第26話 これからのために
肩で息をしながら、問い詰めた。
「陽沙! 話は本当か⁉
「落ち着いて春夢。確かにやられたのは間違いないけど、今は昏睡状態ってだけ。身体に大きな外傷も無いし、少しすれば目覚めるはずよ」
「なら
「それなら、なお大丈夫」
首を横に逸らす陽沙に習うと、青髪の青年が車椅子を漕いで現れた。
「全く、取り乱し過ぎだ。ここが病院ってことをお忘れなく」
「浩司」
頭に包帯を巻き、ひびの入った眼鏡をかけながら浩司は無事を報告する。
「動いて大丈夫なのか? やられたばっかなんだろう?」
「久々に会ったと思ったら、無礼も甚だしいな君は。そんなに僕のプライドをへし折りたいか?」
「邪推しすぎだ! 単純に心配してるんだぞ、こっちは!」
苛立ちを募らせながら、春夢は本気で訴えかける。
浩司もそれを受け止めて、小さくため息を漏らした。
「見ての通り、皮肉も言えている。安心しろ。君らにこれ以上、心配をかけるような真似はしない」
「皮肉って、お前」
「この数年でここまで性格が剥離してたなんて、春夢は知らなかったでしょ?」
絡みづらそうにする春夢に、陽沙も同調した。
確かに、子供の頃の気弱で純真そうな浩司の内面とは、まるっきり違っていた。
そういう意味で春夢は気後れするが、逆に浩司は難を示す。
「むしろ、余り変わっていない君らが異質と認めるんだな。僕はこれでも家の肩書に恥じぬよう、必死だったんだ。変わらずにいられるわけがない」
「そうか。まあ、そうだよな」
家の連中を見返そうと奮闘していた自分とは違うと、春夢は頷く。
ましてや、元からの才能と気質、破天荒さで成長した陽沙や聖燐と比べられても、迷惑極まりないだろう。
「お前らが無事でひとまず安心したよ。でも、これからどうなっていくんだ……? この件で
「むろん、奴らの良いようにはさせんさ。依然変わりなく、今度は
「ただ?」
含みを持たせる浩司に代わり、陽沙は口を開く。
「今回の襲撃で、彼らは言ったの。本格的に現代
「時間的な猶予は無いかもしれない。次の襲撃でもしかすれば、彼らの言う現代怪魔師の根本がひっくり返させる。そうなればもう、僕らの敗北だ」
「聖燐がやられて、浩司もボロボロ。
「もうここまでくれば、世間から信頼なんて目に見えてるでしょうね」
「え?」と、眉をひそめる春夢。
陽沙は改めて補足した。
「考えてもみて春夢。一夜にして、東日下家と西園寺家が、たった二人の怪魔師によって引っ掻き回された。そして今度は
「『本当に彼らが、護国聖賢の名を継ぐにふさわしいのか?』。無理も無い話だろう」
「いや、だけどさ‼ 逆に言えば、護国聖賢の力を以てしてもこれなんだぜ⁉ なら他の流派が対応したとしても!」
「国の四方を守護する我々に、求められるのは結果だけだ。一度の敗北でも、怪魔師全体に不和の波紋は大きく広がる。そしてこれを期に、腕に自信のある流派は声高に告げるさ。『自分達が当たっていれば、こんなことにはならなかっただろう』と」
「現に、怪魔師を統括する
「護国聖賢は、怪魔師の舵を取る支柱でなければならない。それが崩れることがどういうことか、君も想像に難くないだろう?」
「使い魔に対する、抑止力の激変……」
春夢は喉を干上がらせる。
今まさに、その根幹を問われている部分でもあった。
「
「そう遠くないうちに、怪魔師は廃れるってのか?」
「それも一つの未来として、僕は考えている。そうなれば使い魔たちも、ただでは済まない」
静かに、春夢は拳を固めた。
自分の戦いは終わったと思っていた。でも実際は違う。
これは怪魔師全体の、そして春夢が望んでいる未来を賭けての、決して遠く離れていない凶悪な因果だと。
だからこそ、決断に暇は付けない。
「俺をここに呼び出したのは、聖燐の事だけじゃないんだろう? 俺はどうすればいい?」
「春夢。私は!」
陽沙は喉を詰まらせる。
以前、春夢に対して、自分たちに任せてと告げたばかりなのに。その責任感が尾を引いて、苦渋が胸を締め付ける。
しかし春夢は、止まらなかった。
「陽沙。もうこれは護国聖賢だけの問題じゃないだろう? 俺は一怪魔師として、そしてお前たちの知人として、この件に役立ちたい。せっかく怪魔師の未来が見え始めたのに、奴らにその夢を潰されるなんてまっぴらごめんだ! 聖燐や浩司の敵討ちでもあるしな‼」
断固とした意思を表明。
それを受け、浩司は溜息を付いた。
「死んだわけじゃないんだ。敵討ちなんて名分は置いていけ。付けられた泥は自分で払う」
「浩司! 春夢はどの流派にも属さない怪魔師よ⁉ 素人同然なのに、どうやったって!」
「君が彼の実力を間近で確認したのだろう? 彼らの構成員の一人、
「他怪魔師との連携の意味だってあるのよ? そんな勝手な」
「さっきも言ったように、次回からは他所からの怪魔師も幅を利かしてくる。身内内での連携や徒党は有ってないようなものだ。春夢一人ぐらい、問題ないだろう」
「だけど!」
「あの、俺の実力を当てにしてくれてるのは嬉しんだけどさ」
数十秒前までの威勢に急ブレーキをかけて。
頬の肉を引きつらせて、春夢は申し訳なさそうに告げた。
「実はその、実戦で使った俺と使い魔との共同術。アレ、まだ未完成なんだよね……。もうちょっと練習が必要っていうか」
「…………君は、そんな欠点を抱えておいて、突っ走るつもりだったのか?」
「いやでも、お前たちが戦ってるのに、俺だけってわけにはいかないだろう?」
『はあ~……』
陽沙と浩司は互いに向き合い、気持ち分、頭を垂れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます