第13話 初めてのボス戦

下水道の天井までスカベンジャーで埋め尽くされた状態がどこまで続いているのか魔力感知を使っても分からない。


ラノベで出てくるような大規模魔法でもないと対処できそうに無い。


「諦めて戻るか。」


戦略的撤退と言うヤツですね。


『そうっすね。さすがにこの中に突撃するほど旦那もバカじゃないっすね。』


ヤスの安定のディスりをスルーしつつもと来た道を戻る。


この程度のディスりではもう俺の心は揺るがない。


再びヤスに『キモッ』と連続で言われながら梯子を触手足でのぼって溜池に戻ってきた。


(ボコッ、ボコッ)


ため池の水面に気泡がいくつも上がってきている。


「こんなところに魚なんかいるのか?」


ボコボコ上がってくる気泡が割れるたびに嫌な予感が高まる。


『こんな汚物まみれの下水道に魚なんかいるわけないじゃないっすか。ま、まさか旦那は汚魚が食べたいんっすか?』


そこまで魚が食いたいわけじゃないけど、なんで態々お魚って「お」を付けたんだ。


「別に魚が食いたいわけではない。」


『よかったっす。汚魚が食べたいって言われたらさすがのオイラも今後のもの振り方を考えてたっす。』


俺としては今すぐにでも身の振り方を考えてほしいけど。


(チャプン)


「おお、汚ね。」


溜め池に溜まっている汚水が通路に溢れてきた。


『汚物まみれの旦那の汚物を洗い流してくれてるっすよ。』


オイ、流石に下水よりも俺が汚いってことはないだろ!


・・・ないよな?


通路に汚水が溢れてる?


溜池の水位が上がったのか?


いや、溜め池に流れてくる下水の水量が増えたようには見えない。


「なんか溜め池の中央が盛り上がってないか?」


『旦那、非常に申し訳ないっすけどオイラに外の様子を確認する術はないっす。』


毒舌がネックだが案内人としての能力は非常に高いヤスに意外な弱点?があった。


どうやら気のせいではなく溜め池の中央は間違いなく盛り上がっている。


水面が俺の目線まで上がっているのだ。スライムの目はどこにあるんだという疑問は今は受け付けていない。


クソ、俺の魔力感知能力では水面下の状況が把握出来ないのが非常にツライ。


分かることは水中から巨大な何かが出てこようとしていることだけだ。


(ザバーン)


押しのけられた下水が俺に襲い掛かってくる。


「ヤベ、どうしよ。」


『旦那は虫の真似が得意なんっすから、虫みたいに壁を登ったらどうっすか。』


触手足を使ったら虫みたいだからってさすがに虫と同じように壁を登・・・れるかも。


ヤスのディスりは相変わらずだが有用なアイディアだったので早速試す。


「おお、やった。壁を登れるぞ。」


『やりましたね。これで名実共に虫になったっすね。』


百歩譲って実は良いとして名は違うからな。


名前はまだ無いし種族名もエロスライムだからな。


ヤスに一言モノ申したいが今は目の前の・・・


「ヤスあのアホみたいにデッカイスライムはなんだ?」


『あれは旦那にアホって言われる不憫なビックスカベンジャーっす。』


魔物を説明するときまで俺をディスりはじめた。


もしかして俺がディスをスルーしはじめたので新しいディスリ方を考え出したのか。


溜め池に収まりきらずビックスカベンジャーの巨体で通路が埋まっている。


「しかし、あの巨体が溜め池に収まっていたとはとても思えないのだけど。」


『そんなの簡単っす、溜め池の中にいたスカバンジャーがたった今進化したんっすよ。』


なんて間の悪いヤツだ。


せめてもう少し待ってくれれば閉じ込められなかったんだけどな。


後悔しても既に閉じ込められたのだからどうしようもない。


前門のビックスカベンジャー後門の無限スカベンジャーですな。


スカバンジャーの数は不明な上に通路が続いているのかも分からない。


つまりビックスカベンジャーを何とかして突破するしかないわけですな。


「やっと中ボスが出てきたな。俺の成長の糧にしてやんよ。」


『威勢のいいこと言っても死んだらそれまでっすよ。』


せっかく気合いを入れたのにヤスのせいで削がれる。


いや、死んだらそれまでってことは死ぬなって言ってくれてるのか。


まぁ、聞いてもまたディスられるだけだから聞かないけど。


「分かってるよ。食らえや。スライムウィップ×強打+重力加速度!!」(※+重力加速度は単純に落下の勢いのことです)


(ボロ)


「動きは遅いし、身体も脆いぞ。」


すぐにビックスカベンジャーから距離をとる。


あれだけの巨体だ。倒れこんできただけでも俺には致命傷だろう。


基本戦法はヒット&ウェイだ。


ビックスカベンジャーは俺の攻撃に全く反応を示さず、スライムウィップが当たった箇所が全く抵抗なくボロリと落ちてため池に波紋を作った。


『そうっすけど、たぶんビックスカベンジャーはダメージが少なすぎて全く意に介していないっすよ。』


ノーダメージだったら俺が覚醒でもしないと打つ手がなかったが少しでもダメージが通るならどうとでもなる。


「ダメージが少ないなら増やせば良いだけだ。ダブルスライムウィップ×強打」(※ただの二連打です)


(ボロボロ)


(ポチャンポチャン)


「トリプルスライムウィップ×強打」(※ただの二連打です)


(ボロボロボロ)


(ポチャンポチャンポチャン)


『旦那やるっすね。ビックスカベンジャーが欠けてきたっすよ。』


ヤスが俺を褒めるなんて嫌な予感しかしない。


(ザブーン)


どうやらビックスカベンジャーが俺を認識したらしい。


このままサンドバック状態でいてくれたら良かったのに。


俺に向かってビックスカベンジャーが倒れこんでくる。


『ビジアンヌ様、旦那が死んでもオイラだけは回収してくださいっす。』


オイィ!


ゼッテェ死なねぇからなぁ。


スライムウィップ×強打で少しづつだけどビックスカベンジャーの身体を削れることは分かった。


つまり回転数を上げればビックスカベンジャーの身体を掘り進めることができるはずだ。


俺は触手を体毛のように体中から生やす。


その全てをスライムウィップ×強打状態にする。


そして最後に移動で使ったキャタピラ機構高速で回転させる。


「行くぜ。必殺スライムドリルゥゥゥ!!!!」




ピロリン


スキル スライムドリルを獲得しました。




俺は倒れこんでくるビックスカベンジャーに突撃する。


「ウリャァァァァ!!」


『だ、旦那、スゴイッス。ビックスカベンジャーの体内を掘り進んでいるっす。』


「ウリャリャリャリャァァァァ!!!」


ヤバイ、この方法は魔力消費が激しいらしく魔力枯渇になりそうだ。


意識がハッキリしなくなってきた。


『旦那、頑張るっす。もう少しっす。』


ダメ。


すまん、ヤス。


お前は俺をディスるばかりだったけど、この世界で一人寂しくなかったのはお前のおかげだ。


お前だけでもビジアンヌのところに帰れることを願っている。

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