第22話 嬉しい誤算と悲しい誤算

 破邪術師団はじゃじゅつしだんの集会場所である、一室。

 そこでただ一人、椅子に座り込んでいた羽嶋はしまは本を閉じた。


「次の動きが決まったのか?」


 そう言って窓の方へ顔を向けると、佇んでいたカラスが仰木おおぎの声を仲介する。


『ああ。予定通りにダイゴの意識を縛り、意図的にこちらの作戦を流した。恐らく警察側は、今度こそ我々を一網打尽にと、最高戦力で仕掛けてくるだろう』


「残りの護国聖賢ごこくせいけんか。我々が次に潰すべきは、北条ほくじょう南部なんぶ西園寺さいおんじもしゃしゃり出て来るなら、いろいろと面倒だな」


『そこは問題ない。“ボス”も、直々に動く。この前、お前たちが手に入れた降魔書こうましょによって、使い魔も幾分か安定したしな』


「なに? その言い方だと、前々から現出には成功していたのか?」


『ああ。ただし、まだ手順が必要なのだよ。正確に呼び出すには、神霊樹しんれいじゅの一部が必要になる』


「そんな状態での実戦で、支障は無いのか?」


『あの使い魔の力は一端だけでも強力だ。例え護国聖賢でも、遅れなど取るまい』


「そうか……。ならばこの国を揺るがす日も近いのだな」


 羽嶋は強く拳を握り、仰木もカラス越しに鼻で笑う。


『仮物の神霊樹などに頼っている、軟弱な怪魔師かいましなど、この世から一層してしまうべきなのだ。全ては、これから先に続く怪魔師の栄光のために』


 破邪術師団の思惑は、佳境に入る。




「よし、ハルピコ。ヒーローってのは、いついかなる時も、努力を怠らない。今は俺たちにできることを探す重要な時期だ。準備はいいか?」


「準備って言われても、何をやるんだな?」


 陽沙ひさとの食事から数時間が経過し、現在午後の四時。

 昼寝から覚めたハルピコは、道場の広間で春夢はるむに聞き返す。


「あの戦いで、ようやくお前の特技を見つけたからな。ずばりハルピコ! お前の特技は、怪魔師と一心同体で戦う――混同鎧化こんどうがいかの術だ!」


「こんどう、がいか? 何だか、難しいんだな~」


「そうよ春夢君。ハルピコ君にも分かる名前じゃないと」


「わしは良いと思うぞ? ちとひねりが足らん気もするがな」


「なんで、先生たちまでここに?」


 春夢とハルピコが取り組む横で、茶菓子と飲み物を持ち込みながら佇む善一ぜんいち零香れいか

 二人はまったり気分で見物していた。


「弟子の成長を見届けるのも、わしの務めよ」


「私も気になってね。春夢君たちの初めての術に。やっぱ怪魔師は、必殺技とか持ってなんぼだしね~」


「少年漫画みたいに、ド派手なものじゃないですよ? まあ、黙って見ててください。というわけでハルピコ!」


「分かったんだな、はるむ!」


 意気込む春夢に対し、ハルピコも視線を放さず。

 そのまま数秒間、互いに見つめ合い。


「あの……春夢君?」


「どうした? 速くやらんか」


「え、ああ、はい! どうしたハルピコ! あの時みたいにドンと来い!」


「え? アレって、はるむが僕に何かをするんじゃないんだな?」


「何言ってんだ? お前の特技なんだろ? 自分を鎧のように変化させて」


「けど僕。一体何をすればああなるのか、分からないんだな~」


「ええ⁉」


 思わぬ誤算に、一発目から練習は足を挫く。

 こりゃ、気が遠くなるなと。傍から見ていた善一と零香は静かに頷いた。

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