第38話 オロチ、強襲

「一体これはどういうこと!」


 車両が行き場を失い、缶詰め状態で道路を埋め尽くす中。

 先の道を封鎖する警察の陣営に、陽沙ひさは他怪魔師かいましたちへ状況の定かを求める。


「出没していた怪魔かいまたちが、一斉に同じ方角へ移動を始めたのです! まるで何かに引き寄せられるように‼」


「彼らが向かう場所は把握しているの⁉」


「はい! このまま行けば、対策本部直属施設である『識神園しきがみえん』へと到達する模様だと!」


「識神園……人工神霊樹しんれいじゅが有るところを狙ってる? でも、何でいきなり一斉に」


 陽沙のスマホに着信が鳴ったのは、その時であった。

 通話表記の春夢はるむの字面に、陽沙はすぐさま応じる。


『陽沙! 怪魔たちがどこへ向かってるのか、把握しているか⁉』


「今、聞いたとこよ。場所は識神園。でも何故、一斉に移動しているのか!」


浩司こうじが仮説を立てた! 恐らくだけど、アイツらは呼び寄せられているんだ! に!』


 主犯格と断定を遂げる名に、陽沙は肩を震わす。


「ちょっと待って。それじゃあこの犯行も、破邪術師団はじゃじゅつしだんが?」


『街のあちこちに植え付けられた神霊樹。それはオロチの特性によって植え付けられたものだ。そして現在、街を闊歩している怪魔は、オロチの神霊樹から生まれた存在。つまりオロチの『子供』! 彼らは、親の声に従って行進を始めている!』


「全ては破邪術師団の目的を遂げるために」。春夢の言葉に、陽沙自身も答えに辿り着く。


「奴らの考えていることは、人工神霊樹の抹消‼︎」


『俺もハルピコと共に出る! あっちで落ち合おう!』


「ちょ、ちょっと待ちなさい春夢‼」


 静止の声は、通話の断絶間際に追いやられ。


「アイツ。怪我したばっかだって言うのに!」


 友人の無茶を止めるために、陽沙も自身を急かす。




 識神園へと続く国道に、魑魅魍魎の行列が集う。

 ざっと見渡しても、小型、大型を含めて数は三百と下らない。

 その怪魔の尖兵たちも、全体でいうほんの三割程度というのだから、それらを前に立ちはだかる怪魔師たちは生唾ものだった。


「まさか、たった三本の神霊樹の繁殖で、ここまでの数を許すことになるとは!」


「後続はまだまだ続いている! 結界の維持を厳とせよ‼ 絶対にこの敷地に入れてはならぬぞ!」


『おおう‼』


 識神園を守護する、総計五十名の怪魔師たち。

 彼らは各々に、同種の使い魔を連携して操っていた。


 五十体にも及ぶ、鹿に似た使い魔『四不像しふぞう』。


 頭上にそびえる二本の枝分かれした角からは常に呪力じゅりょくの光を灯し、生じたエネルギーの稲光いなびかりは、建物の半径五百メートルに停留した。

 それらによって生み出される光の壁は、見た通りに建物を守護する結界の壁として、迫る怪魔たちの侵入を防いでいた。


「対策本部の増援はまだか⁉ 結界がいつまでも続くわけではない! 速く増援の手立てを付けねば‼」


『その必要は無い!』


 頭上に声が響いた。

 伴って一匹のカラスが、宙を我が物顔で円を描く。


「アレはまさかは邪術師団の⁉」


『仮初めの神霊樹を祀るこの庭園も、この日限りだ! ただ怪魔をダシに堕落を貪る怪魔師どもよ! 震えて眠れ! これが新たな時代の幕開けとなるだろう‼』


 周囲を覆っていた結界に、亀裂が走った。


 脳に直接響いてくるようなノイズ音。

 従って、呪力によって作り上げられた光の壁は、その色を弱々しく点滅させながら敢え無くなく効力を失った。

 怪魔の大群を先導する、蛮行者の手によって。


「アレは、何だ⁉ あの途轍もなく巨大な怪魔は‼」


「さあ、みんな。存分に暴れなよ。これまでぞんざいに扱われてきた同胞の分まで、ね」


『ギア、シャアアアアアッッ‼』


 オロチの咆哮に、怪魔が一気に雪崩れ込む。

 圧倒的な物量が押し寄せた。


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