第48話 蜘蛛の巣

オークの巣を出発して森の奥へとアラクネを探して歩いている。


俺と仙とサクラさんだけなら今の何倍も先に進めていたがそれだとオーク達がついてこれない。


オークがついてこれないとオーク達に仙の配下強化の恩恵に預かれない。


オークを効率的に強化するためには配下強化は必須だ。


オークのペースに合わせると手持ち無沙汰になるので命力と魔力同時操作の特訓をして過ごした。


仙も命力操作のコツをサクラさんに聞きながら特訓していた。


俺は命力と魔力の同時操作に全く進歩が見られないのに仙は目に見えて命力の扱いが上手くなっている。


これも本物の天才と貰い物の天才の違いなのか。


泣き言を言っても現実は変わらない。


このままではすぐに仙に追い越されて主の威厳が保てなくなってしまう。


何かエロと結びつく訓練方法でも思いついたら種族効果で何とかならんかなぁ。


魔力と命力を同時に操れたら催眠術に目覚めるとかないかな。


そうなったら天使に上目使いで「スライムさん大好き」って言ってもらったり、サクラさんに抱っこしてもらって桃源郷を堪能したり夢は膨らむなぁ。


いやサクラさんは今でもお願いしたらそれくらいやってくれそうだなもっと違うことをやってもらうべきだな。


「わぁ、クソ、ペッペ。」


オノレェ~、俺が魔力と命力を同時に操るために訓練方法の一つとして種族効果を効率的に活用するために妄想じゃなくて想像力を高めているのを邪魔するとはタダの蜘蛛の巣のくせに。


『仲間に対して催眠術をかけるなんて鬼畜な妄想をしてた罰っすね。』


何を言っているちょっとした妄想じゃなくて想像だ。


ホントに仲間にそんなことするわけない。


そもそも出来ないしな。


頭の中で考えるだけなら誰にも迷惑かからないだろ。


それを禁止したら思春期の男子はどうしたらいいんだ!


『オイラに迷惑がかかってるっす。旦那の妄想にさらされるオイラの身になってほしいっす。』


それは諦めてもらうしかないな。


俺のスキルとなった者の運命だ。


それに俺の責任っていうかどっちかというと俺をこの世界に呼んだ人の責任だな。


もっと思想や考え方に配慮して呼び出せばこの問題は起こっていない。


ヤスのどうでも良い話よりもアラクネの生息域に入っていることのほうが重要だ。


なんで分かるのかってそりゃ今まで一度もかかってない蜘蛛の巣に俺が引っ掛かったからだ。


「そろそろアラクネの生息域に入ったかな?」


「ん?そうなのか。以前はもう少し森の奥だった気がするが生息域が変わったのかもしれんな。使徒様は探知能力も高いんだな。」


え?


アレ?


もしかして違った。


イヤイヤ、今まで全くなかった蜘蛛の巣が顔に引っ掛かったんだよ。


どう考えてもアラクネの生息域の証だよね。


まさか、偶々このタイミングで蜘蛛の巣が顔に引っ掛かったなんて・・・ないよね。


「流石、ご主人様ですブ。私は未だにゴブリンとオークの存在くらいしか確認できてないブ。ブタ共もこれだけ広範囲に広がって索敵しているのに気が付かないとは使えないブ。訓練はヘル&ヘブンコースに決定ブ。」


「お。おう。これでも仙の主だからな。」


二人の話を聞いていると俺の勘違いの可能性が段々高くなってきたがこれだけ褒められると間違ってるかもとは非常に言い出しづらい。


しかも一度上がった好感度が落ちるときはその落差から想定以上に下がるのが常だ。


ここは何とかアラクネさんが出てきてくれることを願うしかない。


『不安になっているところ悪いっすけど、さっきのは旦那の言葉どおりただの蜘蛛の巣っすね。毒もない普通の蜘蛛なんで安心してくださいっす。』


それは良かった。


俺まだ耐性系のスキル持ってないし、解毒のやり方も分からんからな。


・・・え?


さっきの蜘蛛の巣は普通の蜘蛛の巣なんですか?


『何言ってんっすか、旦那が蜘蛛の巣っていったんっすよ。』


え、いや、まぁ、そうだけど。


えっと、つまり蜘蛛の巣があったからアラクネの生息域に入ったっていう発想は間違いってことだよな。


『蜘蛛の巣があったら蜘蛛の領域に入ってるっすけどアラクネの領域には入ってないっすね。』


なぜ俺のことをディスらなかったんだ。


そうすれば仙やサクラさんに自信満々に間違ったことを言わなかったのに!


『いや~、旦那がホントにアラクネを探知したと思ったんすよ。』


ウソつけ!


お前には俺の考えていることが筒抜けなんだろうが!


『イヤイヤ、全部は分からないっすよ。強いイメージや言葉が分かるだけっす。黙ってたら面白いかなってちょっと思いましたけどね。』


何てヤツだ。


殴りたい、殴りたいけど殴れない。


『女の子を殴るなんて酷いっすよ。それに仕方なかったんっす。普通のやり方じゃ旦那が反応しなくなったんっすから。だから今回は搦め手を使ってみたっす。そしたらこの劇的な反応っす。もうやめられないっす。』


女の子ってお前のは自称女の子だろが!


どこにもお前が女だなんて証拠はないんだよ。


それに女の子ならもっと女らしくしろ!


それに俺の反応が悪いだとそれはお前が毎回ディスるからだろが。


この悪魔が!


『女らしくって差別っす。それに悪魔じゃなくてせめて小悪魔って言ってほしいっす。』


「ブギャァァァァァ!!!」


「ブ、ブギ!!!」


急にオーク共の叫び声が大きくなったな。


今までも敵と遭遇したときに叫んでいたけど今回はちょっと違う?


「仙、何があった?」


「どうやらアラクネの巣にブタが引っ掛かったみたいですブ。やはり弛んでいますブ。」


おお、どうやら俺の祈りが通じたようでアラクネが出てきた。


これで結果的に俺の言ったことが真実になったぞ。


『ププ、アラクネの巣でなく蜘蛛の巣に引っ掛かった旦那はどれだけ弛んでいるんっすかね?』


聞こえん、聞こえんぞ~。

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