閑話 フィオナが秘めた記憶の欠片 後編
メレディス兄さんを失ったその日から私の復讐は始まった。
誰が兄さんを殺したのか、どうして兄さんを殺したのかは分かってる。
だけど――証拠がない。
花束とメッセージカードだけじゃ、ランドルがメレディス兄さんを殺した証拠になり得ない。私はそれまでの生活で手に入れた全てを使って証拠を掻き集めた。
その結果、貴族のあいだで兄さんや私の功績のことがちょっとした噂になっていたこと、それが原因で、とある夜会でランドルが恥を掻いたことを突き止めた。
見る目がないと揶揄されたランドルは、メレディス兄さんを殺すと荒れていたそうだ。
ほかにも領民に圧政を敷いている事実や、他領に謀略を仕掛けた疑惑も仕入れることが出来たけれど、それらはどれも貴族であるランドルを破滅させる決定打にはなり得ない。
だから、私はランドルと敵対するフィナー伯爵に接触した。
敵対――というと悪者みたいだけど、どちらかといえば善良な貴族。ランドルに謀略を仕掛けられたとおぼしき領地の一つだ。
私は自分の正体を明かし、フィナー伯爵に自分の集めた情報の全てを差し出した。
「この証拠を見る限り、メレディスくんを殺したのがランドルであることは間違いなさそうだが……彼を失脚させるほどの証拠にはなり得ないぞ?」
「ええ、もちろん分かっています。ですが……ランドルには様々な疑惑があります。そのうちのいくつかは、彼が物的証拠を持っているでしょう」
たとえば裏帳簿。処分してはつじつま合わせの段階で不都合が生じるため、犯罪の証拠になると分かっていても作らざるを得ない。
ほかにも、そういった物的証拠を残しているであろう犯罪の疑惑はいくつもある。
「それをどれか一つでも押さえることが出来れば――」
ランドルには様々な疑惑があるが、全て黒に近い灰色に留まっている。もしその一つが黒だと分かれば、ほかの全てが黒なのだと噂になるだろう。
そうなれば、ランドルは確実に失脚する。
「なるほどな。たしかに決定的な証拠を一つ押さえれば、後はいかようにも出来よう。だが、その一つを押さえることがどれだけ大変なのか分かっているのか?」
「その点には一つ提案があります」
私は胸の前できゅっと拳を握り締めた。
そうして、ランドルを破滅させる計画を口にした。
「……まさか、本気で言っているのか?」
フィナー伯爵は手にしていた資料を取り落とした。
「冗談で、こんなことを言うとお思いですか?」
「……キミは、メレディスくんのためにそこまでするつもりなのか。だが、そんなことをしたとしても彼は喜ばないのではないか?」
「……関係ありません」
メレディス兄さんを殺したのはかつて兄と呼んだ男だった。
だけど……ランドルに兄さんを殺させたのは私だ。
私が養って欲しいなんてお願いしなければ、冒険者として名をあげることはなかったし、私がシャンプーやリンスを作ってとお願いしなければ商人として名をあげることもなかった。
私が兄さんを有名にして、ランドルの不興を買ってしまった。
兄さんを間接的に殺したのは私。だから、せめて復讐をしなければ自分を許せない。
これは兄さんのためじゃない。
大切な人を奪われた小娘の、身勝手で個人的な復讐だ。
「エリス嬢にそこまでの覚悟があるというのなら、もはや止めることはない。私はキミの計画を利用するとしよう」
「……感謝いたしますわ」
久しくしていなかった、貴族としての振る舞いをもって最大級の感謝を示した。
その後、必要な段取りを決めて私は席を立った。
「キミのような行動力のある女性にそこまで慕われていたメレディスくんは、よほど素晴らしい人間だったのだろうな」
「ええ、それはもう」
「……そうか。出来れば生前に会ってみたかった」
「――っ。ありがとうございます」
ランドルに無能と追放された兄さん。
その兄さんが評価されて思わず泣きそうになる。
もう少し早く行動していたら、色々と変わっていたのかもしれない。兄さんは追放なんてされなくて、私は兄さんの側で笑ってる。そんな未来があったのかもしれない。
だけど……全ては遅すぎた。もう兄さんは、この世界のどこにもいない。
だから――
私は宵闇に紛れてランドルが暮らす屋敷に忍び込んだ。
一流の冒険者を自負している私だけど、予定より早く警備の者に見つかってしまった。私が暮らしていた頃よりずっと警備が厳重で、上手くやり過ごすことが出来なかった。
「いたぞ、こっちだ!」
「……もぅ、いちいち相手をしてる時間なんてないって言うのに。死にたくない者は下がりなさい。じゃなきゃ容赦しないよ!」
口ではそう言ったけど、殺す気にはなれなかった。
私が育ったお屋敷で、私が知っている者達もたくさんいる。ランドルのやり方に反感を抱きつつも、先代から仕えている者達がいる。
そんな忠臣達を、私の個人的な復讐で殺すわけにはいかない。彼らを殺さないように細心の注意を払って無力化していった。
だけど――
「……くっ。行かせるかっ!」
「――え?」
無力化したと思っていた相手が背後から襲いかかってくる。私はそれに対処できなくて、脇腹に剣の一撃を受けてしまった。
「こっのぉっ!」
反射的に放った魔術が警備兵の命を刈り取った。忠実に仕事をこなしているだけの罪のない警備兵の命を奪ったことに動揺する。
だけど、脇腹の痛みが酷くなり、そんなことを考える余裕は一瞬で消し飛んだ。不意打ちで喰らった傷は、私が思っていた以上に深いようだ。
「……くっ。あぁ……痛い、なぁ……」
脇腹を押さえて壁により掛かる。
脇腹から血が止め処なくあふれている。早く止血しないと私はここで死んでしまう。けれど、廊下の向こうからは新たな敵がやって来る。私は歯を食いしばって痛みに耐え、復讐の邪魔をする者達を魔術で情け容赦なく――撃ち抜いた。
そして――
「……ようやく報告に来たか。賊とやらは退治できたのだろうな?」
執務室へ乗り込むと、ランドルはこちらを見ることもなくそんなことを言った。どうやら、使用人が報告に来たと思い込んでいるらしい。
「残念だけど、賊ならここにいるよ」
「なんだと? おまえはエリス――っ!?」
ランドルが席を立った瞬間、右肩を魔術で撃ち抜いた。痛みと衝撃でランドルが床の上に転がる。私はそんな彼のもとにゆっくりと歩み寄った。
「うく……っ。ど、どうしておまえがここにいる!?」
「どうして? それはあなたが良く分かってるんじゃない?」
「……な、なんのことか分からない」
「とぼけないで。あと、嘘を吐くつもりならせめて、視線くらいは誤魔化した方がいいよ」
右上に視線を動かしたランドルの片足を魔術で打ち抜いた。
悲鳴が執務室にこだまする。
「ぐあああっ! や、ややっやめろ! 分かった、メレディスのことだな! た、たしかに俺が殺すように命令した!」
「……なんで? どうしてそんな命令をしたの?」
「し、仕方ないだろ! あいつが名声を得たせいで、俺の面目は丸つぶれだ! 貴族としての威厳を維持するには、あいつを殺すしかなかったんだ!」
こんな自分勝手な理由で兄さんを奪われたんだと思うと泣きたくなる。私は血が出るくらい唇を噛んで、ランドルのまだ無事な方の腕も打ち抜いた。
「ぎゃああああああっ! やめろっ! こんなことをしてどうなるか分かっているのか!? おまえはいまやただの平民、それが貴族を襲撃してるんだぞ!」
「そんなの、関係ないよ」
「か、関係ない、だと?」
「あなたがメレディス兄さんを襲撃した状況証拠はある。あなたが夜会で叫んだ内容なんかを纏めて、とある貴族に渡したの」
「そ、それがどうした? 決定的な証拠は見つからなかったはずだ。その程度の状況証拠で、この俺を失脚させられると思っているのか!」
「出来ないでしょうね。だから――」
私は廊下を走る足音を耳にして身構えた。
その直後、見覚えのある執事が部屋に飛び込んでくる。
「大変です、旦那様――旦那様にエリス様!?」
私の前に倒れ伏すランドルを見て、執事は顔色を変えた。
「こいつが賊だ! いますぐ助けを呼んでこい!」
「ダメだよ。あなたが部屋を出た瞬間、私はランドルを殺すよ」
執事が反応を見せるより早く、私は魔術でシステムデスクを打ち抜いた。その威力を目の当たりにしたランドルが息を呑み、執事はその身を硬直させる。
「……分かったら、私の指示に従いなさい」
「そ、それは……」
「従わなければ、ランドルを殺すよ」
執事はゴクリと生唾を飲み込んだ。それから無残な姿になったシステムデスクをちらりと目の当たりにすると、「かしこまりました」と頷く。
「それじゃ、なにが大変なのか報告してくれるかな」
「――そんなの、おまえのことに決まっているだろう!」
ランドルが声を荒らげるが、執事はいいえと首を横に振った。
「いまこの屋敷に、フィナー伯爵が騎士を伴って参りました」
「なに? もしや逆賊エリスを捕まえに来たのか!?」
この状況でそんな風に考えられるなんて、おめでたい思考をしているね。思わず笑い出しそうになるけど、私はそれを我慢して報告を続けさせた。
「た、たしかに、フィナー伯爵はこの屋敷に忍び込んだ逆賊を捕まえに来たとおっしゃいました。ただ、騒ぎに乗じて強引に屋敷に押し入ると、隠し部屋を見つけて、中に……っ」
「な、なんだとっ!? 馬鹿な、あそこになにがあるか分かっているのか!?」
ランドルの顔色が変わった。その隠し部屋に不正などの証拠を保管してあるのだろう。これで、ランドルは間違いなく破滅する。
「き、貴様! エリス! これはおまえの差し金か!」
「もちろん、私の差し金だよ」
フィナー伯爵には、あらかじめランドルが証拠を隠しそうな場所を伝えてあった。実際に証拠を見つけてくれるかは賭けだったけど、これで私の目標は達せられた。
「フィナー伯爵には、兄さんの開発したシャンプーとリンスの量産、販売も委託している。もうすぐ、貴族達のあいだに兄さんの名声が轟くよ。そうしたら、あなたはどうなるのかな」
様々な疑惑は限りなく黒になり、いくつかは確実に黒。そして、無能と追放した相手は貴族達に名を轟かす。ランドルの名前は地に落ちるだろう。
それが分かったのだろう。ランドルの顔が絶望に染まった。
「な、なにが望みだ?」
「私の望み?」
「そうだ。俺の権力を使っておまえの望みを叶えてやる! だから、それで今回の件は手打ちにしよう! どうだ、良い考えだろ!」
「……だったら、メレディス兄さんを生き返らせて」
ランドルが絶句するが、私は感情にまかせて捲し立てる。
「私は兄さんと二人で暮らせればそれで良かったのに、あなたが私の幸せをめちゃくちゃにした。返して! メレディス兄さんを返して、いますぐに!」
私は感情にまかせて捲し立て、魔術でランドルの無事な手足を打ち抜く。
「いだいっ、いだいっ! やめろ! やめてくれぇっ!」
「……やめろ? 後悔するくらいなら、メレディス兄さんを殺さなければ良かったんだよ。いまさらやめろなんて……無理に決まってるじゃない!」
私はランドルの心臓を指差した。
その意味を理解したランドルの表情が絶望に染まりゆく。
「……ま、まさか、俺を殺すつもりなのか!?」
私は応えない。代わりに魔力をゆっくりと練り上げて、ランドルに絶望を与える。
「ま、待て! 殺したらそれで終わりではないか! なんのために俺を失脚させた!」
「もちろん、絶望させるために、だよ」
本当なら、失脚させた後、絶望のどん底に落ちるのを待ってから復讐を為し遂げたかった。けれど、それは不可能だ。
だから、失脚が確定した絶望とともに終わらせる。
いまは追い詰めているけどランドルは油断ならない。有力な貴族であることには変わりないし、ここで見逃せばいつか巻き返すかもしれない。
そんな可能性は、わずかだって残してあげない。
「お、俺はお前の兄なんだぞ!」
「なにを言ってるの? メレディス兄さんならともかく、あなたを兄だなんて思ったこと、ただの一度だってないよ」
「……っ。待て、分かった! 謝罪する。俺が悪かった! だから――」
「さようなら。あの世で兄さんに詫びなさい」
恐怖に歪むランドルの顔を目に焼き付けて、私は復讐を完遂させた。
動かなくなったランドルから目を離し、悲しげな顔をした執事へと目を向けた。
「……どうして、途中で止めようとしなかったの?」
「話のやりとりから、おおよその事情を察したからです。いつか、このようなことになるのではと予想しておりました。旦那様は少し感情に走るきらいがありましたから」
「……そう」
執事のやるせない表情を見て、ランドルのやり方に不満を抱いていたのだと理解する。
「色々大変だと思うけど、フィナー伯爵が上手く取り計らってくれるはずだよ。領民も圧政から解放されて感謝するんじゃないかな」
「そう、ですか……あなたは復讐に囚われても、その本質は変わっていないのですね」
執事が悲しげな顔で頭を振る。私はなにか言おうと口を開いたけれど、そこからあふれたのは言葉じゃなくて真っ赤な血だった。
「エリスお嬢様!?」
「……ちょっと油断したの。この屋敷の警備兵達は優秀だね」
「すぐに手当てをしませんと!」
執事が駆け寄ろうとするけど、私はそれを拒絶した。
「いいの。私の復讐は終わったから、もういいの」
「ですが……」
「兄さんのいない世界に未練はないよ」
私はそう言って、ふらつく身体に鞭を打って歩き始めた。
「エリスお嬢様……どこへ?」
「死に場所くらいは選びたいかな、って」
ランドルと同じ部屋で死ぬなんて悲しすぎる。
せめて最期くらいは、兄さんとの思い出がある場所で迎えたい。
「……もう、どうにもならないのですね。私になにか出来ることはありますか?」
「じゃあ、フィナー伯爵に予定通り私をランドルの共犯者として裁くように伝えて。それで、ランドルの罪は確実になるから」
私はランドルの命令でメレディス兄さんを裏切った。けれど、それに対する報酬が支払われなくて、怒った私は雇い主であるランドルを殺した。
物語としては三流も良いところだけど、現実にはそれくらいの方が分かりやすい。
「いや、それには及ばない」
不意に第三者の声が響いた。
もう他人の気配に気付かないほど自分が弱っていることを自覚しながらも視線を向けると、そこには騎士を率いたフィナー伯爵がいた。
「内通者である賊は既にこちらで断罪しておいた」
「……それは」
私ではなく、架空の罪人を仕立て上げたと言うこと。
でも、それだけじゃ証拠としては弱いはずだ。
「心配するな。ランドルの名は確実に地に落ちる。それだけの証拠を掴んだ」
「……そう、ですか」
安堵して倒れそうになるけど、私は最後の力を振り絞って踏みとどまった。
「エリス嬢のおかげで、我が領地の雪辱を果たすことが出来た。なにか望みはあるか?」
「もし可能なら、私の遺体は兄さんと同じお墓に埋めてくれると嬉しいです」
フィナー伯爵は怪訝な顔をして、私の脇腹を見て痛ましげな顔をした。
「……必ずそのようにしよう。我が家名に懸けて誓う」
「ありがとう」
私はフィナー伯爵の横を通って部屋を後にした。
血を失いすぎたんだろう。視界が霞んで感覚がなくなってくる。歩くのも億劫だけど、それでも私は夜の廊下を必死に歩き続けた。
「はぁ……はぁ……っ。もう、少し、あと少しだけ」
必死に歩いてたどり着いたのは中庭。兄さんと初めて出会い、一緒に過ごした思い出の場所。
私はよたよたと歩み寄り、兄さんがよく座っていた木陰にへたり込んだ。
脇腹から溢れた血が、スカートを真っ赤に染め上げていた。だけど、もう私にはそれを不快に思う感覚も残っていない。
「……兄さん、ごめんね」
周囲が見えなくなって、意識が遠くなっていく。そんな私の目の前に、メレディス兄さんの姿が浮かび上がった。私は兄さんに向かって必死に手を伸ばす。
兄さんは、いつもと同じように困ったように笑ってる。
ごめん、ごめんね。
恨んでる、かな? 恨まれて当然だよね。
私がいなければ、ランドルに虐められることもなかったよね。屋敷を追放されることもなければ、暗殺されることだってなかったよね。
私が纏わり付かなければ、兄さんはきっと普通の人生を送っていたはずだよね。
でも……だけど、ごめん。
もう一度やり直せたとしても、私はきっと兄さんに纏わり付くよ。もちろん、ランドルになんて負けない。次はきっと兄さんを護ってみせる。
だって、私は…………わた、し……は…………
私――フィオナ・アストリーが前世の記憶をハッキリと取り戻したのは、クリス・ウィスタリアのデビュタントで、バームクーヘンを食べたときだった。
料理人が作るような完成された味じゃない。けれど、この優しい味はメレディス兄さんが作ってくれたバームクーヘンそのものだ。
それになにより、フィオナとして生を享けてからの私がバームクーヘンを食べるのは初めてだし、周囲の者達にもバームクーヘンを知る者はいなかった。
だから私は思い切って、バームクーヘンを作ったのが誰かクリスさんに尋ねた。
デビュタントの主役はクリスさんで、彼女の発表したお菓子なのに、誰が作ったのか尋ねるなんて、後から考えれば失礼だったと思う。
だけど、彼女は少し驚いた顔をした後、アレンという弟が作ったのだと誇らしげに笑った。
アレン……その人がメレディス兄さんなのかな?
分からない。
けど、もしもアレンが兄さんなら、自分がエリスであることを打ち明けよう。
そして、もしも兄さんが私を憎んでいるのなら、それを甘んじて受け入れる。でも、だけど、もし、もしも兄さんが私を恨んでいないのなら今度こそ。
そんな覚悟を秘めてアレンにお見合いを申し込んだ。
そして……
「エリス……なのか?」
「そうだよ、久しぶりだね、兄さん」
やっぱり、アレンがメレディス兄さんだった。その事実に私は歓喜して、だけど同時に凄く凄く不安になる。兄さんが私を恨んでるかもしれないって。
だから――
「いいんだよ?」
「い、いいって、なにが?」
「エロ爺の慰み者になるくらいなら、兄さんに抱かれた方がマシだもの。どうせ跡継ぎは必要だし、ときどきならこの身体、好きにしても良いよ?」
もし私を恨んでるのなら、この身をむちゃくちゃにされたって構わない。エロ爺の慰み者にされるのを望むのなら、私はそれを受け入れる。
そんな内心はひた隠しにして、政略結婚のためにならなんでもすると提案した。
「ねぇ、兄さん。真面目な話、私がエロ爺の慰み者になっても平気なの?」
「それは……あんまり平気じゃないけど」
そのときの私の気持ちは言葉なんかじゃ言い表せない。
兄さんは私を恨んでなんていなかった。それどころか、私が不幸になるのは平気じゃないって、そう言ってくれた。嬉しくて、嬉しすぎて、涙があふれそうになる。
だから私は兄さんが望まないのならいつだって破棄できる、だけど兄さんが望んでくれるのなら……そんな想いを込めて仮の婚約を持ちかけた。
「……分かった。時間稼ぎで婚約してやる」
「わぁい、ありがとう兄さん、だーいすきっ!」
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