第4話 怪魔師

怪魔師かいましとは、『怪魔かいまを使い魔として使役し、彼らの“呪力じゅりょく”を以て「呪術じゅじゅつ」を一から構成する者』のことを差す」


 怪魔師の教典となる本を片手に、仰木上宗おおぎじょうしゅうは、基本となる一文を読み上げた。


「怪魔師と使い魔は、相補性な関係だ。怪魔師は使い魔の呪力を以て力を誇示し、使い魔は怪魔師の手綱によって、この世に自身を現出げんしゅつできる」


 それ以上は読む意味も無いとばかりに、教本を閉じ、仰木は鼻を鳴らした。


「不安定な足場だと思わんかね? サーカスの猛獣使いが、ようやく苦労して動物たちに芸を仕込む中で、怪魔師は怪魔に首輪をかけたつもりで使い魔と呼称し、世に不平等な力を振り撒く。なんとも嘆かわしい時代だ。これが『当たり前』とはな」


 そうやって、コンクリートの壁に覆われた部屋を見やる。

 周囲にはソファーやテーブルと、必用最低限の家具しか存在しない。

 そして、仰木の話にあくびを掻く10代半ばの少年と、室内にも関わらずバイク用のヘルメットをかぶる男は、同時に仰木へ視線を寄越した。


「いつにもなく時代錯誤な意見並べてんね、仰木さん。そんなに不満かい? 怪魔師だって、時代的に古い職なんだろう? なあ、羽嶋はしま?」


「起源と言われる陰陽道おんみょうどうがそうであるなら、すでに1500年の歴史を歩んでいる。更に海外の歴史を紐解いていけば、時代はかなり遡るぞ?」


 ヘルメットに指を添え、少年の質問に答える羽嶋という男。

 しかし仰木は異論を唱えた。


「怪魔師が世間に定着できたのは、その長い歴史において20年前と最近だ。言うなれば、怪魔師連中は自身の術を実用的な段階に押し上げるのに、実に1480年の時間を要した。その割には、余りにも安全が担保されてるとは言い難いのが現状だ」


「話がなげえんだよ? 端的に言うと?」


 少年が耳の穴に指を入れながら催促すると、仰木は神妙な顔で告げる。


「怪魔の力を世に知らしめる。安全を担保する必要性などない。逆に枷を外し、存分に使い魔に力を振るわせることこそが、我ら怪魔師の本領であるべきだ。この時代は、力の活かし方をはき違えている!」


 惜しげもなく願望を告げる。

 そこで、ソファーに居座っていた少年のポケットから、アラームが鳴り響いた。


「お? “ボス”から指示だ。次の襲撃地に、目的の降魔書こうましょが有るってさ」


「構成人数は?」


「俺と羽嶋でやる。仰木さんはお留守番だな」


 そう言って、少年は懐からある物を取り出した。

 透き通った黄色の結晶石。

 それはナイフのように鋭利な造形をしており、少年はそれを握り込んだ。

 瞬間、その結晶石は、青白い稲妻を発した。

 発する電気エネルギーは、意思を持つように弧を描き、床へ流れて図面を描く。

 図面は10秒も経たずに完成すると、より強く発光し――何かの手が、ぬるりと飛び出した。

 紛れも無い、獣の手。

 まるで別の世界から現れるようにして、使い魔はその“穴”を通り現出する。


『グルルルルッ‼』


「昨夜、封印から解放されたせいか、ぬえは随分と機嫌が良さそうだな?」


「危険だからとレッテルを押し付けられて、何百年と封印されてたからな。この世間

に鬱憤も溜まってんだろ。安心しろ。お前の捌け口は、このダイゴ様が用意してやっからよ~」


 そう言って、主である怪魔師――ダイゴと名乗る少年の気に乗じて、鵺は歓喜の咆哮を上げる。

 全ては理想の社会を築くため、彼ら破邪術師団はじゃじゅつしだんは次なる行動に出た。

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