第28話 和解
「やったわ!」
ラブラが快哉を叫ぶ。
フレドの本領はメカニックだ。
一目機体をみれば、それがどんな状況にあるかは、手に取るようにわかる。
リエの機体は、逃亡後、一度もメンテナンスを受けてはおらず、整備不良の状態にあった。
ましてや、空戦用の機体を地上で無茶な運用をすれば、やがてガタがくるのは必然。
さらに、飛行型のリエの機体の脚は、着陸とジャンプをするために存在している――つまり、上下の衝撃には強いが、左右へのそれは考慮されてないことを知っていれば、作戦の方針は自ずから定まろうというものだ。
「油断するなよ! 姉貴はこっからが強い! ひたすら弾丸を撃ち込め」
「わかってるわよ!」
ラブラが躊躇なくリエに向けて弾丸を連射した。
こうなってしまえば、後は簡単だ。
ひたすらリエに攻撃を集中させれば、カインはそれをひたすらかばい続けるしかない。
こちらに背中を向け、風の魔法で必死に弾丸をそらすカインの姿は見ていて痛々しい。
こんな茶番は一刻も早く終わらせよう。
『「不殺」の名に誓って、お前たちの身の安全は保障する。こんなクソったれな世界から抜け出す方法があるんだ。聞いてくれ!』
フレドは切実に通信を打つ。
『応じるわ』
反応は早かった。
通信に即答したリエは、フネの武装を解くと、ハッチから出てきて両腕を上げる。
「射撃を止めるわよ」
ラブラは、しっかりとライフルの銃口は向けたまま、攻撃を停止する。
「リエ! しかし、彼らは僕たちを殺そうとしたんだよ?」
「もしそうだとしても、このまま、カインがウチの前で殺されるのは見てらんない!」
「ああ、リエ! なら、いっそこのまま二人で果てよう!」
ひしっ、と抱き合うリエとカイン。
『勝手に盛り上がるな。殺さないっていってるだろうが。殺したいほどムカつく光景だがな』
シズが毒々しい口調で吐き捨てる。
『……まずは、クリムゾンローズを穴の外に運び出すぞ。修理がてら事情を説明しよう』
フレドたちはボクサーでリエのフネを牽引し、安全な穴の外まで出る。
そのまま、リエたちが隠れ家としていた洞穴まで移動すると、フレドは早速、手持ちのパーツで、修理を始めた。
そして、万全とまではいかないが、最低限の整備が終わる頃には、一通りの経緯を話し終えていた。
「つまり、ウチのローズが直ったら、後はフレドっちたちについていくだけで、ダーリンとラブラブできるって話っしょ !? マジアガるー! 最高! さっすがフレドっち。あったまいいー! よっ! 世界一」
リエがそんな調子のいいことを言って、フレドの頭を撫でてくる。
「フレドは私のよ! 気安く触んないで!」
ラブラがすぐにその腕を払いのけた。
「ああ。リエは男女を問わず無意識的にスキンシップをしているようだが、今後は控えた方がいい。お前の恋人が今にも俺を殺しそうな目でみているからな」
「そんな目をしていたかい? まいったな――それにしても、イネルスくんが裏切りか。彼女は暗部だと聞いているし、色々複雑な事情があるのかもね」
カインは気まずそうに苦笑して、そう話題を変える。
「え? あ、あんた何言ってんの。暗部って、イネルスはただの従者よ?」
そのさりげない言葉に、ラブラが顔を引きつらせる。
「なんだ。知らなかったのかい? カタハネの君はいろいろ辛い思いをしてきたかもしれないが、それでも貴種のラブラくんに、ただの従者はつけないよ。名家同士の抗争で暗殺されるような可能性もないではないし、もしそんなことがあれば、家の評判が落ちるからね」
「でも、あの子、ドジなのよ? よく転ぶし、魔法だって、二回に一回は失敗するし、時々おねしょだって――。そんなあの子に、暗部が務まる訳ないじゃない!」
「これを言うのは非常に心苦しいんだけど、イネルスくんは演技をしていたんじゃないのかな? ラブラくんは行動を制限されて、魔法がほとんど使えない状態だっただろう。……主人より、従者が優れている訳にはいかないから、色々と気を遣っていたんだと思うよ」
カインがそう言って、視線を伏せる。
「そ、そんな。じゃあ、私が今まで見てきたイネルスは全部嘘だったっていうの?」
ラブラが口を開けて、呆然と呟く。
「今となってはどうでもいいことだ。どんな事情があるとしても、あいつらがボクたちを裏切り、同士討ちさせようとした事実は変わらない。言っておくが、あの従者を探している時間はないからな。こうしている間にも、軍の連中がボクたちの下に迫ってる。近くに他の天使族の反応もないし、おそらく、イネルスは僕たちの位置を敵に知らせているだろう」
シズが冷めた口調で言い放つ。
「残念だけれど、僕もシズくんに賛成だな。割とこういう感知は得意なんだけど、彼女の気配を感じないんだ」
カインが小さく頷く。
「フレド――」
「……悪い。俺もこればっかりはどうしようもできない。もし、イネルスの方から助けを求めてくるなら、まだやりようもあるかもしれないが」
助けを求めるようにこちらを見てくるラブラに、フレドはそう答えるのが精いっぱいだった。
「……ええ。そうよね。わかってる。わかってるわ。でも、もし、あの子と会えたら、少しだけ、ほんの一瞬だけでいいから、話をする時間をちょうだい。一言、お礼を言いたいの。たとえ、あの子が嫌々だったとしても、私はあの子に助けられてきたのよ」
蚊の鳴くような声でそう呟くラブラの言葉を否定できる者は誰もいない。
フレドたちはただ無言で頷いて、黙々と脱出のための準備を進めた。
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