新しい生活

電車の行き方を教えてもらいながら、おじいちゃんが住む町の駅に着く。

最寄りの駅の待合室でおじいちゃん達を待つ。

数分後、車の音がした。

「春香、優!」

駆け足でおじいちゃんが駆け寄る。

「おじいちゃん!」

嬉しくなって抱きついた。

おじいちゃんは座り込み、わたしたちを抱きしめる。

「会いたかったよぉ」

「そうか、そうか」

頭を撫でながらおじいちゃんは笑う。

わたしの顔を見た瞬間、おじいちゃんの顔がこわばる。

「春香、その顔どうしたんだ?」

腫れがひいてない顔を隠すと

「お母さんにやられたのか?」

こくん、とうなずく。

「ひどいことするなぁ」

おじいちゃんは目に涙を浮かべながら言う。

「いつまでもいていいからな」

「うん、ありがとう」

私とゆうちゃんは車の後ろに乗り、おじいちゃんの家を目指した。

家に着くと、おばあちゃんが手をこすりながら玄関の前で待っている。

寒いのだろう、春といっても夜はまだ寒い。

車から降りると、おばあちゃんに抱きついた。

「寒かったでしょう?早く家に入りなさい」

「はーい」

私とゆうちゃんは玄関で靴を揃えると和室に向かう。

振り向くと、おじいちゃんとおばあちゃんが何かを話している。

「お姉ちゃーん、早くそこ閉めてー」

弟が急かすので早々とふすまを閉めた。

暖房の入った和室は暖かい。

おばあちゃんが暖かくしてくれたのだろう。

「ゆうちゃん、ここではいい子にしてようね、そうじゃないとママが言われちゃうからね」

「うん!」

弟は元気よく返事した。

ふすまが開き、おじいちゃん達が入ってきた。

「まだ外は寒いなぁ」と手をこすりながらおじいちゃんは言う。

「春なのにねぇ」と呟くおばあちゃん。

「おじいちゃん、おばあちゃん、これからお世話に鳴ります」と、わたしと弟はは2人に向かってお辞儀をした。

「イヤだよ、そんなにかしこまってぇ」

おばあちゃんは笑い出す。

「良い子だね」と、おじいちゃんも笑う。

長旅の疲れかご飯を食べると眠くなった。

おじいちゃんは私と弟を抱きかかえると、布団に寝かせた。

今日は疲れたなぁ・・・。

学校に行けないんだ、寂しいなぁ。

でも、ママとはもう暮らしたくない。

殴ったり、蹴ったり、タバコを押し付けてくるからだ。

もう痛いのはイヤだよ・・・。


翌日からおばあちゃんに勉強を教わりながらドリルをやることになった。

弟はお絵描きをしている。

いつでも学校に行けるように勉強はしなきゃダメだと言われた。

ここでも邪魔者扱いされたら行き場所がなくなる、そんなことはイヤだ。良い子に頑張って勉強をしなくては。

おじいちゃんは仕事をしている。

家からお店まで数分の距離だ。

お昼休みになるとおじいちゃんの仕事場へ行く。自動ドアが開くとすぐに受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれる。

赤木真由、ママの従姉妹だ。

「真由ちゃーん」

「春香ちゃん、優ちゃん、大きくなったね」

ナデナデしてもらうと奥に行く。

「おじいちゃん!」

奥にはおじいちゃんがいて仕事をしている。

「来たかぁ」

真面目な顔からにこやかな顔になる。

「今日の晩御飯、なにがいい?わたし、お手伝いするの!」

「そうか、そうか。偉いなぁ、春香は」

良い子でいないとダメだから・・・。

弟は甘えてるが、わたしまで甘えたらいけないから。

「楽しみに待っててね」

そう言い残すと、弟を連れて家まで帰る。


午後からは弟はお昼寝している。

おばあちゃんの洗濯を見よう見まねで干したり、買い物に行けばカゴを持つようにしたり1日の大半はお手伝いに徹した。


ある日の事、リリリーンと電話が鳴る。

おばあちゃんが出る。

「何を勝手なこと言ってるんだい?いきなり子供達を寄越して、今度は返せですって!?子供達は物じゃないのよ!」

おばあちゃんが電話の相手に怒っている。

おじいちゃんがどうしたんだ?と、電話を代わるとすごい剣幕で怒っている。

『だって、児童相談所から連絡来たのよ』

と、ママの声が聞こえた。

「ママから?」おばあちゃんに聞くと頷く。

わたしは弟を連れて縁側に行く。

「児童相談所かなんか知らんが返さないからな!わかったか?!」

そう言うと、電話を思い切り叩きつけた。

「朋子のやつ、何を考えてるんだ!?」

吐き捨てるように言う。

「ママ何て言っていたの?」

わたしはおばあちゃんに聞いた。

「児童相談所の人が春香達の事を聞きに家に来たから返してって言ってたのよ。春香達は戻りたい?」

すぐに首を横に振る。

「ここにいさせてください、お願いします」

土下座する。

「お姉ちゃん、背中にジュッてされたの」

弟は目の前でやられたことを言っている。

おばあちゃんはすぐに背中を見せるよう言い、服をまくると背中のアザなどを見て泣き出してしまった。

「おばあ・・・ちゃん?」

「ごめんね、すぐに気がつかなくて・・・許してちょうだい」うぅっと嗚咽する。

今までバレないように、お風呂も弟と一緒に入っていたのだ。

「春香、うちの子になるか?」

「うん、なりたい!」

「僕もー!」

おじいちゃんの子になればママのところに行かなくていい。殴られなくて済む・・・。

学校に行けないのは辛いけど仕方ない。


























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