第24話 書店デート

 俺は気分を切り替えると、改めて写真集に写ったポッキーちゃんに集中することにした。

 「ミレニアム・ワン」の笑顔の前に、再び俺は幸せな気分に浸ってゆく。


 愛らしい瞳。

 可愛らしいおててに、美しいおみ足。

 全身を覆うのは流れるような白い毛並み――。


 このモフモフ、やっぱりポッキーちゃんは最高だぜ!


 そう、ポッキーちゃんは泣く子も黙る、人気絶頂のアイドル犬。


 『このポメラニアンがすごい!』――通称『このポメ』で5年連続1位の快挙を成し遂げ殿堂入りを果たした、雑誌やCMでもひっぱりだこのスーパーわんこアイドルなのだ!


 この日も東京・秋葉原では発売記念のポッキーちゃん握手会が開催されるらしい。


 いいな、東京。

 さすがは日本の中心だ。


「それにしても、いつもつっけんどんなのに実は動物好きなんて、ユウトくんも結構可愛いところあるじゃん」


 何が嬉しいのか、にやにやむふふって顔をしながらちょっと上から目線で言ってくるマナカ。


「一応言っておくが、男に向かって可愛いは間違っても褒め言葉じゃないからな?」


「えー、そんなことないと思うけどなぁ。ほら、意外な一面からくるギャップ萌えっていうの? マナカは見た! あのユウトくんがまさかのポッキーちゃん信者だった件! みたいな?」


「なにを言ってるのかいまいちよくわからない……」


「それにほら、可愛い動物は言ってみれば世界の共通言語だよ。みんな幸せ、世界も平和」


「それは否定しないな」


「癒されるよねー」

「癒されるなぁ」


 しばらくの間、学校の話やマナカの飼っている猫のマフィンの武勇譚(いわゆる飼い猫自慢)を聞いたりしながら、まったり2人で写真集を眺めていたのだが――。


「――そういや、マナカはこの後、何か用事があるんじゃないのか? こんなところでいつまでも油を売ってて大丈夫なのか?」


 最初からいたのなら、来てからもう既に15分以上は過ぎている。


 マナカは小さくてお洒落な女の子らしい腕時計で時間を確認するや否や、


「はわわ、いっけなーい! カナとちーちゃんと待ち合わせしてたのに! ごめんねユウトくん、また学校で!」


 慌てて待ち合わせ場所へと向かっていった。


 ちなみにカナとちーちゃんの二人は俺とマナカのクラスメイトで、タイプは違うがどちらも可愛いと評判だった。


 マナカと3人で、クラスの中心的なグループを形成している。

 もちろん俺が2人と話したことは一度もなかった。


 いいんだ、俺にはポッキーちゃんがいるから……。


 てってこ走って待ち合わせに向かうマナカをなんとはなしに見送ると、俺は会計を済ませるためにレジへと向かう。


 もちろん観賞用とは別に、保存用にもう一冊買っておくことも忘れなかった。

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