第14話 事後処理とこれから

 それは、葬儀といえるほどの大層なものではなかった。


 荒廃した森からかき集められた木々を燃料に、焼かれる数人の冒涜者たち。


 彼らは不幸な犠牲者であるが、キメラに食われた遺体の多くがその一部すら残らなかったことを考えると、それでも恵まれている方なのだろう。


 一晩経って、村に戻ってきた農民たちが肩を寄せ合って、その光景を見つめている。


 ある者は生の喜びを噛みしめ、ある者は呆然と、ある者は静かにすすり泣きながら。


 その傍らに、フレドたちもいた。


「……本当にいいの?」


 ラブラが確認するように呟く。


 その視線の先にあるのは、水のキメラが取り込んでいた設置型の大口径高射砲であった。


 空砲の先端には、袋に包まれた砕かれた天使族の遺骸が装着されている。


「初めて会った時に言っただろう。俺の理想は、天使族と冒涜者の共闘であって、一方的な収奪じゃない。本当は、遺骸を汚したくなんてないんだ。それに、今回の件で俺は、天使族にも共に戦うに足る高潔な精神の持ち主がいると知った。いわば、これは俺たちのラブラたちへの信頼の証だ。お前たちはどうだ?」


「……天使族は――いえ、私は、臆さずに強者へと立ち向かう者に敬意を払うわ。たとえそれが冒涜者でも、気持ちは変わらない。ね、イネルス」


「はい。お嬢様がそうおっしゃるなら」


 ラブラに水を向けられたイネルスが、静かに頷く。


「じゃあ、いくぞ。手を合わせろ」


 四人同時に発射レバーを引く。


 轟音と共に打ち上げられた遺骸が、空へと消えていった。


 その後のことは分からない。


 モンスターの餌になるかもしれないし、運が良ければ、天使族の誰かが見つけるかもしれない。


 そんなに適当でいいのだろうか。


 事前に天使族の風習を尋ねたフレドに、『それでいい』とラブラは答えた。


 後は自然の摂理に任せるのだと。


 どうやら天使族も昔は、それぞれの一族の墓標を持っていたらしい。しかし、冒涜者に遺骸を盗まれてからは、利用されないように粉々にくだいてから、空に撒くようになったのだと言う。


「あんのお……すんません」


 余韻と共に空を見上げていたフレドたちに、昨日助けを求めてきた男が話しかけていた。


 後から聞いた話だが、男はこの村の長だったらしい。


「なんだ?」


「本当にこげな高そうな武器もろてもよかですか? 後でお咎めうけるようなことは……」


 キメラから接収し、広場に積み上げられた兵器の数々を指して、心配そうに呟く。


「問題ない。フネに使えそうなパーツはあらかた回収したし、俺たちには輸送手段もないからな。今現在、この村で一番上位の軍関係者は俺だから、法においても決定権はある。処分して、村の再興の足しにでもしてくれ。ラブラたちも異存ないだろ?」


「どうせ私に冒涜者の兵器の使い方なんてわからないし、キメラの色の方は大体食べ尽くしたからどうでもいいわ」


 ラブラは本当にどうでもよさそうに欠伸した。


 だが、付き合いの短いフレドでも、それが照れ隠しだと分かる程度には、彼女のことが理解できるようになっていた。


 ちなみに、昨日はそこかしこに傷がみられたラブラだが、大量のキメラの力を取り込んだせいもあってか、たった一晩寝ただけで元の玉のような肌を取り戻している。


「村を守ってもらったばかりか、こげなことまでしてくださるなんて、なんと優しい軍人様だべや。ありがとうごぜえます! ほんにありがとうございます」


 男はそう言って何度もフレドを拝んだ。


「いや、もっとも効率的に資源を配分しているだけだ。遠慮なく使ってくれ」


 そんなに感謝されると申し訳なくなってくる。


 もし、仮にあのキメラがフレドたちを狙ったものなら、彼らは巻き込まれた形になるのだから。


 もっとも、そんな証拠もない裏事情を彼らに話すことなどできないので、兵器の所有権の譲渡は、フレドにとっての精いっぱいの誠意だった。


「んだば、ありがたく……。それで、軍人様たちは今日も村に泊っていかれるべや? んだば、大したことはできないけんども、精一杯もてなさせてもらうべが」


「いや、せっかくだが、先を急ぐ。少々、予定より遅れてるんでな。早く中立都市につかないと、入都許可証の期限が過ぎてしまう」


 村人の死体の捜索や、残骸の処理に協力していたせいで、時間が押している。


「わかったべや。なら、せめてお見送りさせてくだせえ――おーい! 村の衆! 軍人様が旅立たれるで! 集まってけれ!」


 男が村人に声をかけに行く。


 その光景を後目に、フレドたちはボクサーへと乗り込んで、所定の配置についた。


 村人たちの見送りを背に、村を出立する。


「次の目的地は、ヨークかあ。唯一、天使族と冒涜者の混在が認められている場所よね。そこに、カインとシズの姉さんが潜伏しているっていう噂の」


 ラブラが好奇心をのぞかせる声で呟く。


「ああ。そうだ」


 フレドが頷く。


「でも、よく考えたら、隠れている二人をどうやって探すの? ヨークは結構な広さがあるって聞いてるわ。二人は有名でも、カインの魔法なら、見た目を変えるくらい簡単なのよ?」


「ああ、それな。簡単だ。俺とお前で逢引する」


「なるほどー。逢引ね。はいはい――って、ええええええええええええええええ!」

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