俺は悪の組織の幹部であってお前らのキューピッドでもかませでもない!
南川 佐久
第1話 ファイリングナンバー01 水の魔法少女とマスコットの亀
春。学校は新学期を迎え、クラス分けの結果に校内の誰もが色めきだつ。
桜の花が満開な校舎の体育館裏で……俺は、見てしまった。
「俺のパートナーに……なってくれっ……!」
頭を下げて渾身の告白を見せているのはひとりの男子高校生。その向かいで告白されて大きな目をぱちくりとさせているのは――
魔法少女、
都立
編み込みの入った柔らかい色合いのベージュの髪をハーフアップで小綺麗にまとめ、その凛とした立ち振る舞いはまさに可憐な花のよう。
『立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花』とは、まさに彼女のための言葉。
まぁ、そう例え始めたのは紛れもない俺だがな?
そんな彼女は最近魔法少女になったばかりの新人で、『水の魔法少女』をしている。調べによると長く病を患う姉の病気をなんとかしようと恥ずかしいのを我慢して魔法少女になった優しい彼女だが、その性格のキツさから校内では『
そんなキツ可愛いツンツンなところもそれはそれで魅力的なんだが、どうして皆わからないかなぁ?
触るとほろほろと崩れそうな華奢な体躯に、長い睫毛、つぶらな瞳。滑らかな雪のような白い肌は、まさに『雪兎』と呼ばれるに相応しいが……
そこはツンツンデレなし白雪ちゃん。この、あからさまにキョドった男の告白にどう出るか?内心そわそわしながらその様子を見守る。
「えっと……」
白雪ちゃんは、まるで結婚前提のお付き合いみたいな台詞に少し恥ずかしそうに口元をおさえて赤くなった。
くぅ~!かぁ~わいい!
そして、スカートの端を掴んだかと思うと、もじもじと膝を動かしている。
はぁ……はぁ……
俺と告った男のドキドキがリンクする中、白雪ちゃんの口から出た言葉は――
「 イ ヤ 」
――イエスッッ……!!
俺は物陰でガッツポーズ!
それでこそ俺の見初めた白雪ちゃんだ。水と氷の使い手、可憐なる水の魔法少女。そうそう簡単にあんなモブっぽい男の手に堕ちてたまるか。
「はぁ~いいもの見た。さ、そろそろ帰ろうかな。俺ってば結構忙しい身だし……」
スクールバッグを片手に立ち上がると、俺は鼻歌交じりに帰宅する。
「次の
◇
そう、男子高校生、
裏での俺の名は、ハーメルン。職業は、悪の組織の四天王(最初に出てくる弱い奴じゃないぞ~?)。趣味は――魔法少女をいびることだ。
だが、それはあくまで悪の組織的人事考課向きのものであって、本当の俺は実を言うと魔法少女の大ファンだった。
そんな俺の本当の趣味……それは、日夜魔法少女をいびるフリをして少しずつ成長を見守ること。
幾度となく男子高校生として三年間の成長と転生を繰り返し、その影でハーメルンとして過ごしてきただろう?
多くの魔法少女と戦い、新人にはザコ部下を、ベテランには自らの手で接戦を演じきった末に負け、魔法少女として成長し、卒業する姿を見送る……
ときには服だけ溶けるエッチなスライムをけしかけては悦に浸り、仲間と一緒に強敵を倒した時の笑顔を写真に収め、負けそうなときの悔しそうな顔すらアルバムにそっとしまう。
そんな彼女たちと過ごす日々は、俺にとって生きがいだった。
「嫌われたっていい……それで彼女たちが
そんな俺の最近のお気に入りが、水の魔法少女の白雪ちゃんだった。
「さぁて、どんなことして遊ぼうかなぁ~……」
組織から支給されているPCで使えそうな部下やいい感じに弱い『絶望』をチェックする。
『世界を絶望で染め上げよう!』がスローガンの俺達は人々の『絶望』から『ミタマ』と呼ばれる黒いもやもやを呼び出すことが生業だ。
で、魔法少女達はそれを退治するというノルマをこなして、たくさん集めたら魔法少女管理協会からご褒美として願いが叶えてもらえるという。
まぁ、人間の絶望なんてそうそう簡単に無くならないから、ずっと魔法少女ときゃっきゃうふふしたい俺にとっては夢のようなエンドレスループだ。
「……お。これ良さそうじゃん。発情期でイライラしてる猫」
新人の白雪ちゃんに吹っ掛けるには打ってつけだ。猫の絶望からミタマを生み出せば、猫型のミタマが生まれる。すばしっこい動きに対する反応も見れるし、ぶっちゃけ猫なんて暴れたところで素手でもどうにかできるだろう。
「……よし!次は白雪ちゃんが猫とにゃんにゃん戯れるところを見よう!」
俺は立ち上がり……腰をおろした。
「今日は告白されてドキドキしちゃってるだろうから、吹っ掛けるのは数日後。メンタルとバイタルが安定してるときにしてあげよう。うん」
は~。
実際、変身すると黒髪長身のそこそこイケメンな紳士になる。指定されている衣装は悪役っぽい黒のローブと魔女っ子帽子。武器はハーメルンのモチーフに合わせた笛だ。フルートっぽいやつね。アレ吹くと色んなものが操れたりできるけど、白雪ちゃんにはまだ早いかな?
「ククク……早くキミの頑張る姿が見たいなぁ……白雪ちゃん♪」
俺は悪役紳士っぽい笑みを浮かべながら『その日』を待った。
◇
数日後、学校からの帰り道を狙って猫型ミタマをけしかけた俺は、物陰に潜んで白雪ちゃんの奮闘する姿を見守っていた。
「くっ……すばしっこいわね!なんなの、もう!」
『ふぎゃぁおおお……!』
身の丈ほどある氷の杖を振り回し、猫ミタマと対峙する水の魔法少女。
(あぁっ……!今日も可愛いよ!魔法少女『スノードロップ』!!)
白雪ちゃんは元から超絶美少女だけど、変身するともぉーっと可愛くなる。
そりゃもう人外的に。
何が人外的かって、変身すると他の魔法少女達と同様に容姿が一変するわけだ。
髪はサラサラで雪みたいに真っ白になるし、瞳は宝石みたいなピンク色。
それに何よりあの
ほんと、魔法少女管理協会には俺の同志がいるんじゃないか?って思うくらいに超キワドイ。一言でいうと『うさぎさん』だ。
ぴっちりとした白のレオタード……というかバニースーツに、ウサギ耳のカチューシャ。髪色も雪のような真っ白へと変貌し、衣装が食い込み気味な尻には、ご丁寧にちょこんとした尻尾まで生えている。
変身後の名前は『スノードロップ』。愛らしさと凛々しさを兼ね備えたその姿は、その名の通り、可憐な花のようだった。
そんな彼女はお尻の食い込みを気にしながら恥ずかしそうに、でも一生懸命戦っていた。
「はぁ……はぁ……」
ちなみにこれはスノードロップの息切れではない。俺のだ。
(大ぶりな杖に対してあのすばしっこさは厄介だろう……さぁ、自分より早い相手にどうやって対処してくれるのかな?)
わくわくしながら見守っていると、スノードロップが魔法を詠唱した。
「――【
(おおお!出た出た!スノードロップお得意、氷の魔法!!)
唱えると、ミタマを包んでいた氷の粒が一気に凝縮し、あっという間に氷の檻が完成する。
「――【
スノードロップは杖をバットのように構えたかと思うと大きく振りかぶった!
(ああああ!いいねぇ!繊細な氷の使い手バニーちゃんとは思えない必殺技だ!ギャップ萌え!)
パリーンッ!
「…………ふぅ」
これも勿論、俺の声。
スノードロップは、檻ごとミタマを破壊。見事退治と回収を果たした。
(白雪ちゃん……キミは期待以上の魔法少女だよ。これからの成長、楽しみだなぁ。もぉっと仲良く、しようね……?)
俺が胸の中で拍手をし終えてその場を立ち去ろうとしたとき。不意に男の声が耳に届く。
「大丈夫か!?白雪!」
(ん……?)
視線を向けると、変身を解いた白雪ちゃんの元にひとりの男子高校生が駆け寄って行く。
(あれは……)
先日告白していた、モブ
「別に平気よ、これくらい」
「うわ、ばっちり引っ掻かれちゃってるじゃねーか。水で流して絆創膏貼らないと……いいから、傷口見せて見ろよ?」
そう言って白雪ちゃんの太股あたりに湿らせたハンカチを当てて、手当をしている。
「ひゃっ……!ちょ、冷たい!どこ触ってるの!?」
「あ、悪ぃ……」
「「…………」」
赤面するふたり。
(……え?なに、あれ……)
え?白雪ちゃんまさかあの後あいつと付き合うことにしたの?
え?噓でしょ?あんなモブと?俺の可愛い白雪ちゃんが?
まさかの事態に目を白黒させて尋常ならざるラブコメ臭を放つふたりをガン見していると、背後から声をかけられた。
「ハーちゃん。なぁに、人を殺しそうな目してるの?」
露出度の高い、紐水着のような恰好をした巨乳の美少女。
同僚の、スイートハートナイトメア。通称『はあとちゃん』だ。
「ねぇ、はあとちゃん……あいつ、誰?」
「ああ、ハーちゃん見てなかったの?あいつ、最近あの子のパートナーマスコットになった男子だよ?戦闘中ぷかぷか浮いてた。ありゃ『亀』だね?」
「……亀?……パートナーマスコット?」
「え、知らないの?なぁんか魔法少女管理協会がウチらに対抗するために導入した新システムらしいよ?」
「何ソレ?」
聞いてねーよそんなの。
魔法少女の?パートナーだって?響きからしてなんかもうイヤラシイ。
瞳孔を開いたまま視線を向けると、はあとちゃんは『ちょ、コワイって』といって俺の顔をぐい、と押しやる。
「なんかぁ、ひとりの魔法少女に一匹のマスコットを付けて戦闘やその他諸々のサポートをさせるシステムらしいよ?人員がふたりになる分ミタマ回収ノルマも倍になるらしいけど、魔法少女を支えてくれる頼れる仲間なんだって?」
「いや、はあとちゃん……いとも簡単に言ってくれちゃってるけどさ、それって……」
魔法少女と仲良く楽しく活動するってことじゃねーか!なんだそれ!?
ノルマが倍になる!?
そんなん、魔法少女と一緒にいられる時間が増えるってことだろ!?
そうこうしている間に、鞄を手にしてその場を去るふたり。
「ほら、今日はこの辺にしてもう帰ろうぜ?家どの辺だっけ?」
「あんたの二つ隣の駅……」
「……送っていくか?」
「別にいい……」
「……そう……」
照れ照れしちゃって、まぁ!
白雪ちゃんのあんな顔、ハーメルンさん初めて見ましたわ!?
「しかもアレか?退治の後は仲良く揃って下校デートか!?ミタマ退治は遊びじゃねーんだぞ!?ナメてんのか!?」
「ちょ、ハーちゃん声大きいって……」
わたわたと腕を引くはあとちゃんのプリティフェイスも、今の俺には届かない。
――『パートナーマスコットシステム』!?
ふざけてんじゃねぇぞ?
遂に魔法少女の少子化にも対策を講じ始めたんですかね?あぁ?
「……許せねぇ」
「ハーちゃん?」
首を傾げるはあとちゃんに、俺は告げた。
「
悪の組織幹部、四天王【絶望の誘い手】――
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