第10話 西園寺陽沙
「今年もこの時期がやってきましたね、
「うん。問題無いよ、婆や」
埃一つ無い、整備された廊下を進む女性と老婆。
西園寺陽沙は、付き人である老婆に顔色一つ変えず、首を縦に振った。
桃の色のように淡い髪は、着物の邪魔にならないよう後ろ手に纏めており、成端された顔立ちは、少しの化粧でも十分に映え立った。
日本、
はずだったのだが――。
「心配事がごありですか、陽沙様? 良ければ、婆にお話しください」
付き人である老婆は、陽沙の平坦な態度を前に、何かを察した。
隠し事の通じない老婆に対し、陽沙は小さく息を吐いて溜息。
「あれ」
「あれ?」
一言そうとだけ告げ、陽沙は顎で小さく指し示す。
前方、向かってくる二人の人物へ。
「これはこれは! お久しぶりですね、陽沙ちゃん。おじさんの事、覚えていますかな?」
陽気に話しかけてきたのは、三十代の男。
必要以上に笑顔を差し向け進路を占領する男に、老婆は頭を下げた。
「お速いご到着でしたね、
「いえいえ。この地をお貸し頂けただけでも、感謝しております。あ! ですがもしも、バツ悪く感じておられるのでしたら、あとでお時間よろしいですかな? 式典の種目に、ちょこっと挟みたいものが有りまして」
「式典にですか? それは困ります。今になってなど」
「いえいえ、我々が提示した種目の時間を割けば、済む話ですので。いやはや、面白いことになりますよ」
うんうんと頷く、満貞。
陽沙は背筋をむず痒くさせて、話を逸らす。
「それはそうと、満貞おじさん。隣の子は?」
「ああ、こいつですか。うちのせがれですよ。そしてこれから我ら
満貞に背中を押され、まだ小学生と年若い少年は、前へ出た。
おかっぱの黒髪に、女の見間違えるぐらいの愛らしい顔立ち。
誠二郎は、おすおすと不慣れに、口を開く。
「東日下誠二郎です。よろしく、お願いします」
頭を深々と下げると、誠一郎は満貞の背に隠れていく。
「すみませんね。怪魔師としての才能は確かなんですけど、如何せんまだ社交性に長けていなくて。それでは相談には後ほど。おい、行くぞ誠一郎」
「は、はい。父様」
満貞の背を追うように、誠一郎も去っていく。
そうやって二人が去っていたのを皮切りに、陽沙はまた小さく息を吐いた。
「どうかなさいましたか、陽沙様」
「あの人、図々しくて苦手。私達と対等になった途端、この祭りごとに自分達の就任を報告したいとか、式典に口を出し始めて」
「ですが、護国聖賢の就任は祝ってあげませんと。あの齢でこれからを背負っていくのですから」
「子供の方には同情してる。アレじゃあ、満貞おじさんのていのいい
「少し、飛躍し過ぎではないでしょうか?」
困ったように頬の
しかし陽沙の瞳は、本気で嫌悪感を示していた。
(東日下家、か。
今は道を違えたもう一つの可能性に、一瞬だけ思考を馳せ、陽沙は歩き出す。
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