ずっと一緒に 中編

俺が目を覚ますと家にイエイヌはいなかった。

「イエイヌ?」

そう呼びかけても返事は無い。

部屋に響くのは俺の声だけだった。


家を出て二日。

私はかばんさんがいる研究所に急いだ。

「ご主人様、大丈夫かな?」

家に残したご主人様のことを思うと胸が痛む。

「でも、このまま何もしないでいられなかった・・・。」

ご主人様が居なくなったら私は今度こそ駄目になってしまう。

ご主人様と再会して一緒に暮らして、一緒に遊んで・・・。

優しく頭を撫でてくれるご主人様。

私の紅茶を美味しいって飲んでくれるご主人様。

一緒に暮らしてご主人様の温かさに触れてしまった今となってはそれを失ったときのことを思うと気が可笑しくなりそうだ。

なら、例えどんなにつらい目に遭ったとしてもご主人様を助けられるのなら乗り越えてみせる。

「ご主人様・・・。」

ご主人様を思いながら一歩、また一歩と歩を進める。

家を出て三日後。

遂にかばんさんのいる研究所に辿り着く。

「かばんさん!いらっしゃいますか?かばんさん!」

そう呼びかけると研究所の扉が開く。

「あれ、君はイエイヌさん?」

「かばんさん!助けてください!私のご主人様を助けてください!」

「えっ?」


「イエイヌさん、落ち着いた?」

そう言ってかばんさんは私にお茶を出してくれる。

「はい、ありがとうございます。」

「いろいろ話を聞いていいかな?」

かばんさんの言葉に従い私は初めから話をする。

「・・・なるほど。外から来た“ヒト”が今は病にかかって・・・。」

「そうなんです!かばんさんならなにかご存知かと思いまして!!」

期待を込めてかばんさんを見る。

「そうですね・・・。心当たりはあるのですが・・・。」

「それは何ですか!?」

「・・・いえ、もう少し調べないといけません。すこし、時間をくれませんか?博士と助手さんにも聞きたいことがありますので・・・。」

「どれぐらいかかりますか?」

「一日程時間を下さい・・・。」

「一日・・・。」

私は家に置いてきたご主人様のことを思う。

「イエイヌさんが焦る気持ちも分かるけど僕に任せてくれないかな?」

「・・・わかりました。」

「お部屋は用意するからゆっくり休んでね?」

そう言ってかばんさんは私を部屋に案内した後、研究室にこもるのだった。

「ご主人様・・・。」

私は不安な気持ちを抑えるように胸に手を置く。


「やっぱり・・・。」

僕は過去の記録を読み返していた。

その内容は僕の記憶通りのモノであり、イエイヌさんにとっては凄く残酷なものであった。

「かばん・・・。私の方から伝えましょうか?」

「ありがとう、博士。でも、これは僕がイエイヌさんに伝えないといけないと思うんだ。」

「かばんは責任感が強いのです・・・。」

「もう少し私たちにも頼っても良いのですよ、かばん?」

「博士も助手さんもありがとうございます。でも、僕は大丈夫です。それよりもイエイヌさんとその主人であるヒトがこの事実に耐えられるかが心配です・・・。」

僕はため息を吐く。

彼女たちに待っているのはとても残酷な運命だ。

それを思うと胸が痛んだ。

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