第2話 破邪術師団

 日本の街、桜見町おうみちょうの深夜にサイレンが鳴り響く。

 強盗が侵入したとある博物館を中心に無数のパトカーが駆けつけ、その事件の責任を任された警部長は到着するや、一部下に状況を乞う。


「現状はどうなっている? 犯人はまだ立て込んでいるのか?」


「部隊を編制して、鎮圧に当たる所存です。周囲も手筈通りに取り囲み、逃げ道はありません」


「犯人達が狙う目的の物とは何だ? こうも我々に取り囲まれるまで犯行に時間を掛けているとは……どうも引っかかる」


「呼びかけに、応える雰囲気もありません。降伏じゃないとすると、何か別の脱出ルートを確保しているとしか」


 警部長は唸る。

 自分達が取り囲んでいる博物館の立地上、他に脱出ルートが有るとは考えづらい。

 ましてやこれだけの大事にしておいて、速やかに撤収できるなど。


「警部長! 僅かながら、破壊された監視カメラの記録から映像を割り出せました! 博物館のオーナーが言うに、奴らが侵入したフロアには『降魔書こうましょ』の巻物が有ると‼」


「そうか、奴らの狙いはっ⁉」


 瞬間、博物館に閃光が灯り、何かの咆哮が轟いた。


 衝撃が、博物館の窓ガラスを粉々に砕き、取り囲む警察人員に降り注ぐ。


「奴らの逃亡の算段ってのは、怪魔かいまだったのか‼ 儀式で呼び寄せるために立てこもりを!」


「おい! オーナーは、どんな怪魔の巻物を持ち出したんだ⁉」


『とっても恐ろしい怪魔の降魔書さ』


 誰かの声が頭上で反響した。

 次第に音の発信源は、ぐるぐると空を滑空しながら、博物館の出入り口ゲートに止まる。


「カラス? いや、誰かが操っている⁉ やはり強盗犯は、“怪魔師かいまし”!」


『貴方達は運がいい。我らが組織、『破邪術師団はじゃじゅつしだん』の名を世に轟かせる、最初の一幕に招待しよう! 存分に拝むといい‼︎ この濁乱だくらんの世を正す、一陣の稲妻!』


 カラスを介して怪魔師が高々に告げるや、博物館から一つの稲妻が空間を裂いた。

 コンクリートの地面を黒く焦がし、警察陣の前に現れる一体の獣。


『「雷獣・ぬえ」! とくとご賞味あれ‼︎』


「アレが、奴らが呼び寄せた使い魔⁉︎」


 警察人員の誰もが、息をひそめた。

 虎のような風貌と体格を宿す、一体の獣。

 それは黒々とした毛並みを逆立たせ、頭から伸びる槍のような二本角を警察人員に向ける。


 バチバチと、角からは青白い火花が弾けた。


「まずい⁉︎ 全員退却しろおおーーーーーーーーっ‼︎」


『ゴアアアアガアアアアアアッッ‼』

 

 獰猛な咆哮と共に、閃光が、辺り一面を白く染め上げた。

 怪魔・鵺が発する、電光の一振りは、容赦無く人や警察車両を薙ぎ払う。

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