第5幕

 昨日噴水に落ちたせいで、ミアリスは風邪を引いていた。


「まだ、熱が有るのかしら。お顔が赤いですわ」


「は、離れてよ!」


 額を合わせて熱を測る。

 大好きなロザリアの顔が近すぎて、思わずいつもより強めに、胸を突き飛ばしてしまった。


「……貴女に、移してしまうわ」


「殿下、ごめんなさい」


 ミアリスが熱を出したのは、ロザリアの悪戯にも原因が有って。

 彼女も元老院から、監督不行き届きと叱責を受けていた。


 窓の外、薔薇園は雨。いつもより宮廷が静かに感じるのは、雨粒の跳ねる音が、人々の喧騒を掻き消すからだろうか。


「……私、お水を替えてきますね」


 気まずい沈黙に耐え兼ねるように、ベッドの横を立とうとするロザリア。

 そのスカートの裾を、つい、掴んだ。


「別に、怒ってないからね?」


 弱っているせいか、今日は素直に甘えられる気がした。


「怒ってないから、そばにいて。独りにしないで……」


 自分の頬が、薔薇色に染まるのが分かる。

 それでも、ちゃんと伝えたくて。ベッドから身を起こし、紺碧の瞳をまっすぐに見つめた。


「殿下……。ええ、喜んで!」

 

 大輪の花が綻ぶように、ぱぁっ、と顔を明るくさせ、ロザリアは抱き付いてくる。


 でも、今日はこれだけじゃ足りない。


「……ほんとに、私を独りにしない?」


「はい、殿下がお望みなら、雨の日も、風の夜も」


「……そう。なら、誓いを立てなさい」


 瞳を閉じ、勇気を出して震える唇を突き出してみせる。


「誓い、ですか? ……あっ」


 やっと、この小悪魔を恥じらわせてみせた。


 ……そして、誓いのキスを。雨粒のアリアが天上の音楽のように、二人の神聖な儀式を祝福する。


「んっ、殿下……。誓いは、まだ足りないですの?」


「ちゅっ、ん、だめよ、ちっとも足りない。だから、もっとキスして……」


 ……この後風邪が移り、ロザリアは三日三晩寝込んだ。










【おまけ】



「ねえ、ロザリア。私のパンツが見当たらないのだけど」


「あらあら、大変。普段から、きちんと整理しないからですよ」


「そうね、気をつけるわ。……ところで、その頭に被ってるのは何?」

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