第4幕

「ふふ、殿下ったら、こんなにびしょ濡れにして。恥ずかしい方ね」


「もう、あんまり見ないでぇ……」


 皇女ミアリスは、噴水に落ちていた。

 アレストリアの皇居、ロベーヌ白薔薇宮の片隅にて。

 薔薇園の噴水そばで小鳥達と戯れていたところ、足を滑らせたのだ。


 居室に戻り、侍女ロザリアは早速、主の衣服を奪いにかかる。


「さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね♪」


「ばかね、一人で出来るわ」


 抗議の声は無視して、ドレスにコルセット、ドロワーズと剥ぎ取っていく。


「……それで、着替えは?」


 一糸纏わぬ姿のまま、真っ赤な顔で睨む主の視線に、ロザリアの興奮は天井知らず。


「だって、お身体がお冷えでしょう? ちゃんと暖めてあげないと♪」


 勿論、人肌で。

 ミアリスの濡れた肢体を、ベッドへと押し倒し、ぎゅぎゅっ、と熱く抱擁。


「こら、貴女まで濡れるじゃない。というか、痛いってば!」


「だって、水の滴る殿下があんまり可愛いのですもの。ああ、良い匂いですわ!」


「……もう、知らないっ!」


 皇女の瞳。深い森を映す湖水のような、翠の瞳は、少し怒っているけれど。

 けして、拒絶の色は浮かんでなくて。


 それがロザリアには愛しかった。


(……私の愛情表現は、少し歪んでいるから)


 自覚は有るのだ、普通でないと。

 これでもロザリアは、若干16歳にして、学者達も舌を巻く才媛。

 数々の学問を修めた彼女も、しかし自分のことは分からない。


(だから、嬉しいの。こんな私を、受け止めてくれる事が)


 頬擦りだけで、この胸の高鳴りは伝えられないから。

 照れる姫君のおでこへ、熱い接吻ベーゼを。


「可愛い殿下、末永くお仕えさせて下さいね♪」

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