第12話 ガラケー
「あ、そっか……そういえばユウトくんって、ガラケーだったよね。ピンクで、ストラップもピンクのクマさんが付いたの」
マナカが、俺の腰ポケットから顔を出しているクマさんストラップを見た。
「ユウトくんってピンク好きなの? なんか意外? っていうかガラケー男子って初めて見たかも。クラスの男子もみんなスマホだよ? 女子とライン交換したいとか思ったりしないの?」
「思う思わない以前に、そもそもそんなに仲のいい女子がいないし、作ろうとも思っていない」
「ユウトくんってガチのボッチなんだね……」
「ボッチ言うな。俺には必要がないというだけだ」
「ふーん」
「なんだこら、言いたいことがあるなら言えよ」
「べーつにー? あ、じゃあさ。携番とアドレス交換しようよ?」
「え?」
「えっと、それも、だめ、かな……?」
「いや、だめっていうか……」
今のご時世、携帯番号やキャリアメールは普通の友達程度では教えないのが普通だ。
マイルドブロックがしづらく、変更にも手間のかかる携帯番号やキャリアメールを教えることは、一定以上のリスクを生むからだ。
それこそ、ある程度以上に仲良くなった特別な相手にだけ教える、それ自体が親密度の証の証明ともなりうる、そんな大切な行為なのである。
そして俺の番号にはたいした価値はないが、それが
おそらく男子で知ってる奴はほとんどいないだろうし、知りたい奴は山ほどいるだろう。
マナカのような可愛い女の子が、こんな風に携帯番号やアドレスをほいほいと教えてしまって大丈夫なのだろうか?
袖擦り合うも多生の縁じゃないが、マナカのガードの甘さは他人事ながらちょっと心配になるぞ。
「俺は別にかまわないけど――マナカはいいのか?」
普段の俺なら、間違いなくノータイムで断っていただろう。
しかし今の俺は、やや普通ではなかった。
マナカが可愛いから?
いや、そういうことではない。
仲良くなれば、もしかしてまたこの美味しい唐揚げを食べれるかも、というさもしい下心があったからだ。
それほどまでにこのミュンヘン風の唐揚げは美味しかったのだ……!
「……? 問題ないよ? あ、でもガラケーとスマホってどうやってアドレスやり取りすればいいんだろ? ガラケーには赤外線、だっけ? みたいなのがあるんだよね……?」
よく分かってない風のマナカだが、実は俺もよくはしらない。
というかスマホを触ったことがほとんどないから、分かりようがない。
――と、くればだ。
手っ取り早いのはもっとも原始的かつ確実な手段だろう。
「ちょい、アドレスみせてくれないか?」
そう言って、俺はちょっと身を乗り出してマナカの携帯を覗き込んだ。
必然、顔が触れ合うような距離になってしまい、甘い女の子の香りが漂ってくる。
そのことに少しだけドキッとさせられながらも、俺は素知らぬふりを保ちつつ、マナカのスマホに映る文字列に目をやった。
そしてまずは携帯番号を。
ついでアドレスをと、自分のガラケーに手際よく打ち込んでいく。
もっとも原始的で確実な手段、それはいつの時代も目視&手打ちである。
「うわ、はやっ!? 実はユウトくんってば携帯早打ちの専門職なの!?」
驚くマナカをよそに、1コールしてから空メールを送信し、マナカから確認の返信をもらって無事にアドレス交換は終了した。
「アドレス打ち込むの、めっちゃ速かったね」
「携帯の早打ちなんざ単なる慣れだろ。毎日メールをしてれば勝手に早くなる」
「友達いないのにいったい誰に向けて――あ、ううん、なんでもない、なんでもないよ? わたし、なにも、きかなかったから! アイ・アム・ノー・リッスン!」
「マナカってセンシティブなところに、割とストレートに踏み込んでくるよな。あとなんだそのとても高校生とは思えない貧相な英語は。ちゃんと勉強しろよ。……まぁあれだ、姉に送ってるんだよ、その日あったこととかを」
「うわっ、こんなところに重度のシスコンさんがいます!」
「シスコンじゃない、家族愛だ」
「そだねー……いいと思う……」
こうして女の子との初めてのお昼ご飯&アドレス交換はつつがなく終了した――のだが。
その後しばらくの間。
俺は学園のアイドル・
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