第2話 ニート誕生

 鏡はよく見る。

 お気に入りの大きな姿見が、部屋の中央に鎮座している。

 まだ大学生の身分だった頃に週二日程バイトをしていた。もらった給料で部屋に置く家具をいくつか揃えた。一番に買ったのが、大きな姿見だった。

 次に、本棚、机椅子、ソファなどがあるが、一番手放したくない物と言えば、姿見である。机やソファが無くなっても緊急に困らないが、姿見がなければ、僕は僕で居られないような気がしてならない。一秒も息が出来ないだろう。

 別に鏡に支配されているわけではない。僕は、僕に支配されている。聞こえるのは、心の声。誰に何を言われようと、揺るがない。鏡に映る自分に、誓う。そうして誰にも会わずに一日を終える。

 

 いわゆるニートと呼ばれている。ニートとは、十五歳から三十四歳までの、通学もせず家事もしない、若年無業者と定義されているらしい。まさに今の僕だ。それでは、三十五歳以上の、同じ様な人間をどういうのだろうと調べてみたら、ニートの次はスネップと言うらしい。スネップは五十九歳までだ。しかし、五十九歳までのスネップには深刻さを感じる。スネップは、孤立無業者といわれている。その言葉は、確実に社会からはじかれた人間に送られる、嬉しくない称号である。

 

 誰もが、日々を怠惰に過ごしている訳ではない、と僕は思いたい。少なくとも僕はそうだからだ。

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