第18話 ハルピコの真価
「今日はとんだ日になった。あんの出来損ないの面を見ただけでも、煩わしいというのに……」
「
祖父・祖母が愚痴を零す傍ら、向かいに座る
「あれ? この
察知するや、車両前方のフロントに何かが降り立った。
車は急停止し、シートベルトに身体を圧迫され、祖父が運転士に怒鳴る。
「どうした⁉ 何故、急に止まる⁉」
「人が、上空から‼」
答える暇なく、運転士はフロントガラスを割って現れる手のひらに掴まれ、外に引きずり出される。
「襲撃⁉ おじ様、おば様‼ 速く外に‼」
誠一郎は一目散に、扇を取り出した。
「モノケロ‼」
扇から煽られた強風が、ガラスの破片を巻き上げて外に飛び出す。
襲ったであろう相手は数歩先まで後退し、吹き荒れる風の中心から現れる馬型の使い魔――モノケロを見やりながら、手袋を整えた。
「貴様、何者だ⁉」
「わしらが東日下家と知っての狼藉かえ‼」
祖父・祖母の盾になるよう、誠一郎は相手に向く。
車両のライトに照らされる相手の顔は、ヘルメットに覆われていた。
襲撃した男――
「その齢で、
「だ、誰なのですか貴方⁉」
「何のことは無い。旧世代の栄光に端を発する、ならず者の
「怪魔師の犯罪者……? まさか、巷で騒がれている!」
「分かってくれたのなら、話が速い」
羽嶋のロンググローブに、青い炎が伴った。
蛮行はここでも繰り広げられる。
「
「俺に聴かれてもな」
そこには三頭身の愛らしい風体だった自身の使い魔が、まるで甲冑の胸部プレートのような形に変化し、服の上を覆っていた。
そして白い防具の表面には僅かに自分の使い魔の顔が残っており――ハルピコは防具の面積内を自由に徘徊する。
「何だか面白いんだな!」
「どう考えたら、そんな楽観的になるんだよ⁉ お前、自分の現状分かってるのか? 戻れなくなっちまったらどうする⁉」
「そ、それは困るんだな! こんな身体じゃ、痒い場所も掻けないんだな!」
「あのな~」
困ったように春夢は頬を掻く。
そこで自分の右腕に、何かが張り付いていることに気づいた。
(コレ、試合の時に現れた“ガントレッド”⁉)
そこでやっと、全身の変貌に気づいた。
手、足、胴体――それぞれに部分的な防具が、装着されていたのだ。
皆、一様に白い毛並みに覆われ、しかしその質感は鋼のように固い。
「まさかこれって! ハルピコの身体‼」
「むう! はるむ、危ない気配なんだな‼」
ハルピコの警告に、防具の毛並みが逆立つ。
気づけば
「危ないんだな⁉」
「おごおっ‼」
変形したその身を綺麗に逸らし、ハルピコは回避。
結果、衝撃は春夢の身にもろで直撃した。
そのまま十メートル先まで転がっていく春夢。
「おい、ハルピコ! せっかくそんな防具みたいになってるのに、避けちゃ駄目だろ⁉」
「だって痛そうなんだもん……」
「まあ、それは確かに」
「全然、そうには見えねぇんだよ‼」
続けざま、鵺の雷撃が上空から降りかかり、春夢は危機感を糧に全力で横に逸れた。
「は、速い!」
陽沙は、まるで瞬間移動したかのような春夢の動きに、驚嘆。
当の春夢たちも、身体能力の向上に舌を巻く。
「身体が、いつも以上に過敏に反応する。何だか生気が満ち溢れてくるようだ!」
「僕も元気いっぱいなんだな!」
「それじゃあ、まさか。これが、これこそがハルピコの、“特技”?」
にわかに信じがたい。
現実としてなぞるこの異様な展開は、少しでも冷静になれば夢見心にふわついて感じてしまう。
――が、現に皮膚を撫でる痛みは、絶対に否定のしようもないものだった。
「驚いたよ。アンタ何者だ? 白い降魔書の使い魔が、まさかそんな特性を秘めていたなんてよ」
ダイゴの単語に、春夢は表情は強張らせた。
「お前、どうして白い
「単純さ。俺達のこれからの目的に対し、その使い魔は脅威だとボスが睨んでいてな。アンタもそれを織り込み済みで、そいつの主人になったんだろう?」
「お前達の、“ボス”? 何だよそれ! 組織ぐるみってわけか⁉ 一体何処の!」
「鈍い奴だな~。もしかして新聞とか読んでないわけ?」
ダイゴの隣に寄る鵺を改めて見直し、春夢は遅れて理解する。
「博物館で盗みを働いてた‼ 確か名は『
「ご名答! 正解の御褒美に、名誉ある死を献上してやる‼」
ダイゴは鵺の背に飛び乗り、二人へ牙を向けた。
思わぬ第二ラウンドのゴングが鳴った。
鵺の爪先を春夢はかわし切り、地面には深々と痕が残る。
「俺達を知っての行動にしろ、巻き込まれたにしろ、そんなもんはもはや関係ねえ‼ お前はここで俺たちに喰われろやあ‼」
空中を跳躍する鵺の角に、雷撃の光が灯る。
完璧に春夢たちを捕えて、攻撃は放たれた。
雷撃の軌跡が春夢らを地面へと押し付け、威力に引きずらせる。
「春夢⁉」
「このまま串刺しだあ‼」
『ゴアアアアアアアアアアアア‼』
威力に身動きを封じられた春夢たちの元へ、鵺の二本角が迫る。
――が。
「そう簡単に、やられるかあーーっ‼」
春夢は、鵺の凶器を腕で受け止めた。
「なっ⁉ 鵺の電撃を喰らいながら、耐えやがった‼」
「はるむ~‼ もっとを頑張るんだな‼」
「言われなくとも‼」
そして鵺の角を掴んだまま、春夢は起き上がる。
(馬鹿な‼ 何だよこいつらのパワーは⁉)
全身を雷撃に焼かれているはずなのに……。それを耐え切り、あまつさえ鵺の体躯を持ち上げていく。
そして春夢は息を整え、目一杯、鵺の角を振りかぶった。
「うおおおおおおおおおおおお‼」
背に乗るダイゴもろとも、彼らを隣の屋台まで投げ飛ばした。
陽沙は立ち上がり際、信じられないといった風な視線を向ける。
「明らかに常人の力量じゃない。春夢、貴方一体」
「それを言うなら、呪力に対する防御力だってそうだ。あの使い魔の攻撃に耐えることができた。ハルピコ。お前は大丈夫なのか?」
「ちょっとピリピリするんだな~」
ハルピコの口ひげが、電撃を受けた軽傷からか、波線にくねっていた。
春夢は大丈夫そうだと相槌し、陽沙に手短に告げる。
「きっとこれが、ハルピコの特性なんだ。まさか主と共同で織り成す
「主人と、心身一体となって? そんな使い魔、聞いたこと……」
「俺だって分からない。多分、それを知ってるのは!」
『ゴグアアアアッ‼』
崩れた屋台の先から、単発式の雷撃の弾丸が放り込まれる。
春夢はそのことごとくを腕で弾いた。
「見てから弾きやがったな⁉ それに俺達の呪力を直に触れやがった!」
ダイゴと鵺は忌々しい顔を作り、再び対峙。
「どういう理屈だ⁉ 身体能力まで格段に上げるなんざ‼」
「悪いけど、その質問には答えられない。どうやら君も知らないみたいだし、これ以上の会話はここまでのようだ」
春夢は構えを取り、告げる。
「この蛮行を止めろ‼ 大人しく法の裁きを受けるのなら‼」
「力を得るや、鼻高々か? 悪いがそういうのが、一番気に喰わねえ‼」
ダイゴの意気に、鵺は飛び掛かる。
春夢の腕へ噛みつき、そのまま地面を引きずる形で連れ去った。
籠手の大部分が鵺の牙から保護するが、数本の犬歯が春夢の強靭となった皮膚に食い込んでいく。
「身体が固くなったっていっても、無敵じゃないようだな⁉」
「クソ! 放しやがれコイツ‼」
春夢は持てうる限りの力で殴る。
鵺の横顔や角へ乱雑に打ち込み、鵺は短い悲鳴と共に拘束を解いた。
「おうらあ‼」
しかしダイゴが地に降り立つや、春夢らの腹を蹴りつけた。
引きずられた勢いとの相乗で、数メートル先に転がされ、そこでまた防具の毛並みが逆立った。
「嫌な気配なんだな‼」
「また性懲りもなく呪術を‼」
「今度のは一味違うぜえ‼」
全身、白い閃光で身を包む鵺。
「怪魔師ってのは、使い魔の特性を利用して、いろんな術を一から創り上げる‼」
ダイゴの持つ、鵺へ指示を送る
その破片一つ一つが、ダイゴの周りで浮遊し、飛び交った。
「これから扱う術は、護国聖賢最強と謳われている、
「なに⁉ それじゃあ、
「そこまで答える義理はねえ‼」
破邪術師団がこれから振り撒いていくであろう被害の種。
それが芽吹けば、一体どんな被災に発展するのか。
目的の為に、この祭りの会場を混乱に貶めたのだ。春夢の想像に難くなかった。
「見せてやるぞ‼ 俺たちの創り上げた呪術の威力!」
「ふざけるな‼ 呪術ってのは、人々を厄災や魔の者から守るためのものだ! こんな自分本位な力なんて、俺が打ち砕く‼」
「ならやってみせるんだな⁉ 鵺ぇえーーーーッ‼」
『ゴアアアアアアッッ‼』
鵺が角に稲妻を溜めて、猛スピードで突っ込んでいく。
互いに譲らず、春夢とハルピコは迫る狂気に拳を握る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます