ハロウィンの間違った思い出

岳石祭人

ハロウィンの間違った思い出

 ハロウィンって言うと、「ハッピー・ハロウィン!」なんて、すっかりイベントになってるけどさ。


 ハロウィンって言ったら、やっぱりホラーだろう?


 子どもの頃さ……って言うともう大昔になっちゃうけど、テレビですっごい怖い映画見てさ。



 アメリカの、田舎の小さな町が舞台で、

 ハロウィンの夜、主人公の女の子が……今で言うコンビニみたいな雑貨屋の家にイタズラしに行くんだ。

 この店は痩せた旦那と太った奥さんの夫婦でやってるんだけど、奥さんが怖い人で……大人のお客には愛想いいんだけど、それで子どもたちはあんまりイタズラに来てないんだな。

 家からは夫婦の言い争う声が聞こえてくる。女の子が窓から覗くと……

 日頃奥さんの尻に敷かれて言いなりの旦那が、とうとう我慢出来なくなったみたいで、斧を手に取ると、スパーン!、と、奥さんの首を吹っ飛ばしてしまうんだ。

 女の子が目を点にして動けないでいると、旦那に気づかれて、旦那は怖い顔で、「しっ」と口の前に指を立てて、

『黙ってろ』

 ってわけだ。

 女の子は逃げ帰って……



 ……ってところで、幼いオレはギブアップ。

 テレビの部屋から逃げ出したんだけど。


 後で、いっしょに見ていた姉から続きを聞いたんだ。



 女の子が逃げて行ってから、旦那はどうしようか考えた。

 奥さんを殺してしまって、それが知れたら捕まって、死刑になってしまう。

 そこで旦那は、奥さんの首を胴体に縫い付けて、店にあった黒魔術の本を見ながら、魔法陣を書いて、呪文を唱えて、奥さんを甦らせた。


 翌日になって、女の子が店を見に行くと、なんと死んだはずの奥さんが店にいて、お客の相手をしている。

 でも実は、大きな襟で隠しているけれど、奥さんの首にはぐるりと、糸で縫った傷跡があるんだ。


 奥さんはだんだん顔色が悪くなってくる。心臓が止まったまま動かないで、血がどんどん腐っていくんだ。

 旦那は奥さんに命令されて、子どもをキャンディーで釣って、店の奥に連れ込む。すると、すっかり悪魔みたいな顔になった奥さんが、斧を振り上げ、スパーン!、と子どもの首を切り落とし、転がった頭を拾い上げると、切り口にかぶりついて血をごくごく飲む。

 旦那は真っ青になるけれど、いつも通り、奥さんには逆らえない。


 夜になって、町は子ども……幼い男の子がいなくなって、大騒ぎ。

 大人たちは総出で捜して、店の夫婦も怪しまれないように捜索隊に参加する。


 奥さんが旦那に殺されたのを見ていた女の子は意を決して父親たちにその事を話して、

「いなくなった子は奥さんに殺されたんだわ!」

 と訴えるが、

「昨夜はハロウィンだったからね(そういう夢を見たんだろう)」

 と相手にされない。


 女の子は自分が解決しようと、仲間の男の子と一緒に、夫婦の家に忍び込む。

 怪しいのはここだ、と地下室に下りる。

 すると、首にカボチャを載せた男の子の死体を見つける。

 やっぱり奥さんが犯人だ!と大人たちに知らせに戻ろうとすると、なんと!、カボチャ頭の男の子が動き出して、二人を襲ってくる。

 キャーッ!、と悲鳴を上げる二人。すると、女の子の様子を気にした夫婦が捜索隊に言い訳して家に帰ってきて、その悲鳴を聞いてしまう。


 旦那は地下室の死体を見られたことを知って、もう駄目だと観念して、もう一度奥さんを殺そうとするんだけど、返り討ちにあって、スパーン!、と首をはねられてしまう。

 旦那の首はころころ階段を転がって地下室に落ち、それを見てまた子どもたちは悲鳴を上げる。

 階段には旦那の首なしの体が滑り落ちてくる。

 上からは血まみれの斧を持った奥さんが見下ろしている。

 絶体絶命の子どもたち!

 すると、カボチャ頭の男の子が、自分を殺した奥さんに標的を替えて飛びかかっていく。

 けれど簡単にカボチャ頭を掴まれて、グシャン!、と握りつぶされて、血が飛び散って、男の子は倒れて動かなくなる。

 悪魔みたいな顔の奥さんが子どもたち二人に、

「あーあ、せっかく栓をして取っておいたのに、駄目にしちまったよ。それじゃあ代わりにおまえたちの血を戴こうかねえ」

 と、ニタリ。

 絶体絶命の子どもたち!

 すると、旦那の生首が目をまたたかせて、目を動かして、女の子に、

『首を、胴体に』

 と合図を送る。

 女の子は意を決して、旦那の生首を持つと、ダッシュして、胴体に合体させる。

 すると、旦那は手を動かして、ちょうど自分を踏んづけて地下室に下りようとする奥さんの足を掴んで引っ張る。

 奥さんはすっ転んで、糸がほどけて、首がピョーン。

 奥さんの生首も、胴体も、干涸びて、しわくちゃのミイラになってしまう。

 子どもたち二人は助かって、


 めでたしめでたし。



 って話。

 でな、中学生になって、思い出して、

「子どもの頃見た、これこれこういう、ハロウィンの映画、なんて映画だったっけ?」

 って姉貴に聞いたんだけど、そんな映画見た覚えはない、って言うんだ。

 いや、見ただろう、ってしつこく聞いても、知らん!、って。


 おかしいなあ……って、謎だったんだけど。

 インターネット時代になって、分かった。

 オレが見たのはな、映画じゃなくて、アメリカの開拓時代を描いた国民的ドラマ(※)でな、その1エピソードだった。

 イタズラしに来た子どもたちを逆に脅かしてやろうと、夫婦の、マネキンを使った、お芝居だったんだ。

 チャンチャン♪


 ……でもさ、後半は全く違うんだよな。そんなスプラッターな展開、国民的ドラマでやるわきゃないし。

 別のホラー映画と混同しちゃってんのかなあ……

 でも、確かに姉に聞いたと思うんだよなあ……

 しつこく訊いたら、そんな気持ち悪い話、するわけない!、ってキレられたんだけど。

 ……なんなんだろうね?


 おしまい。




(※)「大草原の小さな家」のシーズン3第5話「こわい夢」でした。ねつ造してごめんなさい。

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