第23話 私服のマナカ

 マナカは私服姿だった。

 まぁそれはそうだろう。


 今日は土曜日で、当然学校は休みだからな。

 もちろん俺だって私服だし、それについては微塵も疑問は存在しない。


「ユウトくん、こんなところで会うなんて奇遇だねー」


 マナカの私服は、夏を先取りしたようなオフホワイトの袖なしブラウスがとてもキュートだった。

 白い二の腕は、つきたてのお餅みたいに柔らかそうだ。


 そういや天気予報で、日中はかなり温度が上がるって言ってたしな。


「夏らしい格好がすごく爽やかでいいと思う……いや待て、さすがにそれはおかしい。なんでマナカがここにいるんだ。っていうかいつからいた?」


 マナカのあまりの可愛さに、一瞬、疑問を流しそうになってしまった。


「エスカレーターを昇って行くところくらいからかな? ユウトくんの後ろ姿が見えたからついてきたんだよ。なので、ずっと隣にいたよ」


「最初っから……だと……!?」


 いや、もはや何も言うまい。

 夜の街ですら、いとも簡単に俺の居場所を探り当てるんだ。


 今さら休日の本屋で出会ったからと言って、なんだというのだ。

 ……ちょっと見られたくない姿を見られてしまっただけじゃないか……ははっ。


 普段なら気付かないはずがない。

 他人の視線には敏感な方だ。


 だが今日の俺は自分でもわかるくらいに浮かれていた上に、クロも家に置いてきていたのだった。


 クロのやつ、俺がポッキーちゃんの話をすると途端に機嫌が悪くなるからな。

 まったく、心の狭い駄ネコであることよ。


 だが、ちゅーるによってマナカに懐柔されきった浅はかなあの駄ネコは、例えこの場にいたとしても、相棒である俺を裏切ってマナカの接近に気づいてないふりをしたことだろう。


「ユウトくんって、こういうのが好きなんだね」


 そう言って俺が持っている写真集を、にゅっと覗き込んでくるマナカ。

 ひっつくように身体を寄せてくるのが、ちょっとくすぐったい。


「ああそうだ、こういうのが好きなんだ」


 事ここに至って、俺はもはや言い逃れはできないと悟っていた。


「あれ、素直に認めるなんて珍しいかも。たぶん『嫌いじゃない』とかそういう回りくどーい言い方でもするんだろうな、って思ったのに」


「ファンとして、ポッキーちゃんを好きな気持ちに嘘はつけないからな」


「うわっ、あのユウトくんがこんなこと言うなんて……すごい愛されようだね。うん、でもほんと可愛いもんね」


 言って、身体を寄せて覗き込みながら、勝手にページをめくっていくマナカ。


 素肌がむき出しになっているマナカの肩が俺の肘に触れたり、マナカのやわらかお胸がぎゅっとみっちゃくするように俺の身体に押し付けられたり――。


「ちょ、おい……近いって。くっつくなよ」


 俺がそれとなくおっぱい着弾を指摘しても、


「いいじゃん、ユウトくんのケチ! 独り占めする気? 一緒に見ようよー」


 マナカは気にする素振りが全然なくて――。


 くそっ、俺だけ変に意識してるのがバカみたいじゃないか。


 そうだ、なにを臆する必要がある?

 単に友達と身体を寄せ合って、流行りの話をしているだけだろう?


 それに俺は今、写真集を見ているんだ。


 肘の当たりに押し付けられるマナカの胸がすごく柔らかいとか、マナカのふわふわの髪からハチミツのような甘くていい匂いがしてくるとか、マナカの透き通るような白磁のような二の腕がどうしようもなく気になって気になって仕方がないとか――。


 そういうけしからんことは、ポッキーちゃんの前では全て些事さじ


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