悪夢

数日後、ママが来た。

「何の用事?」

おばあちゃんが玄関先で言っている。

「春香達を迎えに来たのよ」

わたしは弟と一緒に和室から覗いてる。

「春香!優!居るんでしょ?出てきなさい」

ママがわたし達を呼ぶ。

弟はブルブルと震えている。

「あんたの方が出ていきなさい!昔に勘当したはずよ!」

「じゃあ返してよ、あの2人を」

「渡せないわよ!あんた、春香を虐待してるでしょ!!」

おばあちゃんが怒鳴る。

「あれは躾よ!春香が言うことを聞かないから!お母さんだって昔やってたでしょ?」

おばあちゃんが黙る。

「あがらせてもらうわよ」

ママがおばあちゃんを退けて、家に入ってきた。そのまま和室に入ってきた。

「いるんじゃない!返事くらいしなさいよ。さぁ、帰るわよ!学校だってあるんだし」

わたしの手を無理やり引っ張って引きずる。

弟は泣き出した。

「優!男なんだから泣くんじゃない!」

ママが優の頬を叩く。

「いい加減にしろ!」

おじいちゃんが奥から出てきた。

「春香と優は渡さん!」

助かった・・・と思ったが、知らない男達が入ってきた。

「じいさん、悪いけどこの子達返してくんねーかな?」

「お前らは・・・」

テレビで見たことのあるヤクザのような男が2人現れた。

「黙って渡してくれれば会社の悪口とか言わねーし、邪魔もしねーよ」

おじいちゃんが黙る・・・。

「おじいちゃん・・・?」

わたしは弱々しく呼ぶ。

「春香、悪いが1度家に帰ってくれないか」

なんで・・・?!

わたし、何か悪いことした?


あとでわかった話だが、この男達は地上げ屋でおじいちゃんの土地を奪おうとしている。


渋々、おじいちゃんの言う通りにした。

「わかれば良いのよ!」

黒い車に乗せられてわたし達は再びあの家に帰ることになった。


家に着くと、部屋の中がきれいになってた。

「ママ、掃除したの?」

「そうよ、誰が入ってきてもいいようにね」

誰かとは先生の事だろうか?

「春香、お風呂に入っちゃいなさい」

脱衣所に行く。

タオルを取ろうとして何かが落ちた。

なんだろう、これ。

「ママ、何か落ちたよ」

朋子は急いで拾う。

「気にしないで。ママが片付けておくから、入っちゃいなさい」

朋子はそれをもとの場所に張り付けた。

それは小型カメラだった。

もちろんお風呂場にも設置してある。

朋子はお小遣い稼ぎのために児童ポルノに手を出していた。自分の子供なんだから何したっていいでしょという哀れな考えしかなかった。これは先程の男達に教えてもらった。

『これはいいお金になるわ』朋子は微笑む。


「春香、これからはあなた1人でお風呂に入りなさい」

優の裸が写っていては金額が下がる。

「はーい」

わたしはママが優しくなっていることに喜びを感じていた。

お風呂からあがると、ハンバーグが出来上がっている。ママのお手製のハンバーグだ。

「食べちゃいなさい」

ママはご機嫌だ。

あれ?弟がいない。

「ママ・・・、ゆうちゃんは?」

「保育園よ」

そうか、だから居ないのか・・・。

「ママ、今日仕事?」

「今日は休みよ。これから木村先生が来るからママの言うことを聞いてね。ママとはうまくやっていますと言うのよ、わかった?」

鋭い目でわたしをにらむ。

「うん、わかった」


時計の短い針が4の所を指した頃、家のチャイムが鳴る。

「まぁ、木村先生・・・お元気でしたか?」

外行きの声を出すママ。

「今日は児童相談所の方も来ています」

「はい、伺っております、さぁどうぞ」

リビングに木村先生ともう1人男の人が来ている。

児童相談所ってなんだろう?

「春香、こっちへいらっしゃい」

ママがわたしを呼ぶ。

「村木春香です、こんにちは」

「とても礼儀正しい子ですね」

男の人はニコニコと笑いながら言う。

「おじいちゃんのところは楽しかったかな?」

男の人に質問されると

「この子、私の父母宅でひどい扱い受けていたんです。仕事で少し預かってもらっていたんですが・・・」

ママを見上げると鋭い目つきで睨まれた。

「春香ちゃん、そうなのかな?」

「はい・・・辛かったです」

「そう、大変だったね・・・。お母さんとはうまくやれてるかな?」

「はい!ママはとても優しいです」

ママが頭を撫でる。

「勉強も好きで毎日勉強をしてました」

本当はいつ学校に行けてもいいようにとおばあちゃんが教えてくれていた。

「木村先生、何かありますか?」男が言う。

「村木さん、今日弟の優くんは?」

「ゆうちゃんは保育園です」

「そう・・・」

わたしはどうしたらいいのかわからず、うつむいた。

「それじゃ、お母さんとうまくいってるんだね?」男は同じ質問をしてくる。

わたしは頷く。

怖くなってきた。

ウソがばれるような気がして。

「では、このくらいにしましょう。今日はありがとうございました」

男と木村先生は早々と帰っていった。

パタンとドアが閉まる。

「良くできたわね。さぁ、明日の準備をして寝なさい」

やけにママが優しい。

でも、疲れと緊張で疲れてしまった。

ママは仕事に出掛けた。


翌日、起きると弟が居ないことに気づく。

「おはよう」ママがアクビをしながら、リビングに入ってくる。

「ママ!ゆうちゃんは?」

「え?優はパパのところよ。当分パパのところに居ることにするって」

なんで?保育園にいるのは嘘だったの?

「先生に優の事、聞かれたらパパと一緒にいるって言っちゃダメよ。また、めんどくさい事になるんだから!わかった?!」

こくん、と頷く。

「ゆうちゃんに会いたい」

「土日に会わせてあげるわよ」

ママはお水を飲み干すと、食パンとジャムをテーブルに出す。

わたしは食パンにジャムを塗り、食べる。

「洋服は脱衣所に置いてあるから、それを着て学校に行きなさい」

「はい」

食事を終えると脱衣所に行く。

着替えていると、誰かに見られてる気がする。気のせい・・・?


学校に行くとまるで転校生のような扱いだった。仲がいいグループはまとまってしまってわたしはあぶれた。

体育の時も給食の時も誰とも話ができないまま学校が終わった。

授業が終わると、木村先生は心配そうに言う「何かあったら言ってね」と。

校門を出るとママが待っていた。

「ママ?」

「行くところがあるからついてきて」

迎えに来てくれた訳じゃなさそうだ。

でも、こうやって歩くのは久し振りかもしれない。

道路に停めてある黒い車が見える。

その車に乗せられた。


「久し振りだなぁ、春香ちゃん」

その声はあの時おじいちゃんを脅した男の声だった。





















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