第32話 怪魔師たちの理想。春夢VS羽嶋
青白い結晶を放つそれに、
「三つめも問題なく生長しているな」
ボス、並びに
しかし対して、八岐大蛇は舌を出し入れしながら、そわそわと八つの首をざわつかせる。
「ボス。こいつは一体、どうしたのだ?」
「宿敵の匂いに警戒している」
ボスの一言に、仰木は周囲を警戒した。
「まだここに辿り着いてはいない。しかし時間の問題だな」
「相手はまさか、白い
「ほぼ間違いない。
「ならばもう決着の時だな。外に居る
「別に構わんさ。だが羽嶋の方は、『真実』を知って幾分か気後れしていないか?」
「それこそ問題はない。志を同じくしてここまで来た男だ。貴方だからといって、今更、道を違えはしないだろう」
仰木の問いに、ボスはオロチを見上げながら。
やがて口端を吊り上げて頷いた。
「すんすん、すん」
小さな鼻をひくつかせて、ハルピコは立ち止まる。
「ここから匂うんだな」
「
立て看板を声でなぞり、公園の出入り口に
町内でも最も広い公園だ。小さい頃なんかはよく幼馴染たちとここを駆け回った。
平常時ならば子供で賑わう場所だが、こんな事態だ。人の気配など有るはずも無く。
(見たとこ、
公園の遊具のある大広間まで続く歩道を、駆け足で進む。
(もしもハルピコが見つけたあの根っこの結晶が、呪力を巡らせる役割を担っているのなら! それさえ引き抜けば、神霊樹は止まる‼ 枯れるまではいかなくとも、怪魔を生み出すほどの精力はなくなるはず‼)
希望を糧に、一秒でも速くの到着を自身に急かしつけるが。
「くんくん! はるむ、お箸を持つ方に危険な匂いなんだな‼」
「なに⁉」
右側から突如として燃え盛る火の手。
春夢は咄嗟にハルピコを抱きかかえて、前のめりに転がり込んだ。
火の手はコンクリートの地面を焦がしながら、大本は風のように去っていく。
すぐに消えかけた小さなかがり火も、普通ではない青色を残していった。
「この攻撃方法!
すぐに臨戦態勢を取った。
肩にしがみ付くハルピコに、春夢は小声で耳打ちする。
(ハルピコ! まだ未完成だけど、術を使うぞ? 手足が無くなるが、俺がちゃんと抱えててやる! それからお前は、相手の呪力の匂いを嗅ぎ分けて俺に報告だ! 敵がいる!)
(分かったんだな!)
二人はすぐに、互いに考えを巡らせた。
春夢は敵を倒すため。ハルピコは春夢に武器を与えようと。
春夢の手足に白い毛並みの甲冑が張り付き、同時にハルピコの胴体や手足は透けていく。
「はるむ! 茶碗を持つ方なんだな‼」
「左だな‼」
一歩出遅れていたさっきまでとは違い、春夢は軽いステップで炎を掻い潜った。
一瞬だけ通り過ぎていく炎の塊。
それは青い炎に意思を宿した、実態の無い使い魔――
(間違いない!
「はるむ、もう一匹が後ろに居るんだな‼」
「二匹目か⁉」
背中にちりちりと熱量が迫っているのを感じるや、春夢は大きく空へと飛び出した。
二匹の狛犬は、攻撃の失敗にもめげずに、周囲の茂みに姿を眩ます。
地へと着地し、春夢はハルピコへの質問を変えた。
「ハルピコ! あの犬たち以外に、呪力を持った奴は居ないか⁉ 弱くて探しづらいと思うけど!」
「弱い、じゅりょく?」
鼻をピクピク機能させて、春夢は答えを待つ。
現実時間にして、五秒足らずの静寂。
神経を張り詰めていくには充分な時間であり、緊張感の糸は限界まで膨張する。
『ゴアアアガッ‼』
先に動いたのは狛犬であった。
今度は春夢にも居場所が分かった。春夢たちを挟み撃ちするように、前方、後方の道を遮って二匹は迫りくる。
(この滑らかな連携。指令塔が近くに居る‼)
「はるむ! 見つけたんだな‼」
瞬間、ハルピコは小さな指を後方の狛犬に差し向けた。
「そういうことか‼」
先に、揺らめく牙を差し向けて来る、前方の狛犬。
飛びつく狛犬の腹下を掻い潜ると、後方の狛犬が続けざまに真っすぐ突っ込んでくる。
そんな相手に対して、春夢も向かい合いながら。
「うおおおおおおおお‼」
呪力を込めた拳を、狛犬の鼻先に突き立てた。
触れた感触が確かに伝わり、次いで狛犬の身体は形を保てずに霧散。
目前の炎の壁を乗り越え、さらに春夢は間髪入れずに前蹴りを加えた。
ロンググローブに火を灯す――ヘルメットで顔を隠す、長身の男に。
狛犬の後方から奇襲をかけるはずだった羽嶋は、逆に春夢の反撃を防御する羽目になる。
「なるほど、確かにその鼻の良さは厄介だな」
「破邪術師団⁉ 今回の騒動も、お前らが発端かあ‼」
春夢の前蹴りは、羽嶋の顎に向かう手前で止められ、怒り任せに蹴りを振り切った頃には、羽嶋はバックステップで退避していた。
「一体何をした⁉ この街に神霊樹を根付かせるなんて大ごと! それが自然界にどれだけの影響を及ぼすのかも分かってるんだろ⁉」
「当然だ。この現状は本来あるべき形。我々人類が排除してきた、未来の足跡だ。破邪術師団、ひいてはそのボスの目論見通りだよ」
「未来だと? 何を言っている……!」
考えの融通が利かない。
春夢自身は、破邪術師団の存在を、もっと単純な犯罪者として想定していた。
日本の怪魔師、そのトップに立つ
しかし彼らの理屈は、もっとも古い時代に遡る。
「くくく。そう言えばお前は、
羽嶋は両腕を広げ、そして代弁する。
「怪魔を生み出す神霊樹は現代では希少だ。過去の人間や怪魔師共が不利益だと、切り倒し、封印していった。凶悪な怪魔も同様に。しかし今現在、あろうことか人々は、紛い物なる神霊樹が、紛い物の怪魔を産み落とすシステムを創り出した」
どうしても許せない部分。羽嶋の根幹はそこにあった。
「脅威だけが減り、対して怪魔師は数だけを無駄に増やしている。ちょっとした才能さえあれば、誰でも扱えるような使い魔を従えて、自分は有力な怪魔師だと鼻高々に告げてな」
「何が、言いたい?」
「現代怪魔師は甘い。思想も、理屈も、使い魔に対する姿勢とて、何一つ関心など寄せるに至らない。お前たち先祖もさぞ無念がっているだろうな。こんな腑抜けた時代に陥ったこと。そして、そんな中で育った護国聖賢の名を受け継ぐ者に対しても。揃いも揃って、我々にやられているわけだしな」
人差し指を突きつけて、羽嶋は怒りを向ける。
「今一度だ。現代怪魔師の軟弱な姿勢を、これを期に根絶やしにする。いかに自分たちが無力であり、軽い気持ちでこの道を選んだのかを。怪魔師は生半可な存在ではいけない。この腐った根を、我々の手で焼き尽くす」
そして構えを取り、ロンググローブに呪力が灯した。
「果たして、今の怪魔師共にこの混乱を乗り切るだけの力があるのか? 見ものだな」
「勝手なことを、好き放題言ってくれたな?」
「はるむ?」
小脇に抱えられるハルピコにも、身体の振動が伝わった。
春夢にあらゆる諸相が重なった。
「お前が、現代の怪魔師に対して不満を持つのは確かに分かる。時代ってのは残酷だよ。親父もいろいろと奮闘してたみたいだけど、結果は時代の波を追いきれずに、一度は東日下家も失意の底に陥った。俺も必死に役立とうと頑張ったけど、人工神霊樹の怪魔にすら好かれることは無かった。みんながみんな前に進む中で、俺だけが取り残されていった」
しかし肩の震えが止まり、春夢は息を整えて、平静へと戻っていく。
「でも、それで世を憂いて傷ついてしまう人間を増やすのは、根本的に話が違う! 喧嘩を売りたいなら、真正面から! 堂々と怪魔師たちに告げてやれば良いだろう‼ この惨事で、普通の人間まで巻き込むなんて! それこそ過去の怪魔師たちに対する恥だ‼」
拳を突きつけて、春夢は宣言する。
「家も門下生も関係無い! 一人の怪魔師として、お前をぶっ飛ばす!」
「なんだな!」
「ならば告げてやろう。新たな怪魔師の節目に、お前らは不要だ‼」
互いに想いは譲ることなく。
二人の怪魔師が激突する。
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