第9話 かつての誓い

 灰色のぼやけた風景に、人影が揺らめいた。

 夕ぐれ時の公園で、春夢はるむの隣に居た女の子は高らかに宣言する。


『アタシの夢は、人類最強の戦士になること! これだけは譲れないから‼』


『元から、聖憐せいりんの夢を取ろうとする人は居ないと思うよ?』


 次いで、もう一つ、女の子の声が響いた。

 その空間には、春夢以外にも三人の子供が居た。

 自身を含めた幼き日の、友との誓いの光景であった。


浩司こうじはどうなの? アンタはどんな大人になりたい?』


『僕、ですか? 僕はその、今の家系を継いで、お父さんにも認められるような、立派な護国聖賢ごこくせいけんになれればと』


 眼鏡の男の子が、少し自信なさげにそう答えた。

 すると金髪の女の子、聖憐は微妙な表情。


『なんか、普通……』


『ぼ、僕らの家系は、他人から見たら凄い歴史が有るんですよ⁉ それを継ぐことが“普通”って‼』


『だって、なんだか当たり前のことだし~。そう思わない? 陽沙ひさ


『家かどうかは興味無い。ただ、「華火はなび」と一緒に居られれば満足』


『華火って、陽沙ちゃんたち、西園寺家さいおんじけの使い魔の名ですか? あれ、でも確か「九尾きゅうび」って以外、呼ばれてないような』


『数百年も九尾って呼ばれてたら、流石に飽きてくるでしょ? だから私が名を与えたの』


『勝手に大丈夫なんでしょうか、それって』


『なに細かい事気にしてんのよ浩司。そっか~陽沙は使い魔のためか~』


 うんうんと頷き、そして聖憐は春夢を見やる。


『それで春夢。アンタはどうなの?』


 春夢の口元に緊張が過った。

 陽沙と浩司の視線も集中し、ぎこちなく動かす。


「お、俺は」


 心配であった。

 自身の答えが、彼らの語る夢と釣り合うのかどうか。

 そればかりが意思を束縛し、本来持つべき春夢の誇りを上塗りにしていった。


「俺は、一人でも困った人が居るのなら――」


 そこまで口ずさみ、やがて自信を無くし。

 春夢は首を振って、言いなおす。


「俺も、東日下家あさかけの復興に尽力するよ。それが父さん達の望みだから」


 本心を告げることさえ許されない。

 それが延いては、責務に直結すると、子供ながらに春夢は思っていた。

 今となっては、悔いばかりの記憶だった。

 どちらにせよ、それから遠くない日に、春夢の立場は無くなるのだから。


(あの時からか? お前たちの背が遠ざかっていったのは……)


 灰色の記憶に想いを馳せ、春夢はベットから起き上がる。

 そしてカレンダーを見やり、今日、自身がやるべきことを再確認した。

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