ずっと一緒に 後編
翌日。
私はかばんさんに呼ばれて研究室に行く。
「お待たせしました、イエイヌさん。結論を言うと貴方のご主人様は助かります。」
「本当ですか!?」
私はかばんさんに詰め寄る。ただ、その時のかばんさんの表情は暗いものだった。
「ただ、その方法なのですが・・・。」
「何でもいいです!私にできる事なら何でもします!だから、教えてください!その方法を!!」
「・・・わかりました。お話します。」
かばんさんが一呼吸入れてから話す。
「貴方のご主人様をこのジャパリパークから出すことです。」
「えっ?」
私は何を言われたのか分からなかった。
ご主人様をジャパリパークから外に出す・・・。つまりは、ご主人様とまた離れになるということ?
「・・・どうして?」
「それは私が説明するのです。」
「博士・・・。」
「かばんに話をさせるのは酷なことなのです。こういうことは私たちに話をさせるのです。」
「そうなのです、私たちに任せるのです。」
そう言って博士と助手さんが説明してくれた。
ご主人様の体調不慮の原因はこのジャパリパークにあるサンドスターが原因だという。
サンドスターは私たちフレンズには恩恵を授けるがヒトには害を与える。
その一例がセルリアンなのである。
直接的原因はセルリアンがヒトを襲うことからジャパリパークからヒトが居なくなったが当時のヒトの中には体調を崩す者も現れたということだ。
「でも、ジャパリパークから離れてサンドスターの影響を受けないところまで行くことが出来たら体調は回復したという記録があるのです。」
「・・・でしたら!体調が治ったらご主人様には帰ってきてもらえば・・・!」
「それは無理なのです。」
博士が首を振る。
「昔、体調が回復したので戻ろうとしたヒトも居たそうなのですが拒否反応を起こしてしまったのです。」
「そんな・・・。」
私は考える。どうやってご主人様と一緒に居られるか・・・。
「なら、私もご主人様と一緒にここを出て行きます!そうすれば一緒に・・・。」
「駄目なのです。」
「どうして!?」
「私達フレンズはサンドスターの供給が止まればこの体を維持できなくなってしまいます。そうなればただの動物となり結果的に消えてしまうのです。」
「そうなれば、結局お前の主人であるヒトは悲しむことになるのです。それはお前の望む結果なのです?」
「それは・・・。」
私は何も言えなくなる。
ご主人様と離れるのは嫌だ。
でも、ここを出ないとご主人様が死んじゃうかもしれない・・・。
だけど、離れてしまえば二度とご主人様似合うことは出来ない・・・。
「私、どうすれば・・・。」
そんな私の肩にかばんさんが手を置く。
「それはイエイヌさん達が決めないといけません。どんな選択をしても後悔はするでしょう・・・。でも、自分で決めないとその後悔は物凄い大きさになってしまいます。だから、最後まで話し合って考えてください。」
「かばんさん・・・。」
「僕にできるのはこれくらいです。申し訳ありません・・・。」
「・・・いえ、ありがとうございます。」
私は家に戻る。
ご主人様にどんな顔をすればよいのかわからない。
「ご主人様、戻りました。」
「イエイヌ!」
「キャ!?」
ご主人様が帰ってきた私を抱きしめる。
「どこに行っていたんだ!ものすごく心配したんだぞ!」
「・・・ごめんなさい。」
私はご主人様の胸に顔をうずめる。
「イエイヌ?」
心配そうに声を掛けてくれるご主人様に私は顔を上げることが出来ない。
「・・・とりあえず、家に入れ。話はその後だ。」
「はい・・・。」
その後、私はかばんさんに言われたことを話す。
ご主人様は最後まで私の話を聞いていてくれた。
「イエイヌはどうしたいんだ?」
「私はご主人様と一緒に居たい。でも、ご主人様が死んでしまうのは嫌だ・・・。」
「そうか・・・。」
「ねぇ・・・。ご主人様はどうしたらいいと思う?私、わからない・・・わからないよぉ・・・。」
涙があふれてくる。
ご主人様が居なくなった家にまた一人でいないといけなくなってしまう。
こんなことならご主人様と再会するんじゃなかった。
そうすれば、こんな気持ちにならなくて済んだのに・・・。
「イエイヌ・・・。」
ご主人様は私を抱きしめてくれる。そして、私の顎を持ちあげて口づけをする。
私は驚きで目を見開く。
「ご主人様・・・?」
「俺はお前と離れたくない。もう、お前しか俺には残っていないんだ。ここを出て少しばかり長生きできたとしてもお前が居ない世界には何の価値もない。」
そして、ご主人様は私を強く抱きしめる。
「お前にはつらい思いをさせるだろう。でも、どうか俺の我侭を聞いてくれないか?」
「ご主人様・・・。」
私はご主人様の想いが嬉しかった。
「はい・・・。私はご主人様が一緒に居てくださるのならどんな悲しいことも乗り越えられます。最後の時まで私と一緒に居ていただきますか?」
「もちろんだ・・・。」
そう言ってご主人様は私に口づけをする。
そうして、私たちは一つになった。
翌日、私は毛皮を脱いだ状態で寝ていた。
ご主人様も毛皮を脱いでおり寒そうだ。
「でも・・・。」
こうやって肌を重ねると温かい・・・。
ベッドの上でご主人様は私に愛を囁いてくれた。
「この思い出があれば私は大丈夫・・・。」
ご主人様が死んでしまっても私はこの家で貴方の思い出と共に過ごそう・・・。
私は涙が溢れそうになるがこらえる。
その時だった。
「イエイヌさん!お知らせしたいことが・・・!?」
かばんさんと博士と助手さんが家に入ってきた。
しかし、私たちの姿を見るとかばんさんは顔を真っ赤にしてドアを閉めてしまう。
「し・・・失礼しました!!!」
バン!!!とドアが壊れるのではないかという強さで閉められる。
「かばんさん!」
私は急いで毛皮を着て呼び止めるのだった。
「・・・さっきは、えっと・・・。すみませんでした。」
「いや、こちらも悪かったな・・・。あんな姿を見せて・・・。」
かばんさんの顔はいまだに赤い。
そんな私たちの顔も赤かったが・・・。
「あれが交尾というものなのですね・・・。」
「興味深いです。ぜひ、今度は私たちの前でやってもらいたいのです。興味があります。」
「嫌です!」
博士と助手さんの言葉に私は否を唱える。
「何故なのです?愛する者同士の交尾はみんなを幸せにするのです。お前も幸せ。私も幸せ・・・。良いではないですか。」
「ケチなのです、イエイヌ。今からでも交尾するのです。我々は賢いので。」
「意味が分かりません!?」
私の顔はもう熱々で煙が出るのではないかと思うほどだった。
「博士、助手さん。その辺で・・・。」
「そうなのです。こんなことを話しに来たのではなかったのです。」
「ですね。私としたことが冷静さを欠いていました。」
かばんさんの言葉に博士たちはそれぞれ居住まいを整える。
「それで、用とは何だ・・・えっと、かばん?」
「はい。実はもう一つ方法があるんです。」
「・・・本当ですか!?」
私がかばんさんに詰め寄るとかばんさんが頷く。
「はい。ただし、そうなるとイエイヌさんの主人はヒトではなくなってしまいます。」
「どういうことだ?」
それからかばんさんが説明をしてくれた。
サンドスターはヒトに害を及ぼす。しかし、ヒトではなくフレンズになればサンドスターを受け入れることが出来てここに居られるということだ。
「・・・なるほどな。」
「ヒトであることを捨てるのは簡単ではありません。でも、それさえクリアできれば・・・。」
「いや、俺の気持ちはもう決まっている。」
そう言ってご主人様は私の手に自分の手を重ねる。
「俺はここで暮らす。例え人間でなくなっても構うものか。」
「・・・いいのですね?」
「ああ・・・。俺は俺の愛したイエイヌと一緒に居られるのなら人間であることを捨てるさ。・・・。」
「ご主人様・・・。」
私はご主人様を抱きしめる。
「わかりました。では、これを・・・。」
そう言ってかばんさんが渡したのはサンドスターの塊だった。
「これを飲めばあなたはヒトではなくなります。覚悟は良いですね。」
「ああ・・・。」
そうして、ご主人様はサンドスターを飲み込む。
それから10年後。
「お母さん!私、かばんさんの所に行ってくるね!」
「気を付けるのよ。」
そう言って娘がかばんさんの所に向かう。
かばんさんは幼いフレンズたちに勉強を教えてくれている。
「今日も元気そうだな、娘は・・・。」
「そうね、あなた。」
主人はそう言って娘を見る。
「まさか、お前との子供が出来るとは思わなかったな・・・。」
「はい。私もビックリしました。」
主人は“ヒトのフレンズ”となり、すっかり元気になり私の横に立っている。
そして、私たちは愛を重ねいつしか私は妊娠していた。
それはこのジャパリパークでも初めてのことで博士と助手さんが私を観察するために一緒に居たものだ。
「まあ、俺は嬉しかったけどな・・・。」
そう言って主人は私にキスをする。
「あなた、私は幸せです。」
主人を待って一人で過ごした家には今では温かい家族がいる。
友達という関係ではなくなったがそれ以上に大切な家族という関係になり大きな幸福を抱えている。
隣には大好きな主人と愛する娘がいる。
これほど、幸せなフレンズはいないだろう・・・。
私は主人の手を取り微笑むのだった。
ただキミと一緒に居たい わっしー @kemkem9981
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