それぞれの思惑 3

「まずはオーウェル子爵家が塩の輸出を止めたことでうちが被った被害の補填を要求する」

「あら、ロイドの件で帳消しにしていただけないのですか?」

「それはおまえが養子として潜り込んできたことで帳消しになっているはずだ。そもそも、それで責任を取るとしたらロイド兄上か父上だ。俺の知ったことじゃない」

「分かりました、被害を補償します。金額についてもおおよそ異論はございません」


 被害について纏めた報告書を差し出すと、リディアはそれを一瞥するだけで同意した。

 俺は極力赤字を抑えるように動いたので、これに関してはたいした金額じゃない。ゆえに、リディアが条件を飲むのは予想通りだ。

 ここで紛糾するようなら話にならない。


 まあ……実際はアストリー侯爵や父上との交渉でかなりの手札を使っているのだが、それはリディアの裏を掻くためにやったことなので請求していない。

 それらは全て、別の部分で請求する。


 という訳で、俺は続けてオーウェル子爵代行が流した流言の危険性について訴える。下手をしたら、ジェニスの町で多くの血が流れていた、と。


「その謝罪として、塩を向こう三年は他の領地へ卸す価格よりも五割引で、こちらの要求するだけ売ってもらうというのでどうだ?」


 俺の要求にリディアがうめき声を上げた。


「いくらなんでも無茶ですわ。それでは利益が出るどころか赤字です」

「オーウェル子爵代行は、その赤字をジェニスの町に強いていたわけだが?」

「それは……たしかにその通りですわね。ですが、それについては補償するのですから、いくらなんでも五割引は大きすぎます。せめて一年のあいだ一割引にしてください」


 リディアは毅然とした態度で交渉を投げかけてくる。だが、先ほどまでの殊勝な態度が演技だったとは思えない。領地を護るために自分の感情を完璧に律しているのだろう。

 上に立つ者としては好ましく感じるが、こちらも容赦するつもりはない。


「他種族の血が流れていれば、ジェニスの町が被る被害は計り知れないものだった。未然に防げたとはいえ、いかに悪辣な行為だったか自覚して欲しいな」

「そこを突かれると痛いですわね。では二年のあいだ二割引と言うことでいかがでしょう?」

「向こう三年は三割引だ。その代わり、こちらが求めるだけ売ってもらう」

「では三年のあいだは三割引。ただし、ジェニスの町で消費する分のみというのは?」


 俺がウィスタリア伯爵領に必要な塩を纏めて購入する可能性を危惧しているのだろう。だが、俺の狙いはそこじゃない。

 そこに食いついたと言うことは、彼女はまだ気付いていないと言うことだ。


「では、向こう三年は三割引。現時点で俺の管理下にある場所で消費する塩に対してのみ適用する。これでどうだ?」

「……? 分かりました、ではそれで」


 リディアは少し怪訝な顔をしたが、俺の提案を呑んだ。先ほどリディアから提案した内容との違いが分からなかったからだろう。

 三割という数値は決して小さくないが、ジェニスの町はそれほど大きくない。ゆえに、町一つの消費量であれば、三割引でも問題なく受けることが可能だと思ったはずだ。

 だが――


「決まりだな。では、次回からこれだけ買い求める予定だ」


 必要な量を記載した書類をリディアの前に差し出す。それを見た瞬間のリディアの表情は見物だった。整った顔が驚きに歪んでいく。


「……なんですかこの量は? いままで買い付けていた量よりずっと多いじゃありませんか」

「ああ。アストリー侯爵領へ送るからな」

「それでは約束が違いますわよ?」


 困惑した面持ち――だが、ここで声を荒げなかったのはさすがだ。


「約束は違えていない。アストリー侯爵領にはいま俺の工房がある。そこで必要とする塩を購入するのも、さっきの取引に含まれるはずだ」


 ジェニスの町で消費するという条件を、現時点で俺の管理下にある場所で消費すると言い直したのはそれが理由だ。


「工房って一体なにを……まさかっ」

「詮索は無用にしてもらおうか。まあ……いまさら詮索しても無駄だからほのめかしたんだがな。それよりもどうする? いまならまだ、口約束だったと反故にも出来るぞ?」


 リディアにはあえて逃げ道を残した。

 いまならごり押しすることも可能かもしれないが、石鹸を量産するには塩が必要となる。オーウェル子爵家と良好な関係を築けるのならそれに越したことはない。


「……一つお尋ねしたいのですが、塩の取引を再開したあとはどうなりますか? オーウェル子爵家にも、美容品を売ってもらえるのでしょうか?」

「言っただろう。工房で塩が必要になる――と。そちらが相応の謝罪をしてくれるのなら、こちらは全てを水に流す。しばらく塩が安く手に入るのなら、それで浮いた費用を量産態勢を整えるために使える。そうすれば、オーウェル子爵領に輸出しても構わない」

「……あなたは、まさか最初から?」


 リディアの深緑の瞳がまん丸に見開かれる。

 答えは否だ。塩を輸出する領地と懇意にすることは理想だが、オーウェル子爵代行とそのような取引をするつもりは全くなかった。

 リディアが感情を律し、領地の利益を優先できる人間だと思ったがゆえの提案だ。


 だが俺はその心の内を声にせず、どうするつもりだと繰り返す。


「完敗、ですわね。……分かりました。その条件でお受けいたします」

「そうか。なら取引は成立だな。なら次だ。おまえがうちに喧嘩を売ってきたことと、この部屋に不法侵入してきたことに対する落とし前もつけてもらおうか」

「うぐっ。お、お手柔らかにお願いいたしますわ……」


 エルフのお姫様がちょっぴり涙目になる。それは演技でもなんでもない素の表情。それを見た俺は、今回の騒動がようやく決着したのだと確信を抱いた。



      ◆◆◆



「――以上が事の次第でございます」


 アレンからオーウェル子爵領との対立についての結末を聞いたウィスタリア伯爵当主――ヴィクターは感嘆のため息をついた。


「さすがだな。まさかあのリリアをやり込めてしまうとは」

「……リリア、ですか?」

「あぁ、リディアの本名だ。彼女はリリア・オーウェルという。彼女は当時の子爵と恋に落ちて嫁いだらしい。ゆえに子爵家でかなりの影響力を持っているのだ」

「権力ではなく影響力、ですか?」

「長寿の彼女に権力を渡すと当主の地位が揺らぐ。ゆえに彼女は権力を放棄しているのだ」


 ジェニスの町では、エルフが大きな影響力を持っている。もしもリリアが権力を放棄していなければ、オーウェル子爵家は当主ではなくリリアが牛耳ることになっていただろう。

 だが、そういった歪な状況は軋轢を生む。ゆえにリリアは自粛しているのだ。


「だが、それゆえに彼女は自由でな。わしも次期当主候補として争っていたころに、彼女に勝負をふっかけられたものだ」

「……なるほど」


 アレンはなにかに気付いたのか、明後日の方向へちらりと視線を向けた。


「父上もずいぶんと振り回されているのですね」

「う、む……まぁ、ほどほどにな」


 ヴィクターは言葉を濁し、若かりし頃に思いを巡らす。

 彼のときはまた違った形だが、リリアに勝負をふっかけられて苦労させられたのだ。ただ、その甲斐もあって彼女に気に入られ、次期当主として強力な後ろ盾を得ることが出来た。


 さきほど、リリアに権力はないと言ったが、その影響力は他の貴族にも及んでいる。そのリリアに気に入られた。ヴィクターが当主に選ばれた決め手が彼女だと言っても過言ではない。


(これも運命か……)

 ヴィクターがある決断を下したのはこの瞬間だった。



 ――その後、アレンを退出させたヴィクターは息を吐いて背もたれに身を預ける。その直後、奥にある隠し部屋の扉を開けてリリアが姿を現した。


「ちょっと、あの子、わたくしの気配に気付いていたわよ?」

「……そのようだな」


 隠し部屋にいるリリアの存在に気付いたうえで、彼女に振り回されていると現在進行形で話題にあげて、ヴィクターの反応を引き出そうとした。

 リリアがいると確信していたのだ。

 アレンの戦闘能力が高いことは聞き及んでいたヴィクターだが、まさか隠し部屋にいるリリアの気配まで察知するとは思わなかったと舌を巻く。


「わたくしの罠を易々と食い破り、あまつさえただの一撃でオーウェル子爵領を窮地に立たせる。あげくは戦闘の技術まで一流? 一体何者なのよ」

「何者もなにも、わしの自慢の息子だ」


 ヴィクターはニヤリと口の端を吊り上げた。

 もしここにフィオナかクリスがいたら思わず吹きだしていたかも知れない。まるで宝物を自慢する子供のような反応がアレンとそっくりだったからだ。

 それを知らないリリアは珍しい反応だと思っただけでそのような感想は抱かず、自慢の息子とかそういうレベルではないと言及する。


「彼だけじゃないでしょ? クリスの魔導具を作る技術もそうだし、フィオナもただ者じゃないわ。ジェインの嫁になんて馬鹿なことは言わないから、一人うちに寄越さない?」

「おいおい、無茶を言うな。フィオナ嬢はアレンの婚約者だし、クリスもアレンにとって必要な存在だ。アレンから取り上げられるはずがなかろう」

「……残念ね。あの子達ならオーウェル子爵家を任せられると思ったんだけど」


 次期当主の補佐や妻ではなく、次期当主として考えている。リリアが想像以上に評価していることを知ったヴィクターは軽く目を見張る。


「クリスがオーウェル子爵領の当主、か……」


 アレンに恩義を感じて慕っている姉。彼女が隣の領地を支配する当主となれば、アレンがウィスタリア当主となった暁には盤石の態勢が整うことになる。

 決して悪い選択ではないと言えるが……


「クリスはそれを望まぬであろうな」

「……ずいぶんと過保護なのね」

「クリスはウィスタリア伯爵家の当主とするために親戚筋から養子にしたのだ。それがこのようなことになり、多少の申し訳なさは感じているからな」

「彼女じゃなくてアレンに対してよ」


 思ってもいないことを言われたヴィクターは軽く目を見開いた。


「まさか、あやつに対して過保護だと言われるとはな。アレンに対する要求が高すぎると、部下に何度苦言を呈されたか分からぬぞ?」

「成長させるために試練を与えるのが過保護だと言っているのよ」

「ふむ。まあ……そうかも知れんな」


 当主となれば、あらゆる問題を自分達だけで対処しなくてはいけない。その頃には尻拭いしてくれる者がいるとは限らない。

 様々な問題を意図的に引き起こし、試練と言うかたちで経験させているのは、いざというときにヴィクターがフォローをするためだ。

 それを過保護と言えば、なるほどその通りだろう。


「だが、ジェインに子爵代行の地位を与えたそなたも過保護という意味では同じであろう?」


 リリアが露骨に不満気な顔をした。彼女の逆鱗に触れる恐ろしさを知っているヴィクターは、なにか失言をしただろうかと焦りを抱いた。


「なんだ、ワシがなにか間違ったことを言ったか?」

「言ったんじゃなくて、言ってないのよ。ヴィクター、あなた。さっきからわたくしの名前を呼ぶことから露骨に逃げているでしょ?」

「なにを馬鹿な」


 ヴィクターは即座に否定して見せた。内心の動揺を圧し殺し、決して表に出さないその心意気は立派だが、簡単にばれる嘘を吐くべきではなかった。


「なら、わたくしの名前を呼んでみなさいよ? 対外的な呼び方じゃなく、よ?」


 リリアがイタズラっぽい笑みを浮かべてそう言ったからだ。ヴィクターは視線を泳がせた末に「リリア……さん」と呟いた。


「違う、リリアお姉ちゃんでしょ?」

「いやいやいや、年齢を考えてくれ!」

「なんですって!?」

「いや、違う、わしの年齢だ! そなたのことではないっ!」


 見た目はいまだに十代で通るが、人間で換算すれば既に――という彼女に年齢の話はタブーである。それを失念していたヴィクターは必死に弁解する。


「お姉ちゃんと呼ばないのなら、あなたの初恋がわたくしだってアレンにバラすわよ?」

「そなたは悪魔か!?」

「身分を偽ってあなたに喧嘩をふっかけたわたくしに『その勝負受けてやる。だけど、僕が勝ったら、おまえは僕のお嫁さんになってもらうからな!』って言ったのよね」

「うおおおおおおっ。止めよ、止めてくれ! お姉ちゃん! ほら呼んだ。呼んだだろ! だからその話だけは止めてくれっ!」


 黒歴史をほじくり返され、ヴィクターは両手で顔を覆って悶絶する。

 伯爵の地位を賜る者達の中でも頭一つ飛び出しているヴィクターが、小娘――の見た目をしたリリアに翻弄されている。その光景をアレンが見れば驚くだろう。


 もっとも、リリアはからかっているだけ。

 一度身内と認めた相手に本気で脅しを掛けることはない。それどころか、意外と身内には甘い。ヴィクターも彼女にはなんどもピンチを救われたことがある。


 ゆえに、リリアには有力貴族の味方が多いのだが……いまのようにからかわれることも多いので、彼女を苦手にしている貴族も多かった。


「ふふっ。今日はこれくらいで許してあげるわ。それで……なんだっけ? あぁ、わたくしが過保護だって話ね。わたくしがあのぼんくらを気に入ってるとでも?」

「ないな。ではどうして代行の地位に就かせたのだ?」

「亡くなった子爵が跡継ぎを決めていなかったから。そして、夫人が自分の息子――ジェインを次期当主にと、強硬な姿勢を取ったからよ」


 ヴィクターは眉を跳ね上げる。リリアの口ぶりからして、周囲の者はジェインが次期当主に相応しくないと考え、他の誰かを跡継ぎにと考えていたのだろう。


 だが、夫を失った子爵夫人が自分の息子に後を継がせたがった。このままでは泥沼の後継者争いへと発展する。そう考えたリリアがジェインに子爵代行の地位を与えた。


「……そなたの本当の目的はそれか」


 今回の一連の報告を見ればジェインに子爵家を継ぐだけの力量がないことは明らかだ。彼が次期当主になれば、大きな失敗をするのは時間の問題だった。


 つまり、次期当主候補であるロイドとアレンの人柄と能力を探るという目的がついでで、リリアの本当の目的は、被害を最小限に抑えた上でジェインを失脚させること。

 リリアにとっては、アレンが勝つことすら織り込み済みだったと言うことだ。


「結局、そなたは今回も勝者という訳か」

「いいえ、あの子にも言ったけど、今回はわたくしの完敗よ」

「完敗……だと? だが、そなたの思惑通りだったのだろう? そうでなければ、切り札の一つや二つは切っていたはずだ」


 リリアは肩をすくめ、フルフルと首を横に振った。


「アレンが罠を食い破ることは予想していたわ。ジェインを引きずり下ろす程度の結果が出た時点で、被害を広げる前にわたくしが介入する予定だったのよ。でも、結果は……」


 当初、アレンは赤字額を抑えることに固執して、反撃する素振りすら見せなかった。ゆえにジェインを引きずり下ろす口実を得られず、リリアはアレンを過大評価していたかもと思い始めた。

 だが、気付いたらただの一撃、あっという間に全てが覆っていた。


 それでも、リリアの人脈をもってすれば、あの劣勢からでも巻き返すことは可能だった。アレンが調子に乗って無茶な要求をしてきたら、切り札を使う用意がリリアにはあった。


 三年間、彼の管理下で消費する塩を全て三割引。ジェニスの町での消費量だけなら妥当だと考えていたが、工房で消費する大量の塩までは計算に入っていなかった。


 ジェインのやったことは許されないが、賠償として支払うには額が大きすぎる。

 ゆえに、リリアは切り札を切ることを考えたのだが――彼はその利益の一部を、オーウェル子爵領に商品を輸出するという形で還元すると言った。


 彼の作った美容品の影響力はあまりに大きい。

 注目の的である商品をオーウェル子爵領へ輸入することが出来れば、両家の不仲説は一瞬で解消され、商品を欲する他の領地への強力なカードを得ることにもなる。


 ジェニスの町と共に、オーウェル子爵領も発展することが出来る。

 謝罪の印と自分達の利益。

 その両方を考えた上で断るという選択はあり得なかった。


「わたくしは切り札を使わなかったんじゃないわ。アレンがわたくしに切り札を使わせなかったのよ。わたくしが設定していた賠償の額を軽く越えていたにもかかわらず、ね」


 だから完敗だと、リリアは少し悔しげに、拗ねた少女のような顔で唇を尖らせた。

 それに対してヴィクターは、自分が越えられなかった壁を息子が飛び越えたと知って歓びと嫉妬を覚える。その想いは感嘆の溜め息となって溢れ出た。


 リリアに次期当主候補として紛れ込ませろと言われたときは困惑しながらも、アレンへのちょうど良い試練になると考えて了承した。その程度だった。


 結果的にアレンは更なる成長を遂げ、ヴィクターは相応の恩恵を得た。


 しかも、隣の領地が荒れることはウィスタリア伯爵領にとっても望ましくない。ジェインの排除に動いたリリアは、ウィスタリア伯爵領にも利益をもたらした。

 自由奔放に動き回って周囲を振り回しつつ、気に入った相手には相応の利益をもたらす。だから憎めないのだと、ヴィクターは苦笑いを浮かべる。


「でも……本当に面白い子ね。若い頃のあなたを見ているようだわ。わたくしも、あの子がどこまで成長するのか、楽しみになってきたわね」


 ヴィクターは眉をひそめる。

 先ほどと打って変わって、その顔に浮かぶ楽しげな感情から不吉な気配を感じたからだ。


「ヴィクターはこれからも、あの子に試練を与えるのでしょう? なら、わたくしにも手伝わせなさい。あの子がどこまで成長するか、わたくしも楽しみになってきたわ」

「冗談はよせ。アレンの成長を見守るのは父親であるわしの特権だ」

「あら、あなたの息子なら、わたくしにとっては甥のようなものじゃない。わたくしにも、彼の成長を促すために、様々な試練を課す資格はあるんじゃないかしら」

「いや、しかし……」


 かつて、リリアに気に入られたヴィクターは散々苦労をさせられた。アレンにそのような負担を強いるわけにはいかないと渋る。


「ヴィクター、よく考えてごらんなさい。あなたですら切り抜けるのが精一杯だったわたくしの試練を、あの子は切り抜けるばかりか反撃すらしてみせたのよ?」

「……ふむ」


 いわれてみればその通りだ。

 リリアの攻撃を防ぎきれば上出来。そう考えていたのにアレンは策を食い破り、リリアを悔しがらせてみせた。それはヴィクターにも、他の誰にも出来なかったことだ。

 アレンならもっともっと自分を驚かしてくれるかも知れないと胸を躍らせる。


「良いだろう、そなたにも参加してもらおう」

「あら、もっと渋るかと思ったけど」

「権謀術数に長けたそなたであれば、ロイドよりもアレンを成長させられるであろう? ただし、あやつがどれだけ成長したとしても、そなたにはやらんぞ? あれは、ウィスタリア伯爵家にとってもはやなくてはならない存在だからな」

「ええ、分かったわ。ウィスタリア伯爵を彼が継いでくれれば、お隣であるオーウェル子爵領も安心だもの。だから、安心してわたくしにも遊ばせなさい」


 最後に本音が出た。

 だが、それはリリアがアレンを気に入った証拠だ。色々と苦労はさせられるだろうが、本当に困ったときには心強い味方になってくれるだろう。


「取引成立、だな」


 二人はそっくりな笑みを浮かべ、これからどのような試練を与えるか話し合っていく。

 影のごとくに黙して控えていたヴィクターの執事だけが、これから無茶な試練を課せられるであろうアレンに哀れみの念を抱いた。

 

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