第2話 ファイリングナンバー02 闇の魔法少女とマスコットのコウモリ


 ――カタカタカタ……


 薄暗い部屋の中。俺はひたすらにPCと向き合う。

 悪魔の形相で検索しているのはもちろん……


 ――『パートナーマスコットシステム』についての資料だ。


 曰く、この憎き『はぴはぴ☆イチャイチャ♡ツーマンセルシステム』は数年前から始まったシステムらしく、魔法少女とマスコットが互いの同意のもとに契約を交わし、協力してミタマと我々を退治する為に導入された。

 魔法少女は協力を得る代わりにマスコットに対価を支払い、マスコットはそれによって力を得る。


 マスコットが魔法少女に与える恩恵は、ミタマの出現場所察知から、戦闘時の武器の提供までマスコットの実力に応じて多岐にわたり、現在では魔法少女の活動はほぼツーマンセルが基本らしい。実際にその効果は絶大で、魔法少女管理協会の業績もおかげで上昇傾向を見せていると……


 読めば読むほど……ふざけてる。


『発見から戦闘までを幅広くサポート!揺り籠から墓場まで、ずぅっと一緒だよ♡』

 ……ってか?


 イライライライラ……


 さっきから、貧乏ゆすりが止まらない。震える指でマウスをスクロールしながら記事を舐めるように睨みつける。それにしても……


(なんなんだ、こいつら……調べれば調べるほど……)


魔法少女A……パートナー ばく 関係・双子

魔法少女B……パートナー 獅子 関係・従者

魔法少女C……パートナー 蝙蝠コウモリ 関係・幼馴染

魔法少女D……パートナー 蛙 関係・兄妹

魔法少女E……パートナー 亀 関係・クラスメイト

魔法少女F……パートナー 猫? 関係・親戚のお姉さんと少年おねショタ


 イライライライラ……!


 うん。字面だけ見ててもわかるわ。


「どいつもこいつも!イチャコラしやがって!!」


 くそがっ!


 思わずバンッ!と机を叩くと同じ椅子に半分腰掛けていたはあとちゃんがびくっ!と身体を揺らす。ついでに胸も制服のシャツから零れんばかりに揺れた。


「わっ。びっくりさせないでよ、ハーちゃん……」


「仕方ないだろ!?てゆーか、なんで早く教えてくれなかったんだよ!?」


「え~?総帥に呼び出し受けたとき、ハーちゃんも一緒にいたじゃん?」


「……そうだっけ?」


「いたよぉ!でも、ハーちゃん魔法少女以外全然見てないんだもん。マスコットってほら、手のひらサイズだからさ、アウトオブ眼中だったわけでしょ?」


「ぐぅ……」


 そう言われると、ぐぅの音しか出ない。


「も~、ほんとハーちゃんて見かけによらず抜けてるとこあるよね?」


「頭ゆるふわっ!はあとちゃんに言われたくないし。てゆーか、椅子から落ちそうだからって俺にしがみつくのやめてもらえる?おっぱい当たってるよ?いいの?」


「うわ~ハーちゃんえっちぃー」


「今はいざなだってば。棒読みだし。離れる気ないでしょ?」


「てへへ……」


 はあとちゃんは楽しそうににまっと笑うと俺にしがみついたまま椅子をぎこぎこと鳴らす。


「……てゆーか、なんでいんの?ここ、俺の家」


「別にいいでしょ?放課後にクラスメイトの家に遊びに行くくらい」


「今はクラス違うだろ?クラスが一緒だったのは……何回前の転生のときだっけ?」


「もう忘れた~」


 ……だろうな。俺も忘れたよ。


 俺とはあとちゃんは悪の組織の総帥の命で幾度となく高校生活を繰り返し、魔法少女の生態を観察、妨害工作を繰り返してきた。

 元より魔法少女に並々ならぬこだわりを見せる俺と、容姿、性格ともに女子高生みたいなはあとちゃんは潜入工作には打ってつけってわけだ。

 変身を解いたはあとちゃんは甘心あまごころねむという、同じ高校に通うJKだった。


 俺はPCを閉じて椅子を引いた。

 落っこちそうなねむちゃんの手を取ってちょい、と立たせる。


「ねむちゃん、自分帰りなよ?(形ばかりの)両親が心配するだろ?」


「ええ~。今の親は共働きだから帰ってもいないもん」


 椅子の背もたれにぐで~っとなりながらふわふわピンクの髪を巻き、全身で暇を表現するねむちゃん。伸びるたびに第二ボタンまで開いたブラウスがキワドイ谷間を見せびらかす。俺はそっとボタンを閉じてあげようと……


 ――閉まらない。


「ブラウス買い替えないの?これじゃ閉まらないじゃん」


 ぐいっ、ぐいっ……


(あ、ヤバ。ボタン取れそう)


「閉まらないのはブラウスのせいじゃないよ?」


「そうか。悪かった」


 真顔で答え、何事もなかったかのように手を離し、俺は提案する。


「ねむちゃん、そんなに暇ならさ……付き合ってよ?」


「えっ――」


 一瞬固まるねむちゃん。俺はさっき閉じたPCの画面を開いて見せた。


「明日……ここ行かない?」


      ◇


 翌日。俺はねむちゃん、もといはあとちゃんと一緒にある魔法少女を尾行していた。気配を消して、数メートル後方の建物屋上から。

 こんなに離れていても姿は睫毛の本数まで数えられるし、声は透き通るようにクリアに聞こえるから変身能力さまさまだ。

 紐ビキニ姿のはあとちゃんは両手を双眼鏡よろしく丸めて魔法少女を視認する。


「あれぇ~?あの子、私が担当してる『闇の魔法少女』じゃん?」


「うん。そう」


(ああ~っ。かぁ~わいい♡やっぱイイなぁ、闇の魔法少女……♪)


 ――そう。今日の標的ターゲットは『闇の魔法少女』、菫野すみれのむらさきちゃんだ。俺達と同じ高校に通う、二年生。

 透き通るような艶のある夜色の髪を胸元まで伸ばし、毛先はゆるく巻いている。猫背気味でも結構ことがわかるくらい、胸はふっくらとして大きい。はあとちゃんにも及ぶ大きさは校内でも珍しい。

 そしてなにより、おっとりとしていてきょときょととした動作がそこはかとなく庇護欲をくすぐる愛らしい魔法少女。


 はぁ……はぁ……


 普段ははあとちゃんの管轄の魔法少女だが、以前からはあとちゃんが中々に苦戦しているという話を聞いて、どんな強カワな子かと興味はあったのだ。

 だが、今日の目的はどちらかというと一緒にいる男の方にある。ふわっとした銀髪の、いけ好かない男。


(あいつか……)


 ブラックリストナンバー01。いずみ式部しきぶ


 イライライライラ……!


 常に偏差値七十オーバー、頭脳明晰、眉目秀麗、医者の息子で金持ちで?おまけに運動神経も抜群に良いらしい。天は二物を与えるって?あ~、気に食わない。

 しかも?校内でも女たらしで有名な奴は、あろうことかとっかえひっかえだっていうからタチが悪い。すべての女性にとって危険極まりない人物。

 そんな奴がどうして魔法少女である紫ちゃんと一緒にいるのか……


 奴は――紫ちゃんのマスコットの、コウモリだ。


 しかも……『幼馴染』!!


「ああああ!幼馴染でパートナーマスコット!?あんな美少女と!?ふざけんじゃねぇぞ!?」


「ちょ、ハーちゃん。声を大きいってば……」


「ラブコメの王道、幼馴染!あんな美少女とそんな称号を持っていながら、更にはパートナーマスコットまで務めると!?紫ちゃんの生活にどれだけ入り込めば気が済むんだあいつは!!」


 だからあいつはブラックリストのナンバーワンなんだよ!!


 …………ふぅ。


 まぁ、そんな奴の天狗な鼻っ柱をぶっ潰す為に俺はここにいるというわけだ。


 はい、クラップクラップ。部下の皆さん?ここ、拍手するとこですよ?

 \ワーッ!/

 今日は連れてきてないけどな?


(まぁいい。あんな奴、俺ひとりで十分だ……)


 精々今のうちにデートでも楽しんでおくんですね?コウモリさん?

 そのヒラヒラしたフェイスと翼、俺が手折って差し上げますから。


 ついつい仕事モードが顔をちらつかせたところではあとちゃんに視線を送る。


「はあとちゃん、行ける?」


「えっ……でもあの子、超強いよ?」


「……そういえば、手ぇ焼いてるって言ってたっけ?具体的にどの辺に苦戦してるんだ?」


 尋ねると、はあとちゃんはむむむ、と頭をげんこつで抑える。


「あのね~、あの子はね~。とにかく“速い”の」


「……速い?」


「うん。影とかを操ったり、変身すると死神みたいな恰好になって大鎌を使うんだけど……回収したミタマの横取りに行こうとすると、もういないんだよ。あっという間に倒して、あっという間に消えちゃうの。闇に溶けるみたいに」


「ああ、そういう……」


 闇に溶ける……死神の、魔法少女……


 ゾクゾクッ……


「イイね……そういうの……♡」


「ハーちゃん?」


「俺がいれば、影は操らせない。今日こそ成果を横取りしてやろう……!」


 調べによれば、紫ちゃんの魔法少女歴は一年以上。そろそろ四天王である俺達と邂逅を果たしてもいい頃合いだろう。ハジメテの邂逅……!


 はぁ……はぁ……


 俺は、はあとちゃんの手を取った。そして、仕事モードの紳士口調で呼びかける。


「行きますよ?スイートハートナイトメア……?」


「ええ~二対一?やっちゃうの?」


「いいんですよ。だって……あっちも『ひとりと一匹』……二体二でしょう?」


 くすくす。


(ククク……見てろよ、コウモリ野郎……!)


 四天王、ハーメルン様が……


 ――ぶっ潰してやる!!


      ◇


 適当にけしかけたミタマを一瞬で闇に葬った、闇の魔法少女『アイリスガーデン』を至近距離に捉える。死神のような黒頭巾の下には黒いミニ丈のワンピース。そこから伸びる白い脚の先にはリボンのついたヒールのパンプス。


 あの華奢な背格好に……身の丈ほどある銀の大鎌!!


(いいねぇ、いいねぇ!アイリスガーデン!さっきまでぼーっとしてた紫ちゃんだけど、変身するとあんなにすばしっこくて嬉々として殺戮しちゃうわけ!?)


 そんなちょっぴりイっちゃってる感じもイイ。


 そう。軽く遊んでやろうと思って今日はミタマを十体ほどけしかけてみた。

 はあとちゃんが苦戦する相手ならまぁ平気だろうと。小手調べだったのに。


 ふふっ……!


 まさか、一瞬で全部の首を撥ねられるとは思わなかったよ。アイリスガーデン……!


 俺達の視線に気づくことなく、ワンピースの裾についた埃を払うアイリスガーデン。さっきまでの黒髪は変身すると薄紫に染まり、瞳は深淵を思わせる美しい濃紺。その華奢な手から繰り出される鋭い斬撃……はぁ……ずっと眺めていたかった。


「なんか今日は多かったね?式部疲れた?」


『僕は別に。まぁ、一匹一匹は大したことなかったし、紫に怪我が無いならそれでいいんじゃない?』


 イライライライラ……


(当たり前のように名前呼び……まぁ、幼馴染ならそんなもんか?けどな……)


「それもそっか。じゃ、帰ろ?」


『うん。あ、そうだ紫。この近くにこないだ言ってたパンケーキの店があるから、寄ってかない?』


 ……早速デートし始めやがったよ。この、流れるように誘うたらしめが。


(ぐうう!言ってる傍からイチャコラしやがって……!)


「わーい!ちょうどお腹空いたと思って――」


 あぁ、素晴らしい!魔法少女の笑顔!でもな?隣に男は居なくていいんだよ。


(……よし)


 俺は、出た。ゆらりとローブの裾を引きずり、目深にかぶった帽子の下から、舐めるような視線を紫ちゃんに投げる。


「……こんにちは?可愛い魔法少女さん?中々に、いい働きぶりをしますねぇ?」


「え……誰……」


 固まる紫ちゃん、もといアイリスガーデン。そんな驚きに目を丸くした表情もイイなぁ。それともその顔は……恐怖?


「クク……」


(できれば笑顔が見たいんだけど……仕事の都合上、言えないなぁ……)


 思わずこみ上げる笑いを堪えていると、コウモリがパタパタと立ちはだかる。


「紫……!こいつきっと!構えろ!」


「ふふっ……そんな小さな身体のマスコットあなたに、何ができると言うんです?」


 今の俺は、仕事モードだ。いやらしい紳士口調でいたぶるような台詞を浴びせる。

 そして、大鎌を構えたアイリスガーデンに向き直った。


(なるべく魔法少女は傷つけたくないんだが……あいつ……)


 俺の狙いであるコウモリは、さっきから魔法少女の近くをパタパタと……隙あらば肩に止まって羽休め……


 イライライライラ……!


(見せつけてんじゃねぇぞ?)


 まずは、引き剥がそう。俺は笛を口元に当てた。


「~~~~♪」


 音色に誘われるように、アイリスガーデンの足元で影が蠢く。蛇のような動きでうねり、アイリスガーデンを拘束しようと影を操った。咄嗟に壁伝いに跳躍して避けるアイリスガーデン。その度にスカートの裾が……


 ヒラヒラ。


 ――イエスッッ!


 見えそうで見えない!それでこそ魔法少女っ!!


 それに、あの跳躍も狭い路地裏を活かした、い~い動きだ!


(これは、期待以上……)


 今まで自らの思い通りに自在に足場を提供していた影が言うことを聞かなくなり、混乱するアイリスガーデン。『はわっ!?』と驚いたお顔がまぁた可愛い!


「――っ!?どうして!?」


「ふふっ……影を操れるのはあなた達だけではない……そんなに驚くことは無いでしょう?」


「~~~~♪」


 お次は近くの工事現場にあった鉄骨。落としたら……どうなるかなぁ?


「――っ!」


 アイリスガーデンは跳躍のスピードを殺さないまま大鎌で一閃した。真っ二つに割れて地面にイヤな音を響かせて落ちる鉄の塊。だが……


「スイートハート!」


「ほ~い!」


 合図すると、空中で体勢を立て直せないアイリスガーデンの元へはあとちゃんが鈍器を片手に飛び出した。


っちゃえ~!」


 棒の先に大きなハートの飾りがついたバットを振りかぶる。


(ああ、攻撃する前に言っちゃうから四天王最弱なんですよ?はあとちゃん……)


 あほ可愛い♡


 ――どぐしゃあ……!


 鈍い衝撃音と共にアイリスガーデンが落下……


「――【夜闇の花嫁ヴァージン・トゥハーデス】!」


(……?)


 ――して、いない……?


(ほぉ……!変化系の呪文か……)


 突如発生したかと思った黒い霧が晴れると、そこにはコウモリの皮膜を背に生やしたアイリスガーデンが地面すれすれで浮遊していた。


「あっぶなぁ……!」


『ちょ、大丈夫だった?紫?』


「うん。式部のおかげで助かったよ……」


 ぱたぱた。


(あれが……パートナーマスコットシステムの恩恵か……!)


 肩甲骨辺りから生えた、まるで悪魔のような容貌の翼。その妖しい美しさはまさに『闇の魔法少女』に相応しい。だが……


「――式部!ランス!」


『はいはい』


「――【血染めの禍ツ杭槍ブラッディ・ステイク】」


 その声に応じて闇に溶けるコウモリ。アイリスガーデンの右手に纏わりついたかと思うと、その手に赤黒い長槍をもたらした。


「きゃはは……!いっくよぉっ!」


 アイリスガーデンが槍を振りかぶってはあとちゃんの方向へ穿つ!


「ひゃんっ!」


「スイートハート!」


 間一髪、鈍器で殴り躱すはあとちゃん。続けざまにもう一本槍が飛んでくる!


「チッ……!」


 俺は咄嗟に前に出て笛で弾き返した。


 ――キィンッ!


「ハーちゃん!」


「なかなか、イイ威力ですね。少し見くびっていた……」


(ほうほうほう……!)


 噂通り、結構やるようだ。確かにちょっと、はあとちゃんには荷が重い。


「……ごめん、ハーちゃん……」


「構いません。同僚でしょう?」


 俺は、はあとちゃんの安全を優先することにした。


「下がっていなさい、スイートハート」


「ハーちゃん、でも……!」


「あれは、私の獲物です」


(ああもう!魔法少女の前で『ハーちゃん』呼びはやめてって言っただろ!?取り繕うのも大変なんだから!)


 はい、集中!集中!ハーメルンさんお仕事モードッ!


「クク……」


 そこはかとなく悪役っぽくにんまりと舌なめずりすると、眉をひそめて警戒心を露わにする魔法少女。


 ゾクゾクッ……!


「私が、可愛がってあげましょう……♪」


(コウモリ限定だけどな!)


「~~~~♪」


 再び笛の音を響かせると、落ちた鉄骨がアイリスガーデン(の横のコウモリ)目がけて飛んでいく!


『危ない!紫っ!!』


 コウモリは魔法少女を庇うようにして前に飛び出すと、変身を解いた。


「「なっ――」」


 銀髪の男子高校生――泉式部の姿のまま右手の親指を噛み、血を流す。


「――【血煙の逃避行エスケープ】!」


 泉が唱えると、血が霧散してふたりは姿を消した。


「……逃げられ、ましたか……」


「わ~……すごいマスコットおとこのこだったね……」


(確かに、戦闘においてあそこまで立ち回りのうまい魔法少女は久しぶりに見た。あれはおそらく、コウモリである泉が超音波で俺達の攻撃をそれなりに見切っていたからだろう)


「パートナーマスコットシステム……厄介ですね……」


 早めに、潰しておかなければ。


      ◇


 ちょっぴりピンチで尻餅をついたはあとちゃんを帰宅させ、俺は逃げた紫ちゃんと泉を追った。気配を察知していると、ある家にふたりして入っていくところを見つける。表札は……『菫野』。


(放課後に自宅デートか?許すまじ……)


 歯ぎしりしながら様子を伺っていると、紫ちゃんのと思しき部屋でベッドに腰掛けたふたりは何やら話をしている。


「はぁ~。危機一髪だったねぇ?」


「うん、ヤバかった。何アレ?あんなの今まで出てこなかったよね?」


「ボスかなぁ?」


 おしい!その下の四天王、幹部だよ!中ボスって意味ではアタリかな!


「羽と槍……逃げるのにも魔法を使わされるなんて。今までのミタマの比じゃないな。気配は似てるのに。多分あいつを倒しても何か回収できるわけじゃない気がする……次からは見たら即逃げよう」


 む。中々鋭いな。

 確かに、俺を倒してもミタマ同様の絶望は回収できないだろう。

 総帥は俺達を人間の身体をベースに『想いの残滓』を混ぜて作ったって言ってたからな。その想いが何かは不明だけど……まぁ、変身を解けばただの高校生なわけだからあまり気にしていない。


「式部が弱気、珍しいね?」


「え~?だって無駄な戦闘はしたくないだろう?」


 俺だって実はそうなのよ?


 そんなことを思っていると、泉は何を思ったか紫ちゃんの肩を掴んだ。


「ねぇ、紫。今日疲れた……いいでしょ?」


(まさか、ここでセッ……)


 ダメダメだめぇ!そんなのぜーったいダメぇ!

 魔法少女の貞操はハーメルンさんが守るんだからぁ!


 妨害するべく笛を構えてドキドキしていると、泉は予想外のことを口にする。


?」


(は……?)


「あ、うん。お疲れさま。いつもありがとね?」


 紫ちゃんも何でもないと言ったように首筋を差し出す。


(おい、まさか……)


 脳裏によぎる資料の文面。

 『魔法少女はマスコットに対価を支払い、マスコットはそれによって力を得る』


 イヤな汗を滲ませていると、次の瞬間……

 泉が、紫ちゃんの首に口をつけた。

 紫ちゃんは鼻歌まじりに片手でスマホを弄る。


(なんなんだ!?この日常茶飯事です感!?)


 しばらくして、口を離す泉。唇を拭った指先についているのは……血だ。


(吸、血……?)


「今日は痛くなかったね?」


 しれっと照れる素振りのない紫ちゃん。


「まぁ……慣れてきたってことじゃない?」


 指先に残った血を舐めながら赤面する泉。どう見ても、こいつの方は慣れてるって感じじゃない。未だにど~~~~考えても意識してる顔だわ。


(女たらしの泉が、あんな顔するなんて……)


「…………」


 ハーメルンさん、わかっちゃった。


 ドンマイ、泉。お前、片想いだったんだな?


「……さ。帰ろ」


 俺は立ち上がった。


 この日、闇の魔法少女とそのマスコット、吸血コウモリの泉は、ブラックリストのランキングを下げた。だって、俺が妨害したいのはイチャコラちゅっちゅしているカップルであって、ど~~~~考えても片想い真っ只中なあいつの優先度は低い。


「うん。今日はそれなりに楽しめたかな?」


 ……色んな意味で。


 邪魔をするのは、もう少し進展してからにしよう。紫ちゃんの様子を見る限り、あいつはただの幼馴染。きっとその日は……まだ先だろう。


「さぁ、次は誰と遊ぼうかなぁ~?」


 幼馴染の次は……お姉ショタとか、いってみようかな?


「~~~~♪」


 俺は口笛を吹きながらその場を後にした。

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俺は悪の組織の幹部であってお前らのキューピッドでもかませでもない! 南川 佐久 @saku-higashinimori

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