第30話 怪魔師として、門下生として
しかしそこにはあと一歩という、壁が隔てていた。
「それで完全ではないのか、春夢?」
「はい。完璧な状態は、ハルピコも鎧のように、俺の身体に纏わりついていたんですけど」
「顔だけになって、ボールみたいになっちゃったんだな」
胴体の無いハルピコが、顔だけの状態でぴょんぴょんと跳ねていた。
二人の未完成な術に対し、
「春夢君の手足にある防具みたいなのが、ハルピコ君の一部なの? 確かに、鎧みたい」
「全く珍妙じゃな~。チビっ子自身が術者に身体を貸し与えるなど」
「本当だったら、手足だけじゃないんだな! 僕も春夢と共に頑張れるんだな!」
現状、春夢とハルピコの共同術である
この状態でも
「なんか、顔だけのハルピコ君見てると、不健康そうで心配だわ……」
「う~む。術の発動条件はどうなっておる? 一応前よりは進展してるみたいじゃが」
「前までは術を成功させる気概だけでやってたんですけど、そうじゃないみたいです。俺とハルピコが、『共に力を合わせて頑張る!』って、気構えが必要で」
「文字通り、一心同体か。なるほど……少しだけ見えてきたわい。ちびっ子の特性が」
「ほ、本当です先生⁉」
「だったら教えてほしんだな!」
あと一押しのところでもがく春夢たちにとって、発展するのならどんな意見でも取り入れたい。
そんな藁にもすがる熱意を前に、善一は口端を吊り上げる。
「お前たちに足りないもの……それはずばり『お互いへの信頼』よ!」
「俺たちの、『信頼』? まだ互いに信じ切れていないってことですか?」
「そんなことないんだな⁉ 僕はちゃんと春夢を信じているんだな‼」
「無論、ただの信頼関係ってわけじゃない。春夢よ、お前にとってハルピコは身体の一部。意思を持ったもう一つの手足よ」
「ハルピコが、俺の『一部』?」
「そしてハルピコよ。お前にとっても春夢は身体の一部。自身の呪力を糧に、変わりに拳を振るう。もう一人の自分の分身」
「春夢が僕の、『分身』?」
言葉を往復し、二人は首を傾げた。
「力の度合いを知れと言うことよ。互いに一体何ができるのか? 逆にできないことの何を補えるのか? それを知ることこそが、この問題への近道になりえる」
「って、言われましても」
「なんだか難しんだな……」
二人は善一の言うことに、どうも半信半疑という部分も有った。
理屈は分かりはするのだが……。
しかし、善一は心配などこれっぽっちも寄越さずに、げらげら笑う。
「『
膝を手のひらで打ち鳴らし、善一は立ち上がる。
「さて、春夢よ! 確かにお前にはこの術の完成を急がねばならん。しかしいざ術を完成させて、お前自身が拳の振り方が未熟になれば、話にもなるまい。今日からお前に、
「緒方流の⁉ でもそれって、俺が未熟だから教えられないって、先生は!」
「鈍い奴じゃな~。今のお前なら教えても問題ないということじゃよ。お家への未練と言う邪念を払った今、お前はここの門下生として申し分ない。どうする? やるか?」
この道場の門下生となって、幾度となく拒否されてきた技の教授。
念願叶い、しかも成長を認められ先生の方から誘われる形となれば、答えは一つしかないであろう。
「はい! 是非‼」
「僕も習いたいんだな~」
春夢の後を追うようにハルピコも賛同し、三人はそのまま取り掛かる。
零香はその空間に自分は邪魔になると席に外しつつも、その頬を緩ませていた。
(やっと、か。今晩の夕食は少し豪華にしようかしら)
春夢が
この日を待ち望んでいたのは、零香も同様であった。
そうやって、彼らが力を付けていくと同時に。
その日を境に…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます