第44話 裁縫体験

いや~、サクラさんの裁縫技術はブッ飛んでたね。


この世界ではアレが普通なのかと思ったけどサクラさん以外は俺の知識と同じやり方で裁縫をしていた。


俺は普通のやり方で裁縫をしようと思っていたのだが仙は裁縫を知らないからか悩むこともなくサクラさんのやり方に飛びついた。


確かにあんな風に裁縫が出来たらカッコいいし見栄えも良いんだけど俺の常識が邪魔をする。


悩んだ結果、結局は俺もサクラさんに教えを乞うことにした。


だって裁縫スキルを持っているのはサクラさんだけだったんだ。


あのやり方をしないと裁縫スキルを獲得できないのか分からないが唯一裁縫スキルを持っている人のやり方なのだから裁縫スキルを獲得する可能性は高い。


それに裁縫スキルを持っている人が作った衣服は普通に作った衣服より丈夫に出来る。


この辺りは俺が想像する裁縫スキルと同じだな。




衝撃の裁縫をサクラさんに見せてもらった後、裁縫の練習がスタートした。


「それじゃ、早速生地を裁断しな。二人とも命力が使えるんだからすぐできるだろ。」


サクラさんも無茶を言いなさる。


空中の生地を切るなんて普通できませんからね。


名刀を持った達人が空中を舞う葉を切る話が良く出てきますけど、あんなの話の中だけの話よ。


「大丈夫ですブ。」


仙さんや全く大丈夫じゃないよ。


何で命力が使える=空中の生地を素手で切れるって言う方程式を受け入れられるの。


どうやって切ったのか全く説明ないじゃん。


昔堅気の職人みたいに見て覚えろとか目で盗めとかおっしゃるのですか。


俺って現代っ子だから一から説明してもらわないとダメなのよ。


俺がどうやればできるのか解説してほしいと思っているとやる気に満ちた仙は練習用の生地を放り投げた。


右手で手刀を形作り仙は命力をゆっくりとだが纏っていく。


投げた生地が目線の位置まで舞い降りてくると仙は両目を力強く見開いた。


「ヤァァァ!!」


気合いの一声と共に一閃二閃と腕を振りぬく。


サクラさんほどではないが目で追うのがやっとの速さだ。


武道の型のような残心を仙がとっているとパラパラと切り分けられた生地のパーツが床の上に落ちた。


エエェェ!!


何で、何で切れてるんですか!?


これが本物の天才のなせる業ですか。


確かに仙はサクラさんに素質ありって言われたてたけど、これが紛い物と本物の違いなのか。


大岩を漫画やアニメ以上のトンデモ・デモンストレーションで真っ二つに割ったことを考えればこのくらい仙にはわけないって言うのか。


「キレイに鋭く切れているけどこの形だとキレイに縫製できないいね。」


「残念ブ。」


「まぁ、初めてにしては上出来だよ。」


「チガーウ!!」


何言ってんの?


キレイに切れてない?


そんな次元の話ではないのよ。


空中に舞うヒラヒラした生地を素手で切ったのよ。


切れるのは自然の摂理みたいにスルーすて切れた形の話をするなんて俺はついていけない。


「すみませんブ。ご主人様期待にまたそえられなかったブ。もっと綺麗に切れるように特訓するブ。」


「お、おぉ。ガンバレ。」


仙のやる気に満ちた声に俺は否定出来ない。


『旦那にはもったいない部下っすね。』


ヤスに同意するのは癪だがその意見には同感だ。


ただあの胸を手放すつもりはない。


「これでも満足できないとは流石は使徒さま。アタイは初めてならこれくらい出来れば十分だと思うよ。それに仙はつい先日命力を扱えるようになったばかりで生地が切れるだけでも驚きだよ。」


え?つまりサクラさんもいきなり空中に舞う生地を切れるとは思ってなかってことですか。


それならそうと言ってくださいよ。


出来るのが当たり前なのかと思っちゃったじゃん。


「スゴーイ、仙さんって命力の扱いを覚えたばっかりだったの。サクラ姉さんでもここまで出来るようになるのに数日かかったのに。」


「ユズちゃん、ありがとブ。でもご主人様の期待に応えられなかったブ。」


「じゃ、次は使徒様の番だよ。仙に次元の違いを見せてやりな。」


次元が違うってそういうことじゃないのよ。


仙のやったことが次元が違うほどスゴイって話よ。


声に出して言ってないのになんでサクラさんは俺と違うけど同じ表現してるんだ。


それよりもハードルが天にも届くくらい高くなってる。


もともと出来ないって思ってたことを仙が成し遂げたのに俺はもっとスゴイことができるって思われちゃったよ。


三人のキラッキラした目をみたら今更出来ませんとは言えないよ。


美女三人にガッカリされるのは嫌なんだ。


ピンチはチャンスだ。


ここで三人の期待に応えれば好感度急上昇間違いないなし。


『出来なかったら急降下っすね。』


フッ、やる前から失敗したことを考えるヤツは失敗するヤツだ。


こうそく思考を使ってイメージトレーニングだ。


美女三人の好感度を上げるためだ。過去最高性能のこうそく思考になるはずだ。


まず命力をスムーズに使うために魔力吸引を止める。


触手を使って生地を空中に放り投げる。


続いて触手に命力を集めて素早く生地に叩きつける。


・・・ダメだペタっと床に生地が落ちるイメージしかわかない。


どうしてサクラさんも仙も手刀で生地を切れるんだ。


『なに言ってんすか、当たり前っす。手刀っすよ手刀。』


二回も言わなくても分かってる。


お前こそ何言ってんだ。


手刀だぞ。刀って字がついていても手だぞ。


・・・魔法やスキルがあるんだから出来なくもないか。


ただ俺にはできる気がしないんだよなぁ。


生地と切るって言ったら裁ちバサミだろ普通。


剣や槍はみたことあるけど裁ちばさみってみたことないんだよ。


どっかに落ちてないかぁ~。


それか生産チートな人が作ってくれないだろうか。


ん?アレ?


俺、自分で作れるんじゃね。


うん、出来る。出来るね。変化(※変態)スキルを使えば出来る。


フッフッフ。


華麗なる裁ち捌きをお見せしようじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る