12.侯爵令嬢の画策


 許せない。ミラディアの心は荒れていた。

 表向きはライディスとジュリアの結婚を祝っているふりをしているが、ちっとも喜べるはずがない。

 幼い頃から、ミラディアは王妃になるべくして育てられていたのだ。

 自室のベッドに飛び込み、ミラディアは怒りのままにクッションを殴りつける。

 侯爵令嬢にはあるまじき行動だ。

 しかし、誰の目もない私的空間でまで猫を被る必要はない。


「何が〈運命の相手〉よ。ライディスのことを知りもしないで、よくも……っ!」


 冷血漢だの、女嫌いだの、ライディスは社交界で好き勝手に言われているが、実際はとても優しい男性だ。

 ミラディアは、完璧な王子様であるライディスのことが昔から好きだった。とはいえ、近づこうにも触れさせてもらえないので、ミラディアとライディスの距離が縮まったことはない。

 それでも、ライディスに一番近い女は自分のはずだった。あの女が現れるまでは。


 ジュリア・メイロード。社交界では名の知れた悪女だ。

 しかし、あれのどこが男をたぶらかすというのだろう。

 容姿で言えば、ミラディアの方がよっぽど美しいし、礼儀作法だって教養だって自分の方が上だ。


 それなのに、運命に邪魔をされた。

 運命神ディラを信仰しているこの国では“運命”という言葉は重い。


「それに、あの女……このわたくしに言い返すなんてっ!」


 堂々と〈運命の相手〉であると、ジュリアは言った。

 ライディスに愛されることをずっと願ってきた自分に対して。

 男爵家という低い身分、そこそこの容姿、挑戦的な態度。

 本物の花嫁になるはずだった自分が身代わりに選ばれたという屈辱。

 何もかも、気に入らない。

 男を何人も相手にしてきた女だ。ライディスとの結婚を受けたのは、王子という立場に目が眩んだからに違いない。

 どうせ、他にも男がいるはずだ。


「そういえば……あの女の婚約者を名乗る男たちが大勢、王宮に押し掛けていたわね」


 思わず、ミラディアは笑みを浮かべる。

 潔癖で完璧な王子であるライディスに、あの女はふさわしくない。

 利用できるものは利用しなければ……。

 ミラディアは、そうしてこれまでも王子に近づく女たちに裏で制裁を加えていた。

 ライディスの〈運命の相手〉であろうと、関係ない。


「ライディスにふさわしいのは、このわたくしよ」


 ミラディアは突然現れたライバルをどうやって王宮から追い出すか、考えを巡らせ始めた。


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