第43話 異世界の裁縫

神殿の掃除をユズと仙と協力して終わらせた。


俺は触手を無数に使うことで何十人分と同等の労働力を発揮した。


ユズがすごいすごい褒めてくれたので俄然やる気が出て天井裏まで掃除してしまった。


「スライムさん、仙さん。ありがとう。二人のお蔭で普段出来ないようなところまでキレイになったよ。」


「どうしたしまして。」


「どういたしましてブ。」


俺の鑑定眼は素晴らしいことが証明された。


仙の掃除能力が非常に高いことが分かったのだ。


つまり俺が仙にメイド服を着せようと思ったのはこのことを予期していたからに違いない。


スピードの俺と技術の仙で清掃サービス業を立ち上げたら大成功間違いなしだ。


株式上場も夢ではない。


この世界にどの程度需要があるかは分からないし、興味ないからまずやることはないけど。


「掃除も終わったし、サクラさんに裁縫を教えてもらうように頼みに行くぞ。」


俺達3人の力で新築同然の状態になった神殿を後にした。




「それでアタイに裁縫を使徒様が習いたいって、そりゃまたどうして?」


はい、当然の疑問ですね。


何でスライムが裁縫するんだって話ですよ。


スライムがそんなことを宣っていたら俺でも疑問に思うね。


衣服なんてスライムに必要ない。その上、スライムには手がないんだから裁縫ができるとは思えない。


ラノベやアニメでも生産チートの仲間が作るパターンが多い。


しかし、しかし俺はメイド服を作らなければならない。


そうこれは天が俺に与えた試練なのだ。


『それはないっす。』


フッ、俺の崇高な試練はヤスなどには分かるまい。


「仙の服を作ってあげようと思ったんだ。」


「へぇ、アンタが仙に手作りの服を作ってやるのかい。良いじゃないか。分かった、アタイがキッチリ仕込んでやるよ。」


ヤッタァ!


仙にメイド服を作ってやれる上にサクラさんが手取り足取り教えてくれるぞ。


「よろしくお願いします、サクラさん。」


「お願いしますブ。」


「ん?何だ仙もやるのかい?」


「はい、私もご主人様の服を作りたいブ。」


仙も裁縫を習いたいって言ってだけどそれって自分の服を作るためじゃなかったの。


まさかスライムの俺に服を作りたかったとは思わなかった。


だって俺の体って丸いから服着れないし、それにスライムって体温調節も必要ないからね。


「使徒様も良い配下を持ったな。仙を大事にしろよ。」


当たり前だ。


忠誠心が高く何より偉大な胸を持つ仙は代わりのいない大事な仲間だ。


『胸を強調する当たりはエロスライムの面目躍如っすね。』


何を言っている。


エロスライムという種族に関係なく雄の本能として当たり前の反応だ。


この世に女性の胸に興味がない雄がいたらその種は近い将来絶滅するぞ。


女性の胸に興味がない⇒女性に興味がなくなる⇒出生率が激減する⇒子供がいなくなる⇒絶滅という誰もが考えてつく未来だろう。


つまり何が言いたいかというと俺の思考はいたって健全であり、女性の胸は至高であるということだ。


ドヤァ。


『旦那の頭がおかしいのがよく分かったっす。』


元々スキルであったヤスには分からないのは仕方ない。


ヤスの相手をする暇があったらサクラさんから一刻も裁縫技術を教えてもらわないといけない。


「使徒様も仙も眼を見開いて見逃さないようによく見ておけよ。一瞬で終わるからな。」


そうだ。サクラさんの一挙手一投足を見逃さないように魔力感知と命力感知を全力で発動する。


サクラさんは右手針を左手に持ち左手に生地を持って構えている。


俺の記憶が正しければ裁縫ってそんな風に構えるようなものじゃなかったような。


椅子に座ってチクチク縫うものだったはず。


少なくても家庭科の授業では立ち上がってまるで武術のように構えることはなかった。


「ハァ!!」


俺の記憶にある裁縫との違いを考察しているとサクラは気合の一声を上げると左手に持っていた生地を放り投げた。


オイオ~イ、サクラさん生地を投げちゃダメでしょ。


その生地を切ってから針と糸で縫合するんじゃないの?


あまりの出来事に混乱する俺とは対照的に仙は真剣にサクラの動きを見ている。


そして裁縫の作業も俺の混乱をおいて進んでゆく。


左手に命力を込めた手刀で空中に浮いた生地切り刻んだ。


サクラさんの手刀の速さについていけないがどうやらいくつかのパーツに切り分けられている。


切り分けられたパーツがパラパラと舞ったかと思ったらサクラさんは右手に魔力を込めて目にも止まらぬ速さ(※スライムに目はありません)で生地を縫い合わせていく。


サクラさんの右手が残像を残すスピードで動き終わるとサクラさんは両手で真新しい服を持っていた。


「なんじゃそりゃ!!」


「なんだい、急に大声出して。」


「イヤイヤ、おかしいだろ。」


「何がおかしいんだブ。キレイに服が出来上がってるブ。」


「そうだよ。この服の出来のどこに不満があるんだい?」


確かにキレイな服が完成している。


つまりこのやり方がこの世界での正しい裁縫のやり方ってことなのか。


魔法やスキルが存在して人が超常的な能力を持つ世界では裁縫のやり方一つとっても前世の常識は通用しないのだろう。


「ユズもサクラみたいに一瞬で服を縫えるの?」


「まっさか、あんなことが出来るのはサクラ姉さんだけだよ。私や母さんは普通に縫って三日くらいかな。」


え?


今普通に縫うって言った?


やっぱりあのやり方は普通じゃないんじゃん。


はっきり言ってこの世界の裁縫を舐めていた。

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