第3話巨人の星日高美奈の死の星について

 巨人の星、今も語り継がれる野球漫画の金字塔だ。星飛雄馬、飛雄する馬、ペガサス飛雄馬が巨人の星へと辿り着くまでを描いた、一大長編エンターテイメントだ。

 この漫画を知る誰もに、お気に入りの名シーンがあるだろうが、ほとんどの人が、大リーグボール1号の完成までの道のりや、宿敵花形や左門豊作との対戦シーンなどを深く思い返すことだろう。

 だが、私に関して言えば、文句なしに、初恋の相手、日高美奈との、出会いから別れの場面を一押しとしたい。

 僻地へきちの診療所で、看護師として、働く美奈は、不治の病を抱えていた。

 「星君の目指す星が、あの天に輝く星ならば、私の星はこの指の爪の中の星 死の星よ」

 美奈は、黒色肉腫と呼ばれる悪性の癌に侵され出会ってまもなく、飛雄馬の腕の中で息を引き取る。

 村の子供や老人からも慕われ皆の涙の中で見送られるシーンは、記憶の片隅に今も鮮明にのこる。

 飛雄馬にはもう1人、アームストロングオズマと呼ばれた宿敵がいた。見えないスイングのオズマだ。

 オズマは飛雄馬のことを一目見るなり、彼が父一徹の手により作りあげられた野球人形であることを言い当てた。境遇を同じくするオズマの指摘に、絶望で自分を見失った飛雄馬が、死の縁でも健気に生きる美奈から、生まれて初めて人として生きる価値を見いだしたくだりは、下手な三文小説よりよほど筋が通っていた。 

 今思えば私自身、漫画の中の日高美奈に恋心を抱いていたのかも知れない。

 改めて恋敵こいがたき飛雄馬になりかわり、美奈さんのご冥福を祈りたい。

  合掌

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