有村奏海という少女 fin.
「今日最初、有村を見かけてすげえなって思ったんだ。愛想よくて美人で完璧って噂には聞いてたけどホントにそうなんだなって」
「・・・そう。」
「だから、あの男子を振ったときに見せた表情にはホントビックリしてさ。美少女というにはほど遠すぎるほどの死神みたいな無表情・・・そしていきなりなんか涙流してるし」
「・・・」
「でもさ俺そんな有村を見てなんか知らないけどめっちゃ強いなって思った。俺もさ、ちょっと昔に嫌なことがあって立ち直ろうと頑張っては見たんだけどさ結局ダメで・・・そっから結構いろんなことに投げやりになってさ、もうどうでもいいやって時期があっていまだにそれを引きずってたり・・・ははは」
「・・・」
「何かしらの理由はあるのかもしれないしもしかしたらないのかもしれないけど、あんなに落差のある表情は中々できないよなと思ってさ、だからきっと勝手に親近感がわいて勝手にその場で憧れを抱いちゃってて、そんで盗撮、、、。理由なんかないかもしれないけどそうやって強い自分を演じて貫いている有村と自分でいることをやめた俺、、、だからすごくかっこよかったし、何より美しかった。」
「・・・」
「き、気持ち悪いよな。何言ってんだ俺ほんと。。。終始言いたい事まとまってないし・・・。」
手に汗がびっしりと滴り流れ、それを食い止めるかのようにズボンの裾を軽く握った。顔はマグマが煮えたぎるがごとく熱くなっていて沸点などとうの昔に越えていた。
俺の目の前にいる有村奏海は目を丸くして、ビックリともとれるし呆れともとれるしどこか笑っているようにもとれるなんとも複雑な表情を浮かべていた。そんな有村奏海から目をそらすまいと必死に恥ずかしさを拭い精神を統一させるのに集中した。
「そう。それが私を盗撮した理由?」
静かに俺にそう告げた有村は優しげな声で問いただしてきた。
俺はコクリと頷きだけで返事を返した。するとなぜか有村奏海は徐にポッケから今度は自分のスマホを取り出し何やら操作し始めた。
「な、なにしてんだよ」
「ん?これ?ブラックリスト」
「あー、ブラックリストね。・・・・は??!!なんだよブラックリストって!」
焦る俺の声があたかも聞こえないでいるかのように表情を一切変えずその指でスマホを淡々と操作していた。
「私、気に入らない人は携帯のメモ帳にリストアップしてるの。あなたは最速でブラックリスト入りしたわおめでとう。誇ってくれてかまわないわよ」
「いや、そんな汚い誇り嫌なんだけど。というか俺、有村に何かしたか?それともやっぱり盗撮の件か・・・?」
「そりゃ盗撮もそうだけどさっきのは何なの?ストーカーのような脅迫文を意図も恥ずかしげなく並べまくっておまけに美しいだって???頭お花畑にも程があるわよ」
「や、やめてくれええええ」
満遍なく罵詈雑言を浴びせらる俺。確かに今思い返してみればただのストーカーの気持ち悪い自己満の文章みたいだったけどさ聞きたくないなら聞かなくていいって最初に言ったやん俺・・・。
そして一通りの操作を終えたのかスマホとにらめっこしていたその美少女の顔はもう一度俺へと向いた。
「下の名前は?」
「し、下?浩人だけど・・・さっき名前は覚えてるみたいなこと言ってなかったか?」
「町人Cみたいな役回りの人の下の名前まで覚えられるほどあいにく私の記憶力は良くないわ。申し訳ないわね」
「いや、俺のほうこそ悪い」
「別にいいわ」
え?なんで俺が謝ってんの???
有村奏海は入力を終えたのかスマホをポケットにしまい腕を組みもう一波乱ありそうな雰囲気を醸し出しながら口を開いた。
「まあ今気づいたかもしれないけど、私猫かぶりなの」
「うん。だいぶ前から気づいてたけどな」
「そう。じゃあなんでこんな自分にデメリットしかないようなことをあなたに言ったと思う?」
「そ、それは・・・俺が盗撮して・・・その、証拠的なのを取られたからか?」
「半分正解ね」
「もう半分は?」
「大体予想がつくでしょ」
有村奏海は少し伏し目がちになりどこか落ち着かないような雰囲気を出していた。え?まって?マジ?そんな胃もたれするような王道ラブコメ展開あり得るのか???
「もう半分はね・・・」
「もう半分は・・・?」
そして有村奏海はグッと背伸びをして俺の耳元へと口を近づけた。その距離わずか三センチもないだろう。肌寒い空間の中、有村奏海のほんのわずかで温かな吐息は俺を硬直させた。
きっと香水の香りだろうか、甘くて優しく脳がとろけそうまであるその香りは俺を夢心地へと誘った。ここが天国だといわれても否定はしない程度に俺は虜になっていた。
「安パイだからよ」
「へ?」
そうとだけ伝えると満足げに俺から距離を置き有村奏海は悪魔的な笑みを浮かべていた。きっとここが地獄だといわれても俺は疑わないだろう。
「だって宮野君見るからに陰キャだし友達いなさそうだし社会的に立場低そうだし。あー、こいつつかえるなって思ったの。ほらだって盗撮までしたでしょ?もうこれはあなたの弱みを握ったといっても過言じゃないわよね?まあ、もうこれっきり関わることはないとは思うけどもし宮野君が変な気を起こして今日のことを話そうもんなら・・・社会的に殺すからね?」
淡々とそう告げる有村奏海にただただ俺は呆気にとられていた。だが俺も腐っても男、ここまでコケにされるものならムカつかないわけがなかった。
「あ、有村には関係ないだろ。俺は好きで陰キャやってんだよ。社会的地位が低くたって俺には別に差し支えない」
「私、宮野君みたいな人一番嫌い」
「え?」
有村奏海は完全にイライラしていた。腕を組み右足はあたかも怒りを抑えようといわんばかりにつま先を上げては落としての上下運動を繰り返していた。
「私はあんたとは違って努力をしてきた。親近感?何それ??反吐が出るわね。好きでそうなってるなら別にいいんじゃない?憧れ?なにそれやめてくれる??私はあんたなんかに憧れられてしまうほど安い努力はしてない。私のことを知ったような口は利かないで!」
少し取り乱している有村奏海見て俺は何も言い返せなかった。いや。言い返すことが出来なかった。その場で数秒立ち尽くすことしかできなかった。
そして有村奏海「すーーーはーーー」と深い深呼吸をしてから俺に背を向けた。
「それじゃあね。宮野君」
振り向きざまに有村奏海は優しく俺にそう伝えるといつものように振り向きざまに笑顔を見せてこの場を立ち去っていった。
その笑顔はいつも通りの有村奏海ではなく儚げで美しくどこか繊細でおとぎ話の中に出てくる悲劇のヒロインのようで複雑さに満ちていた。
「なんなんだよあいつ。」
俺はそうぽつりとつぶやき高鳴る心臓の鼓動を抑えられずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます