第33話 王都では


 ―◇―


 そ・の・こ・ろ。


 王都でマリア像の発注先を訪ねたリオフリッチ伯爵は、妻の等身大に作らせた像の出来栄えを前後左右から堪能していた。


 彫刻師は伯爵の賛辞と潤沢な褒美ににやにやしている。

「聖マリア像の髪色はブロンドのご依頼が多いのですが、私は濃いめが正しいと思っております。東の聖地のご出身なのですから。伯爵様のご依頼は斬新にして正鵠を射ておられる……」


 ごますりがてら揉み手をしていたが、ふと思い出し、知り合いから預かった羊皮紙を上客に手渡した。


 伯爵は、自分の街での催しの知らせを見て、驚愕した。


「な、何だと!?」

「いいではありませんか、この聖マリア像を台座に載せてしまう前に街の中でお披露目する。彫師冥利ほりしみょうりに尽きるというものです」


「違う!」

「違うとは伯爵、どういったことで?」


 彫刻師は内容を読み上げた。

「9月15日 悲しみの聖母の日、真のマリア様がコヴェントリーの街に降臨される!!! 純潔にして高貴、無原罪のお宿りより乙女になられた、生まれたままのそのお姿、こうべを垂れて拝み、お迎えせんことを」


 伯爵が苦しげな声で遮った。

「わかっている、わかっているから。見せびらかさずとも、おまえが美しく清らかな乙女であること……。あんなことを言ってしまったのは、他の男たちに嫉妬しただけだ、私はただ、嫉妬しただけなんだよ……」


 普段は感情を見せない男が頭を抱え、彫刻台にのめるように上体を支えた。


「これでは誰がオリジナルで誰が偶像レプリカかわからぬではないか。彫像もマリア様ご自身も、おまえほどには大切じゃないと何故にわからぬ……?」


「リオフリッチ様?」


めなければ、めさせなければ……。堪えられないと言っただろう? おまえが衆目に晒されるだけで我慢ならぬのに、どうしてこの様な……。それも聖堂のためなのか、皆に税金を負担させないためなのか? そこまでする理由は何だ?」


「リオ様、『おまえ』とはどなたのことで?」

「妻だ、私の最愛の、真のマリアのような! 早く荷造りをしてくれ。この像を一刻でも早く持ち帰り、すり替えなければ」


 彫刻師は頭を傾げながら、マリア像をぐるぐると布に巻き込んでいく。

「すり替えるとは? ちなみに遅れるとどうなると?」

「妻はマリア様の代わりをするつもりだ」

「それはそれは、さぞかしお麗しいお披露目に……」


姿だぞ!?」


―◇―

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