第11話 祭りと、密かに始まる復讐劇
誰もが年に一度の祭りを楽しむ中、これから死地へでも向かうかのような形相の青年がぽつんと一人。
(来てやった、来てやったぞ! 俺を追い出したアイツらの元に‼)
歩幅が、抑えた怒りでぎこちなくなる。
(一体、どういう考えで俺を呼び出したかなんて知らないけど……アイツらから背を向けてたまるか‼ 俺は、俺にだって“価値”が有ることを証明してみせるんだ!)
長年、積み上がっていった家柄への鬱憤。
それは今や積怨となって、
自分を苦しい立場に縛り付け、思い通りにならなければ簡単に放り棄てるその所業。
腐った家訓の根幹を見返さずして、春夢の道に先は無いのだ。
「今日こそ、今日こそ俺は!」
「りんご飴美味しんだな〜。あっちにはお面が有るんだな! 黒面セイバーなんだな‼︎」
「………………」
それはそうと、足元では自分の使い魔が忙しそうに祭を満悦していた。
子供達でごった返す群衆に混じり、屋台のおもちゃをキラキラした目で見るハルピコ。
「これから敵地に乗り込むのに、全く危機感が無い……。やっぱりアイツを連れて来たのは、間違いだったかな」
こんなことならば、零香に預けていればとも思ったが。
(行ったら絶対に反対される。けど今回だけは、どうしても引き下がれない。ここで引き下がったら俺は!)
「ねえママ! このぬいぐるみ欲しい! とっても可愛い‼︎」
「うわ〜離すんだな! はるむ〜、助けてなんだな‼︎」
「ちょ、ちょっと待って! その子は俺の使い魔でーーっ‼︎」
ぬいぐるみのような外見が災いし、子供に誘拐されそうになるハルピコ。
やはりアイツを他人任せにはできない。
経験からすぐさま実感し、春夢はハルピコを救出すると苦言を呈した。
「勝手に離れたら駄目だろ、ハルピコ。これから俺達は敵地に乗り込むんだ。こんなところで油打つんじゃない」
「でもはるむ〜。ここのみんな、楽しそうにしてるんだな〜。悪い奴は居るようには見えないんだな」
「悪いのはあの建物に居るの! 俺へ遠回しに、嫌がらせを持ち込む連中さ。アイツらの態度を懲らしめて、今日こそ俺は過去の自分と決別する‼︎」
「それってなんだか、はるむだけの戦いに感じるんだな?」
痛いところを突かれ、春夢は唸る。
そうして春夢は少しだけ冷静になり、頭を冷やした。
「そう、だな。俺が傷つくならまだしも、直接関係ないお前が戦うのはお門違いか。だったらハルピコ。今日お前は立会人だ。俺の勇姿を見届けるだけでいい。俺の
「僕、はるむが困ってるなら、どんな理由でも助けるんだな。僕が力を貸せば、どんな悪党だって懲らしめてやるんだな!」
意気揚々に、ハルピコは闘志を燃やし。
「だからね〜はるむ」と、視線を屋台へ流す。
「僕、武器が欲しいんだな! アレがあれば僕も黒面セイバーなんだな‼︎」
小さな指で差し向ける、屋台の商品。
それはヒーロー番組で、主役が使う玩具用の剣。
ちなみに価格は一つ、4980円。
春夢は静かに視線を逸らした。
「どうしたんだな、はるむ?」
「アレは俺達にとって高価なものだ。残念だが諦めろ、ハルピコ」
「そんな⁉ だ、だったらアレでどうなんだな‼︎」
そうやって今度は、別の棚。
黒面セイバーの操る巨大ロボット玩具の方をねだるが。
「8600円⁉ 更に高くなってるじゃん‼ 駄目駄目! こんなのは今度な!」
「うわ〜ん! 欲しいんだな、欲しいんだな‼ 僕も黒面セイバーになりたいんだな〜‼︎」
地面で寝転がり、手足をバタバタと振って、駄々を捏ねるハルピコ。
周囲に注目を浴びながら、春夢の心は乗り込む前から挫けていった。
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