第4話 帰り道
真也の自己紹介―というかスピーチ―が終わり、興奮冷めやらない教室。
しかし、いつまでもそうしてる訳にはいかない。
薫は一つ咳払いをして、教壇に意識を集める。
「えー、真也…だったかな、中々衝撃的なスピーチだったよ。まぁ、それはともかく…これで一通り全員の事は把握できた。ではこれからこの高校の重要事項などを話すから、聴いてくれ」
そう言い語り始める薫。
「まず、君たちは言わなくても既知であると思うが、この明文高校は都内最大の生徒数―――約1800人もの生徒が在籍している私立高校だ。まぁ、正確には1793人だがね」
1学年当たり約600人、教師など含めればもう100は増える程の人数を抱えるマンモス高校―――それが明文高校だ。
「明文は文武両道をスローガンに掲げているため、スポーツ、学問、両方に力を入れている」
実際、野球では甲子園、サッカーやバレーなど様々なスポーツでインターハイに行った事もある。
常勝ではないもののそれなりに力のある高校である。
学問も、流石に東大合格者数1位の某高校や、神戸にある某高校ほど優れていないが、総じてレベルが高い。
「校則も比較的緩いのでストレスを余り感じる事なく過ごせると思う。そこの梨花みたいに、髪を染めても特に何も言われない」
この校則の緩さが明文高校の人気の一助となっている。
その後も、薫は、教科書の費用や、文化祭、体育祭などのイベントの事など、色々と話した。
「とまぁ…重要な事は粗方話し終えた。という事でこの後は教科書などを配布して下校となる」
配られた各教科の教科書を受け取り、本日は下校となった。
▲▲▲▲▲
(なんでこいつらがついて来るんだよ!?)
入学式やLHRが終わり下校しようとした真也だが…。
「真也くん、さっきの自己紹介凄かったね!」
「本当! 圧倒されちゃったよね」
「すげーなお前!」
梨花と沙耶が「一緒に帰ろう」と声を掛けてきて、鹿助もそこに参加してしまい、四人で帰る事になったのである。
初日から一緒に下校する人がいるため高校生活の滑り出しは順調かと思うかもしれないが、真也としてはこれっぽっちも嬉しくない。
むしろ、道行く人々にその秀麗な顔を讃えられ、悦に入りながら一人で帰ろうとした真也にとって怒り心頭の出来事なのだ。
「ハハハ…緊張してたから上手くいってよかった」
(まぁお前らと違って俺は天才だからな! これぐらい朝飯前よ!)
少しおだてられるだけで調子にのる真也。
どんな些細な悪口も見逃さない真也だが、褒められると明らかなお世辞であっても気を良くするのだ。
何故ならそれがお世辞と気付かないから。
おめでたい頭をしている。
「あっそうだ、入学試験の結果を皆で発表し合おうぜ!」
唐突にそう言う鹿助。
「いいねそれ!」
「賛成!」
すかさず梨花と沙耶がそれに追随する。
真也はというと―――
(や、やばい…! ど、どうする?)
―――めちゃくちゃ焦っていた。
理由は察しのいい者なら既に分かっているだろう。
真也はそれ程、入学試験の成績が良くなかったのである。
しかし、真也が憔悴している間に事は進んでいく。
まずは梨花から発表するようだ。
「ウチの順位は600人中、7番目だったよ!」
「え!? 梨花っちまじで!?」
梨花は以外にも頭脳明晰なのだ。
沙耶や鹿助は純粋に驚いているようだが真也は違った。
(はぁ!? こいつが7位だと!? う、うう嘘だ! そんな事ある筈がない! わ、賄賂だ! 絶対に賄賂を渡してる!)
自分よりも劣っていると思ってた相手が自分よりも遥かに優秀だと判明した途端、現実を受け止められなくなる真也。
流石に見苦しい。
「じゃあ次は沙耶ちゃんの番ね」
「はーい。あたしは50番目だったね」
梨花とまでは行かなくともそれなりの沙耶もそれなりに好成績だ。
真也よりも好成績なのは言うまでもない。
「次は俺の番だな! 俺は、512番目だったな」
それを聞いた途端内心で吹き出す真也。
(ブハハハハ! 流石に『馬鹿』なだけあるな!)
沙耶すらも自分より優秀な点数を叩き出してたのでイライラしまくってた真也だが、鹿助が自分より下だと判明すると途端に上機嫌になった。
こいつは自分がこの後、発表しなければならない事を分かっているのだろうか?
「じゃあ最後は真也君だね!」
梨花にそう言われると真也はまた再び焦り始める。
喜怒哀楽が激しい男である。
無論、悪い意味で。
(いや、マジでどうする…? 過大申告するか? 嫌でも、万が一バレた時には…)
真也は、己の頭をフル回転させ今出すべき最適な答えをひねり出す。その間僅か2秒。
そして出した答えが―――
「俺は、334番目だ…」
なんでや!
(ぐぅぅぅ…! なんたる屈辱! この俺がここまでコケにされるとは…! こんな事になるんだったら偽の順位を言っとけば…)
誰もまだ何も言っていないし、コケにもしていない。
自尊心を傷付けられて一人で苦汁をなめる真也の姿は酷く滑稽だ。
「なんだ真也、お前あんまり頭はよくねぇのか!」
「ハハハ…勉強はあまり得意ではないんだよ」
(ががぐぎぎぎ…!! 馬鹿ァ! テメェだけはぶち殺す!!)
存外真也の順位が低かったことをからかい背中をバシバシと叩いてくる鹿助に真也は苦笑いしながら受け答えるが、内心、怒り狂う。
周囲の人々に自分を完璧に魅せる事、そしてその人々を思い切り見下し馬鹿にすることこそを至上の喜びとしている真也にとって、逆に自分が馬鹿にされる事は、筆舌に尽くし難い程の屈辱なのだ。
「へー、真也君って勉強が苦手なんだ。意外かも!」
「意外だね。真也っちってば何でも完璧にこなす印象があったから」
それは真也が散々見栄を張り続けてきた結果なので自業自得である。
真也は己を偽る事だけが一級品であって、それ以外はスポーツも学問も平均的である。
本人はそれを意地でも認めていないが。
「じゃあウチが勉強教えてあげよっか?」
そう言ってくる梨花は純粋な厚意から言い出したのだが…
「いや、大丈夫だ。なんとか一人で頑張ってみる」
(うっわ…少し自分の成績が良いからって天狗になってやがる。クソがっ!)
どんだけ捻くれればこのような思考回路になるのだろうか?
それに鼻が宇宙に届きそうなほど高く、天狗になってるは真也の方だ。
「そっか…教わりたくなったらいつでも言ってね」
「分かった」
(誰がお前なんかに教わるかバーカ。それに…)
断った際に見せた落胆の瞬間を真也は見逃さなかった。
梨花が真也に多少の好意を抱いてる事など、自分に向けられる感情に誰よりも機敏な真也にとって、とっくにお見通しだった。
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