伝いをさせて欲しい、と口を開こうとしたその時、であった。




        ※




「……色把には家を出てもらう」

 哭士が口を開く。その言葉に、色把はハッとした表情で哭士に振り返る。

「哭士」

 菊塵が諌める口調で名を呼んだ。

 哭士は何も語らない。だがこれは、本家から抜け出し、一週間で哭士が出した一つの答えだった。

 一週間前の記憶を、哭士は思い出していた。


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