転生魔法医の「あらゆる病魔から全人類を救済する神級回復魔法」
さて、どこから話すか。正直最初の部分はよくある異世界転生ものと同じだから省略したいと思う。
要するに理不尽にもトラックに轢かれてしまい、それが神様の手違いであってうんぬんかんぬんだ。
そんな感じで俺は神様の国にいた。
正直言って意味不明だろう。当然俺も意味不明だ。だけど、死後の世界だから意味不明なのは当然といえば当然だ。
トラックに轢かれるまでの意識はあったのだから、死んだあと神様の国に行くというのも別に間違ってはないだろう。
「裕也、お前は私の手違いで死んだ。だから、せめて次の生ではお前の欲しいものをあたえよう。何なりと言ってくれ」
ギリシア風の大理石の神殿で、俺は神様にテーブルをまたいで問いかけられる。
欲しいもの、改めて聞かれると難しい。異世界に行くならどうせなら何か特別な力が欲しい。それで、現実世界で出来なかったことを成し遂げたい。
「決めた」
何が欲しいってなると難しいけど、何を果たしたいかを考えると意外とすんなり結論はでた。
「なんだ。言ってみろ」
「神様、俺に力をくれ。あらゆる病魔から全人類を救済する、神級回復魔法を」
「承知した。お前の願いは、新たな世界でかなうことになるだろう。よき人生を」
それが俺の選択だった。
生前、俺は医者を目指していた。小さなころに小児がんを患っていた幼馴染の悠里の死が始まりだったと思う。
あの時はとてつもない無力感にさいなまれたものだった。辛かった。
俺は誰かの命を救うことで、何もできなかった自分を許されたかったのかもしれない。
*
転生から25年、俺は文字通りすべての病を治す神級魔法医として国中にその名をとどろかせていた。
いわゆる、神の
世界中の難病患者を治療し、彼らの命を救うことは俺にとっても救済になっていた。
それに、現実ではパッとしなかった俺もこの世界じゃ、神級回復魔法医としてもてはやされる、それも悪い気分じゃない。
「俺は人のために尽くしているし、俺もこの世界にきて少しずつ救われてきているかもしれない」
そう思うと、どんなに忙しくても頑張ろうと思えた。
そんなことを思いながらも医局内を忙しく駆け回っていたある日。
「イーゼル先生、エリオット教授が呼んでます」
「教授が?」
控室でお茶を飲みながら束の間の休息をとっていた俺は突然、教授に呼ばれた。
一体何の用事だろうか。ほかの人間はよく教授室に呼ばれたりするが、俺はそうではない。
だいたい、教授は俺のことをあまりよく思っていないようだ。
それもそうだろう。王国魔法医の権威とされてきた教授がポッと出てきた若者にその座を奪われつつあるのだから。
教授室の前に立ち、トントンと軽く二回、扉をノックする。
扉の向こうから「入れ」という声がしたので部屋に足を踏み入れた。
「やあ、よく来てくれたね。イーゼル」
先ほどまで机に座って資料に目を通していた50ぐらいの男が、教授だ。
レンズの分厚い丸眼鏡をかけていて、白衣からちらりと見える腕は古傷でいっぱいだった。
大学病院に入る前は軍医をしていたとか。
「はい、ところで話とは何でしょうか」
「こいつだ」
「これは……、カルテ?」
俺が渡されたのは一人の患者のカルテだった。
アリア=ロンバルディア、年齢は18歳。病名は、魔力滞留症か。
「イーゼル、お前への依頼だ。西方伯のアクスヌ=ロンバルディア卿がお前を指名してきた」
「ロンバルディア卿がですか? ロンバルディア卿なら優秀な魔法医を囲っていてもおかしくなさそうなんですけど」
魔力滞留症は、全身を流れる魔力が一部に滞留してしまう病気だ。
この病気は進行が進むと死にも直結する病だが、それなりに優秀な魔法医がいれば治療は容易だ。
貴族であり、大領主であるロンバルディア卿がわざわざ自分の抱えている魔法医ではなく、中央の医局にいる俺を指名してきたのか、それがわからなかった。
「さあな、私にも理由はわからん。だが、お前にはできるだろう、イデアル」
そういって教授はテーブルにおいていた紹介状を俺にわたしてくる。
「お前は、この世のすべての人間を、病気やけがの苦しみから救うことができる力を持っている。それはかつて天才といわれたこのエリオット=カテーテルにもできなかったことだ」
「お前は、自分が私に嫌われていると思っているだろう? 私がお前のその力に嫉妬していると」
突然、心を見透かされたようなことを言われ、ドキッとした。
やっぱり、単純な回復魔法では軽く凌駕していたとしても、この辺りでエリオット=カテーテルの凄さというものを感じる。
世界初の生体心臓移植手術、医局からの追放、現代魔法医療では不可能と呼ばれた心筋症の治療とか様々なものを乗り越えてここに立っているのだから。
「確かに、私はお前に嫉妬している。私にもお前みたいに、呪文を唱えて手をかざすだけで簡単にすべての病を治せるような奇跡の力があれば、この手でもっとたくさんの人間を救えたのになってな」
「だが、その力があるのはお前だ。だから、お前がやれ、イーゼル。このぐらい朝飯前だろ」
教授の言葉が徐々に熱くなっていくにつれて、俺の鼓動が速くなっていくのがわかる。
最初は断って、ほかの医者に任せるのも考えた。俺がわざわざ出ていくなんて、そこまでしなくてもいいだろうって。
「俺は知らないうちに驕っていたかもしれません。ありがとうございます、教授」
「そうか」
教授の手紙を受け取る。
自分を頼ってきた人間はすべて救いたい。いや、できるなら全ての人間を救いたい。
それが俺がこの世界にやってきたときの願いだったはずだ。
「サクッと終わらせてきます。では、失礼します」
*
翌日、俺はロンバルディア卿の収める西方の中心都市、フリークス市に向かって馬を走らせた。
この世界にやってきて、そういえば旅はおろか、回復魔法をのぞいて、少しもファンタジーらしいことやってなかったなぁ。
生まれてから王都から一歩も出てないし、外の世界というのは胸が躍る。
田園地帯を貫くように伸びた街道を走るのは気持ち良かったし、こっちの宿に泊まり、立ち寄った街で見たことのないモノを見て、知らないものに触れるのは楽しかった。
そんな感じで数日経ち……
「着いたぞ!」
目の前にそびえたつ巨大な城門、この門をくぐればその先には西方の中心都市であり、この国最大の港町がある。
そう考えるとワクワクが止まらない。
「イーゼルさんですね。ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ」
門のそばに近寄ると門番の男がそういって街の中に案内してくれた。
どうやら、先に俺がこの町に来るという連絡がいきわたっていたのだろう。
門が大きな音を立てて開くとすぐ先に崖があって、階段が崖の下にある街へと続いていた。
フリークスの街は海沿いの崖を削ってそこに作られた街だ。
そんなことは知っていたが……
「こりゃ、すごいな」
そうとしか言えなかった。
「そうでしょう、そうでしょう。この景色がこの町の一番の自慢です」
門番が興奮気味に言うのもわかる。こんな美しい街は現実でもあまりない。
「じゃあ、行きましょうか。主様が館でお待ちです」
「そうだな。連れて行ってくれ」
危うく忘れそうだったが、俺は観光のためにここにやってきたわけではない。
美しい街並みの間を歩いて、ロンバルディア卿のいるという館までやってきた。
「では私はこれで」
案内してくれた男はそういって俺の元を立ち去っていく。
ホントはロンバルディア卿に合うまでついてきてほしかったんだけど……
やっぱり知らない人の家に上がるわけだから緊張する。
「すみません。依頼を受けてきました。イーゼルと申します」
玄関の扉からちょこっと顔を出しながら、恐る恐る声を上げると、奥から40代ぐらいの男がやってきて出迎えてくれた。
「イーゼル先生、よく来てくださいました。私が依頼主のアクスヌ=ロンバルディアです。どうぞこちらへ」
「失礼します」
客間に通された俺はソファーに座ると、メイドがお茶を注いでくれた。
手がガタガタ震えている。慣れてないのか?
「おいおい、しっかりしろ、イーゼル先生が来てるんだ」
「すみません。ご主人様」
「それで、今回はどういったわけで、私をお呼びに? このフリークスにも魔力滞留症ぐらいなら治療できる優秀な魔法医がいるでしょう」
「いやぁ、それがねぇ、いまちょうどうちの街の魔法医は出払っててね。そういうわけで先生に頼んだんですよ」
頭を掻きながら答えるロンバルディア卿。
何か、怪しい。本当にそうなのだろうか?
ロンバルディア卿の受け答えに何となくそんな印象を受けえたが、わざわざ俺をだましたとして何がしたいのがわからない。
「わかりました。とりあえず、娘さんのところへの案内お願いします。とりあえず、容態を見ましょう」
「ええ、ではメイドに連れていかせましょう。イーゼル先生を娘の部屋に案内しろ」
「かしこまりました。では、イーゼル先生、こちらへ」
ロンバルディア卿が席を立つと、部屋の外に控えていたメイドが室内に入ってくる。
「では、お嬢様の部屋へと案内いたします」
部屋にはいいってきたメイドの女はそのまま俺を引き連れていく。
「なぁ、メイド。あんたは俺がどうしてここに連れてこられたのか分かるか?」
「それは、ご主人さまが言っていらしたでしょう。この町の優秀な魔法医はみな今ここにはいないのですよ。」
「いや、でもな……」
「知ってるわ。でもね、そういうことなの。あと私のことはエリスと呼んでください」
「わかった。とりあえず、お嬢様のところに連れて行ってくれ。手早く済ませる」
旅は楽しかったが、いつまでもこの町に滞在しているわけにはいかない。
大学病院にはまだ治療を待ってる人たちがいるわけだから。
「この部屋です。お嬢様は眠っているので起こさないようにお願いします」
「ああ」
音をたてないように扉を開ける。
赤いじゅうたんの敷かれた部屋、そこには机と化粧台とベッドしか家具はなく、貴族の娘の部屋にしては簡素であった。
ベッドのそばまで近寄ると、穏やかに眠る少女が目に入る。
異常なまでに真っ白な肌、魔力滞留症の典型的な症状だ。
とりあえず、病状を見るか。
そうしなければ、何も始まらない。
「聖なる神、アレクビオラーが信徒、イーゼル=ノキアが命じる、病魔の根源をこの目に示せ『突き止める
目を瞑り、彼女の体に手をかざすと呪文を唱える。
探索魔法を応用した、患者の体の様子を見るのに応用特化した、いわゆる「医療魔法」の一種だ。
コイツを使えばMRIいらずだ。
「やっぱりか」
瞼の裏には、少女の体内環境が映し出されている。
左肩の部分で魔力の流れが滞っているのが見えた。長い間放置していたのか、病気はかなり悪化している。
これならば、魔法医としてかなり習熟してる人間でないと治療は難しいだろう。
「じゃあ、治療をはじめるけど、ロンバルディア卿には来てもらったほうがいいかな?」
「もう、治療できるんですか? 普通もう少しかかるかと思ってました」
「そうだな。普通は患者にも負担がかかることをやるから、というか回復魔法って少なからずそういうところがあるからそうだけど」
「俺のはそうじゃないからな」
そう、本来回復魔法はいくつもの手順を踏まなければ完成させることはできない。
魔法といったら「ヒール」と一言いえば体力回復みたいなイメージだった。だけどこの世界のものは違うらしい。
現実の医療行為と同等の準備やら労力が必要だ。
だが、俺は違う。
俺はそんなめんどくさい手順やら、リスクやらを全部すっ飛ばして、確実に100パーセントの確率で患者の病やけがを治すことができる。
それが、俺が神様からもらったチートの正体だ。
「ロンバルディア卿なら、娘を確実に助けてくださるなら、大丈夫とのことです」
念話を使って主と連絡を取ったのかメイドがゴーサインを出してくれた。
「じゃあ、行くか。どうせなら、しっかり見とけ。これが奇跡ってやつだ」
「じゃあ、派遣させてもらいましょうか」
女の返事を聞いて目を瞑る。
「我は、医神アレクビオラーが御子なり。この名をもって命じる。すべてを癒せ。『あらゆる病魔から全人類を救済する
魔法を唱えたとたん、まばゆい閃光が一瞬、フラッシュのように部屋中を駆け巡った。
「はい。終わりっと」
「もう終わったんですか?」
「ああ、とりあえず、ロンバルディア卿のところに報告するとしようか」
「すごいです。この世の人とは思えない」
先ほどまでとはうって変わり、興奮気味な声になる女。
まぁ、どいつもだいたい同じようなリアクションをするし、流石に飽きた。
それに、女が言っているように俺はこの世の人ではない。
「じゃあ、行ってくるから。お嬢様すぐに目が覚めると思うから、調子とか聞いといてくれ。その必要はないだろうがな」
俺はそのまま部屋を出て、館の主がいる部屋へと向かった。
「治療終わりました」
「そうか……」
執務室に入ると、ロンバルディア卿は窓から外を眺めていた。
その眼はどこか遠くを見ているようだった。
「君には感謝をしている。娘を救ってもらって……」
「いえ、俺はそんな」
「いや、君には感謝している。これは君にしかできない仕事だったのだから」
ロンバルディア卿は窓から身を離し、本棚から一冊美しい装丁の本を取り出すと俺の方に見せてきた。
「これは?」
「娘の部屋から見つかったものだ」
ロンバルディア卿からその本を受け取る。
羊皮紙で作られた美しい本、表紙にタイトルは書かれていない。
開いてみるとすぐにその正体が分かった。
「ロンバルディア卿、本当にこれで正しかったのでしょうか」
「私には娘に生きていて欲しかった。本当は正しいのかなんてわからない。だけど、私にはこれしか道がなかったんだよ」
ため息をつく、ロンバルディア卿。
これで本当に正しかったのか。俺はとてつもないミスをしてしまったのかもしれない。
「では、わたくしは失礼いたします。娘さんにはお大事にといっておいてください」
そのまま扉を、出ようとしたとき……
「きゃぁぁぁぁ、誰か、誰かぁぁぁぁ!!」
突然外から悲鳴が聞こえてきた。
なにが起きたんだ。ロンバルディア卿の館のそばで荒事はないと思うが……
悲鳴を聞いた俺はすぐさま走りだす。
館の外に出ると、そこには使用人の人だかりができていた。
「何が、あったんですか?」
「お嬢様が、お嬢様が……」
人だかりの間に割り入っていくと、そこには頭から血を流して倒れているアリア=ロンバルディアの姿があった。
治療をしてから、約30分の間に何が起きたんだ。まさか……
頭の中に一つの可能性が浮かび上がってくるが、俺はすぐさまそれを打ち消して治療に取り掛かる。
大丈夫だ、まだ息がある。ならば助かる。
駆け寄り、すぐさま詠唱を唱える。
するとみるみるうちに傷が治っていく……
「よし、これで大丈夫か」
俺はそのまま彼女を抱いて、ベッドまで運ぶ。
少し眠れば、また目を覚ますだろう。
「まさか、こんなことになるなんて、私は思いませんでした」
アリアに掛け布団をかけながら、メイドのエリスがつぶやいた。
「エリス、アリアお嬢様は一体何をしたんだ」
うつむくエリスに問いかける。
心なしか口調が強くなっていた。
「アリアお嬢様は少し前に目覚められて、私が駆け寄ったところすぐに、走り出して窓の外から飛び降りられました」
エリスの言葉は衝撃的だった。
彼女は病気の症状の慢性的な頭痛や、体を蝕む魔力酔いから解放されたことを確認するや否や、飛び降り自殺を図ったという。
俺は、うっすら彼女がどういう人間か、分かってきた。
「ロンバルディア卿から聞きました。彼女は敬虔なアレクシスの聖人の信者らしいですね」
「もう、聞いていらしましたか」
「なんで、それを俺に治療前に言わなかったんだ」
こうなっては遅い。
どうして、どうして……
アレクシス教徒、彼らの中では自然界のすべてのものに魂が宿るとかんがえられ、それぞれには運命神の定めた寿命があるとされている。
「人生とは死へと続く行列である」
これが、彼らの死生観を端的に示すなら、俺はこういう言葉を使うだろう。
死へと続く渋滞、それは道を外れて追い越すことはルール違反であり、当然逆走などというものは許されない。
俺たち魔法医というものは医神アレクビオーラの力である、回復魔法を使って人々を病から助ける。
しかし、その「回復魔法による医療行為」というのは、アレクシス教徒にとっては、まさに人生道路の逆走であり、許されぬ異端行為だ。
そうしているうちに、アリアの眠っている布団は再び、ゴソゴソと音を立てた。
どうやら、目が覚めたらしい。
掛け布団をまくり、身を起こすアリア。
「また、死ねなかったのね……」
すぐさま、窓の方に目をやると、すでにそこにはアリアが立っていた。
反対サイド、部屋の出口の方には、使用人に連絡を受けたのだろうロンバルディア卿が来ていた。
「なぁ、アリアよ。なぜ、そんなものにしがみついてこれからの人生を捨てようとするんだ」
「お父様。これは私にとって命よりも大切なものなのだったんです。それなのに……」
涙を流しながら声を上げるアリア。
俺は何も言うことができなかった。
「あなたは、私という在り方を否定した。私にとって、信仰が一番の生きがいだった。それだけが救いだった」
泣きながら、彼女はポケットから、真っ赤なルビーのような宝石を取り出す。
「やめろ、なぁ。人生生きていれば、きっとたのしいことがある。いろんなものを経験して、いろんな人であって……」
「お父様にしてもらったこともうれしかった。前のお父さんとお母さんが死んでから、どうしようもなかった私に居場所をくれた」
「だけどね、この信仰だけが、生き残った私と天国のお父さんお母さんとの唯一のつながりなの」
「だから、それを壊されたらもう……私は生きていけないの」
そこまで語ると、彼女は小声で小さく唱えた。
「運命神アレクシスに請う。『
彼女が呪文を唱えると宝石が眩い光を放ちだす。
「ありがとう、父さん」
「待つんだ。アリア、俺はお前を救うために……」
その瞬間、彼女の体が眩い光包まれると、その光は徐々に強くなり、やがてはじけて消えていった。
「アリア……」
部屋の中に取り残されたのは、床に膝をついてうなだれるロンバルディア卿、消えていったアリアの居たところを呆然と見つめるメイドのエリス、そしてありとあらゆる病魔から全人類を救う神級回復魔法を持っていながら、難病でもない病気を治せなかった、一人のチート魔法医だけだった。
*
その後、俺はロンバルディア卿から謝礼をもらい、王都へと戻った。
王都では始末書を大量に書かされたが、ロンバルディア卿の口添えもあって、厳罰な処分をされることはなかった。
この世界じゃインフォームドコンセントとかいうものよりも、位の高い人物の言いようの方が重視されるらしい。
皮肉な話だ。
後から聞いた話だが、あの町の魔法医はアリアお嬢様が回復魔法を使わなければ治療できない病気にかかったのを知ると、部下を残して街を立ったらしい。俺が呼ばれたのは何も知らないからだからだったという。
ロンバルディア卿はというと、娘のアリアが何を考え、何を信じて生きていたのかを知るために娘と同じ「アレクシスの聖人」の教徒になったという。今は敬虔な信者らしい。
俺はというと今も、医局を走り周り、このチート回復魔法で現代魔法医療では治療不可能と言われていた難病を片っ端から治療していた。
皆には感謝され、俺も人の命を救えているという確固たる自信を持てていた。
しかしながら、あらゆる病魔から全人類を救済する神級回復魔法をもってしても、救える人間というのはすべてではなかった。
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