第7幕

「殿下、紅茶のおかわりはいかがですか?」


 白薔薇宮の庭園で楽しむ、午後のティータイム。

 ラズベリーソースを添えた甘味たっぷりのロールケーキを引き立てるよう、今日の紅茶は酸味を少し強めに淹れたローズヒップティー。


「茶葉を変えたのかしら。いつもより美味しく感じる……」


「だって、私の色んな成分が入ってますもの♪」


 ぶぴゅるぅ。

 ……ミアリスは盛大に紅茶を噴き出した。


「な、ななな何を入れたというの……?」


「ふふ、冗談ですわ。強いて言えば愛情を入れましたけど、妙な物は入れてませんから」


「……貴女は普段が普段だから、怖いのよ」

 

 そう言いながらも、ロザリアが淹れた紅茶を残したりはしない。


(ふふ、今日も殿下は可愛いですわ♪)


 ロザリアは満足だった。


 ※ ※ ※


 帝国貴族に紅茶を広めたのは、第十二代皇帝「美女皇帝」ベルモニカ。

 元来質実を尊ぶ騎士の国であり、ともすれば武骨、文化面で遅れていた帝国を変えるため、女帝自ら新しい文化を次々と取り入れた一環である。


 その末裔として、ミアリスも紅茶に関しては譲れないらしい。


「いいこと? 大体ね、紅茶で遊ぶなんて不謹慎よ。紅茶を頂く時は優雅に、エレガントに。それが大おばあさまの代からの、帝国淑女のたしなみなんだからね!」


 ……色々こだわりが有るようだ。


「とにかく紅茶は、普通に飲むのが一番なのよ」


「あら、殿下ったら、そんなこと言って……」


 これは良いのでしょうか?

  ミアリスのいちばん好きな紅茶の飲み方を手伝いながら、ロザリアは考える。


 互いの唇と蕩ける舌を伝わせ、吐息と共に紅茶を口腔へ。

 甘い甘い、口移しの飲み方。


「んっ、もっとぉ……。熱いのが、欲しいのぉ……」


「ちゅ、んっ、殿下ったら、普通がいちばんでは、ありませんでしたの?」


 やっぱり、紅茶よりも、ケーキよりも、接吻くちづけが好き。

 午後の庭園で、二人の愛の儀式は続いた。

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