第12話 二日目のお茶会-皆の恋愛事情
「まいったなぁ、もう」
サラに髪を梳かれながら呟いてしまった。
「お話、うまくいきませんでしたか?」
「一度は仲直りしたんだけど、もっと悪くなったかも……」
「旦那様、頑固だから。頑固でないとやっていけませんものね。伯爵の称号と領地を継いで5年お独りで」
「あの、ご両親は?」
「お母さまを早くに亡くされ、跡継ぎだったお兄様も逝ってしまわれて。先代は旦那様が成人するとともに全てを渡して、聖地巡礼に」
「そう」
「私は年下ですけど、メルとルツは二つ三つ上なので、子どもの頃は旦那様をからかって遊んだらしいです。あの氷室に閉じ込めたり」
「あら」
ルツは給仕長の名前だと思うのが妥当だろう。
そして旦那様は、ちょっと内気で淋しがりな男の子だった気がする。
好き? 嫌いじゃない。優しい。
でも身分の低い者は同じ人間じゃないみたいな言い方した。
郷に入れば郷に従え?
時代が時代ならそれに倣え?
民のことなど考えなくていい?
いや、違うだろ。
「私は倒れる前、もっと旦那様と仲良しだった?」
この問いは危険だ。そう思っても口にしてしまっていた。
「さあ、それは奥様しかご存知ないことです。旦那様は侯爵をお訪ねの間に、遠くの伯爵領から来られていた奥様を見初められて、結婚式もご実家のほうで済まされてからこちらに来られたので」
「へ? ウソ……」
「到着されたとき、もう体調を崩されていて」
これは想定していなかった。その場を取り繕った。
「私、ずうっと前からサラとは仲良しだった気がしていたわ」
「あら、嬉しい」
その日のお茶は、ブドウ棚下のパティオでだった。パティオがよくわからなかったけど、行ってみて、戸外のお茶する場所だと理解した。平らな石を敷き詰めその上にテーブルとイスが置かれている。
四人のお茶飲み仲間を見廻した。
誰も私が入れ代わる前のダイのことを知らない。
となれば、いろいろな質問をしても大丈夫だ。
昨晩、ベッドの上で自分の身体の見えるところを確認した。右肘の痣、ふくらはぎの黒子、記憶通りにあった。私の身体だ。
だから乗り移ったんじゃない。身体ごと入れ代わった。
「ね、みんなはご主人とか彼氏はいるの?」
ベックスがブーッと吹き出した。彼女は吹き出しやすいタイプだ。
「旦那様との夜に問題あり?」
袖で口を拭いながら目をきらめかせた。
「みんなのことが知りたいの!」
私は元来この手の話題は苦手だ。すぐ赤くなってしまう。
「ベックスの旦那さんは
給仕長のルツが手短に説明した。
「私は奥様の受け入れやらご病気で忙しかったから……」
「ごめんなさい、めんどうかけたのね」
最年長のベックスが豪快に笑う。
「いいんですよ、奥様。サラは最低3人は崇拝者がいて、焦らして楽しんでるんですから」
「決め手にかけるのよ。3人とも」
「きゃあ」
笑いがまた笑いを呼んで庭を抜けていく。
「街、もあるの?」
「ええ、旦那様の領地には何でも揃っています」
「ルツのご主人は何をしているの?」
「仕立て屋です」
「お洋服を作る?」
「そうです。旦那様がドレスをたくさん注文されて、大忙し」
「殆ど身一つでお輿入れされたから……」
サラが付けくわえた。
「行ってみたいな」
「うちの人が夕方迎えに来ますが、旦那様が外泊をお許しになるかどうか……」
ルツは通いだ。
ベックスが夫婦の秘訣を授けるようににやけている。
「旦那様におねだりするのが一番ですよ」
「そう、ね」
旦那様と行くと上から目線で人々の生活は見えなさそう、と思ってしまった。
先程の言い合いも気まずい。
「まあいいわ、旦那様本人が断ってくれたらルツと行けるんだから」
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