第2節 「らしさ」の正体

著作に作者の「くせ」が現れるとするなら、文体だ。私は、伊藤氏の文体特徴は大きく分けて

1.比喩表現

2.倒置法

3.ひらがなの多用

この三点にあると考えている。

1、2に関しては、実際に三万字程度の短編、The Indifference Engine

(以下、本作と記す)中に、比喩表現が21箇所、倒置法が17箇所確認できた。

3についても、wecサイト、文体診断ロゴーンにおいて解析したところ、結果は「読みやすく、ひらがな出現率が多い」となった。

なお本作で特徴的なひらがなは「ぼく」「~たち」「子ども」「きみ」。人を示す言葉が多いという印象を持った。


○文章表現

本作で伊藤氏は文末に?を使用していない。登場人物が疑問を持っていないわけではない。また、本作はルワンダのツチ族とフツ族の問題をモデルにしたと考えられる。物語でも、シュルミッケドムという国で、ゼマ族とホア族の民族紛争が大きな影響を及ぼしていることが核となっている。民族紛争がテーマとなっていたため、死体の登場も多い。それでいて感情の発露はあまりないため、淡々としたイン諸王を持たせる印象だ。


○スターシステム

同じ作者の別作品に、同一と思われる登場人物がいる。手塚治虫氏のヒゲオヤジは最たる例だ。伊藤氏も、明言はされていながそうとれるキャラクターは本作に登場している。本作において、ぼくを助けたアメリカ兵は、「虐殺器官」に登場するウィリアムズとみて問題ないだろう。

実際に「ウィリアムズ」と名乗っており、口調も大きく違わない。「コンバットメディカルの世話になっている」との言葉は、ぼくがホアとゼマの認識ができなくなったように、ウィリアムズも悩まなくていい処置をされている(虐殺器官の世界では米兵のスタンダード)ことが大きな理由である。

また、本作のウィリアムズと虐殺器官の世界線が同じとするならば、伊藤作品の時系列は下記となる。


本作

(シュルミッケドムという一国での内戦を描く)

→虐殺器官

(各地で紛争が起きている)

(紛争の原因が判明)

(最終的に、メイルストームと言われる事態が起きたと思われる)

→ハーモニー

(命、健康を管理している)

(過去にメイルストームという事態がおきたため、その反省から現在のような世界のなりたちとなった)


本作と虐殺器官においては、米国は兵士に「悩まなくてよい処置」をほどこしている点が共通している。

また、虐殺器官をハーモニーは、続き物、同じ世界と伊藤氏が過去のインタビュー記事で明言している。


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