第8話 因縁からの招待状
道場で続けれられる、春夢とハルピコの空手稽古。
気づけば夕刻までぶっ通しで続き、道場主である
「むうん‼」
ハルピコ、気合の正拳突きが放たれる。
それも
「やったんだな! 敵を倒したんだな‼」
「すご~い、ハルピコ君! たった数時間でここまでできるなんて~」
「チビ助。もしかしたらお前が、この道場の看板を背負っていくことになるかもな!」
「褒められたんだな~」
二人の賛辞に、ハルピコは照れて舞い上がる。
そんな仲睦まじい雰囲気を、蚊帳の外から静観する
「どうしたの春夢君? じっと黙り込んじゃって」
「大方、一日で自分の記録に辿り着かれたことに絶句しているのじゃろう。意を汲んでやれ、零香よ」
「いや、そういうわけじゃないんですよ」
善一の要らぬ気遣いを一蹴。
「それじゃあ、何が言いたいのよ? 自分の使い魔が頑張った成果なら、ちゃんと主の春夢君が祝ってやらないと」
「確かに、ハルピコの努力は認めますよ。見様見真似とは言え、ここまでやれたんですから。ただ、ただですね」
そして春夢は、率直に思ったことを告げた。
「それは人の許容でやれるから凄いんであって、使い魔の呪力がそれでは話にならないでしょう⁉」
二人はきょとんとした態度から、『あ!』と理解を灯す。
「そう言えばそうよね。ハルピコ君が使い魔なら、当然の結果か」
「この型自体、内包する呪力の成せる技じゃしな」
「でしょう⁉ ハルピコ! お前ちゃんと本気でやってるか⁉ 並の使い魔なら、壁を吹っ飛ばすぐらいできないと駄目だぞ⁉」
「ちょっと待て春夢よ。お前、うちの道場壊すつもりじゃったの?」
「ねえちょっと? ねえ?」と、追求する善一を無視し、春夢は膝を折ってハルピコに問い掛ける。
しかし当のハルピコは、小さなお腹を押さえて。
「頑張ったら、お腹空いたんだな~。はるむ~、何か食べたい!」
「お腹空いたって、お前な~。もしかして、それで力が出なかったとか?」
「関係ないと思うんだな。アレが今できる、僕の全力なんだな」
「そんな、馬鹿な」
春夢は四つん這いで項垂れる。
使い魔といっても呪力だけが全てではない。問題は呪力を通して、どんな『特技』が使い魔にできるかが重要なのだ。
引き出せる“技”や、使い魔自身の“素質”に応じて、主となる
信頼関係を築き、純粋な相棒として戦場を駆ける者。
時に凶悪な技や、当の使い魔を縛る為に、行動に制限をかける者。
集団で行動する使い魔なんかは、それぞれの個体に役割を与える怪魔師だって存在する。
しかしハルピコは根っから何かが違う。
秀でた戦闘能力も、扱うべき『特技』も、お世辞を交えてたって何一つ備わっていないように見える。
(扱える呪力もこの程度じゃあ、人間にだって劣るかもしれない……。一体どうなってる)
自分が唯一、呼び出せた使い魔なのに。
やはり才能とは、こんなところでも立ちはだかってしまうのかと、消沈気味になる春夢。
そこへ、バサバサと羽ばたく音が一向に近づいてくる。
「鳥さんなんだな!」
「伝言鷲。それもこの個体、良いとこの使い魔よね?」
「ああ。
「え⁉」
春夢は驚きで、視線をがばっと上げる。
道場の出入り口、靴箱の上に立ち止まる一匹の鷲型使い魔。
身体の至る所に、甲冑のような防具を纏い、胴体の防具表面には所属する家紋が記されてあった。
「
春夢は恐る恐る近づく。
そして使い魔である鷲は、器用に自身に巻かれた紐を外し、背中に背負っていた書類を春夢の足元へ落とした。
春夢は丸められた書類を拾い、すぐさま広げた。
「『東日下家・護国聖賢就任の儀』、招集のお知らせ⁉」
「え⁉ 春夢君が‼」
零香、並びに善一も両隣で、その書類に目を通した。
そこには、ここ数年宙に浮いた状態であった、護国聖賢の空席に、東日下家が正式に跡取りを立てた旨の報告が書かれており。
そして名を連ねていたのは、本家の春夢ではなかった。
「『
書類に添付された写真には、記載された名の持ち主である顔写真が張られていた。
おかっぱ髪が特徴的な、まだ幼い子供だ。
「この子。確か、叔父の息子、だったと思います。そうか……この子が護国聖賢の跡を」
「春夢君」
並々ならぬ心境を、隣で感じる零香と善一。
春夢自身も分かっていた。自分が護国聖賢の席に相応しくないことぐらい。
長年苦しめてきた肩書きが、まさかこんな紙切れ一枚で、それも一方的に見切られてしまうとは。
「わざわざお知らせのために、春夢君にこんな一報を?」
「なんとも当てつけがましいのう」
無粋だと善一と零香も渋い顔を作るが。
「どうやら。俺への当てつけだけじゃあ、済まないみたいですよ」
書類の全てを読み解き、春夢は下唇を歯噛みする。
「『東日下誠一郎の就任に当たり、その御前試合の相手として、東下日春夢を指名する』」
「そ、それって‼」
三人の間に、居心地の悪い空気が流れた。
怒り、拒絶、呆れ。あらゆる負の感情が混ざり合い、言葉を失う。
「鳥さん、かっこいいんだな~」
『クアーー』
そんな中、好奇心で鷲の使い魔に触れようと頑張るハルピコ。
ハルピコにもまた、最初の試練が近づきつつあった。
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