第10話;廃村の神殿と町の居酒屋
雪が降り始めた頃ウラジールについた王子一行は馬屋に向かった
「アイラの馬だな」
そう言ったのは傭兵上がりの冒険者、ギルだった
馬に乗って町を出るアイラを見送っていたのだ。
「あの可愛い子に売らないでって言われたんでね、料金も多めに貰ってるし、大事にしてますよ・・・でも・・・あんな小さな子が雪山に行って帰ってくるとは思えないですけどねぇ」
「一応あれで16歳だぞ」
そうギルが言うと
「嘘・・・12歳くらいかと」
「雪山に行ったのは確かなんだな?」
「へい、そう言ってました。自分はどうにかできるが馬は可哀そうだから置いていくと言ってました」
「そうか、追いかけるぞ」
「!!旦那!無理ですよ、今から山に行くのは命取りです!なんでギルドはあの子の入山を許可したのか分かりませんよ」
馬屋の主人が王子を止めた
「しかし彼女を助けないと」
「旦那は貴族の偉い人なんだろ?そしたら従者もたくさんついていくだろう?その人らの命をも
危険にさらすことになる・・・よく考えることですね」
「うっ・・・」
悔しそうにする王子
だれも馬屋の主人に対し、不敬だとは言わなかった。
王子一行は今度はギルドに向かった
「はい私が入山の許可をしました」
そう言ってエルフの受付嬢がギルドマスターの部屋に入ってきた
「セレフィーヌ・・・どうしてこれから雪が降って来ると言うのに許可したんだ」
ギルドマスターは憔悴していた、王子に散々責められていたからだ
「天啓です・・・といっても私は神と話は出来ませんが、行かせろと聞こえたわけじゃないですが何かが言ってきたんです・・・エルフの勘でしょうか?」
「勘って・・・」
呆れる王子
「セレフィーヌは勘が鋭くてこの冒険者には向かない依頼は絶対に受けさせないんですよ、彼女の助言を無視して受けた依頼は皆失敗、命を落としたものもいます。逆にランクに合わなくても向いている依頼は受けさせてランクを上げる者もいます。彼女の勘はあてになります。なまじ400年も生きてない・・・」
「マスター!・・・」
「大丈夫ですよきっと。春になって迎えに行かれては?ここは温泉もありますし療養に来たと思ってのんびりされてはいかがですか?」
冷静に静かな笑みを浮かべながらセレフィーヌは王子達に言った。
私は、山を駆けていた。身体強化の魔法で能力を上げているので途中、雪狼(ゆきおおかみ)に出くわしたが瞬殺していた
本来普通の人間が5日かかるところ2日もかからずに目的の廃村の神殿に到着した
「うぁ・・・家、跡形もないね・・・豪雪地域だから雪で押しつぶされたんだね・・・」
瓦礫の村をゆっくりと歩いていくとしばらくして森の向こうに綺麗な神殿が見えてきた
「本当にきれい・・・全く壊れて無い・・・女神像も」
3メートルほどある大きな女神像が、神殿中央に見えて感動する
神殿内にゆっくりと足を踏み入れると神殿が輝きだした
「おおっ~人が入ると輝くんだ」
そんなわけが無いと後に知ることになる
脇の小部屋みたいな所や奥の部屋など物色してまわった
その間何かにはやくはやくと責付(せっつ)かれる感覚があったが、好奇心のほうが勝って探検を優先した
「おっ此処、石のベッドと机と椅子があるし、古いタイプの台所(かまど)がある。住めそう」
木のベッドらしき物はさすがに朽ちていたが、石でできていたものは神殿の一部なのだろう、埃はかぶっていたが使えそうだ。ベッドもオンドル(朝鮮半島や中国東北部の家屋で用いられている暖房装置。たき口で火を燃やし,床下に設けた煙道に煙を通して床を暖める。)になっていてかまどで火を焚けばあったかく寝れそう
「石の扉、思っていたよりも軽いし、春まで暮らせそうかな?掃除っと・・・クリーン・浄化」
他にも似たようなオンドルのある部屋があったが、大きい部屋だったので最初に掃除した部屋に住むことにした
そして改めて女神像の前に膝をついて手を重ねて目を瞑り、祈りのポーズをした
「平凡な職業でお願いします、商人がいいです、間違っても教会が出しゃばってくる奴は遠慮します」
祈り方など知らない、願望を言った
ふわっと暖かい風が吹き、目を開けると白い空間が広がっていた。そして定番?の土下座している人
「・・・・・土下座している理由は私に対いて何かした・・・ということでしょうか?女神様・・・」
『本当にごめんなさい』
女神ウェヌスは豊穣と愛の女神とされていて、殆どの国が彼女を崇めている。
彼女は私が転生した経緯を語りだした
数多の世界の管理をしているのだけど、一時(いっとき)うまく管理できない時があって
それでも何とか処理を終えて一息ついたとき、袖の端にあなたの世界が引っかかってトラックが暴走、
大変と手を伸ばしたけど、世界に直接手を入れてはいけない決まりがあることを思い出して、引っ込めたら・・・・
あなたの魂もついてきちゃって・・・
引っ込めた勢いでこの世界に魂を飛ばしちゃって・・・
気が付いたらもう遅くて、すでに転生しちゃっててどうしようもなくて・・・
せめて能力UPしてあげようとまだ少しつながっていたから能力送ったんだけど
その世界は小さい子の能力を封印する世界で、
神殿に来る年になっても来ないから、能力の確認が出来なくて、
おろおろしてたら10歳になっちゃってて、やっと見つけたらあなたが死にかけてるじゃない?
急いで能力の一部開放を・・・禁忌なんだけどしたのよ・・・
いいのに処理されてない魂だから、記憶も持って行っちゃてて記憶も開放されて
本当にごめんなさい。
それともう一つごめんなさいあなたの職業は・・・
【女神の愛し子】です
王様より地位が上ですごめんなさいこれは私が散々関わっちゃったからどうしようもないのよ
教会どころか国が出てきます。世界中の・・・
私は寝転がって黙って聞いていた
「聖女くらいかと思ってた・・・愛し子・・・ね・・・私が読んだ本によると女神の子供・・・神として崇め奉られる存在って書いてあったけど・・・私平凡に暮らしたいんだけど・・・なんで・・・うっ・う・・」
涙が止まらなくなった
女神は泣き続ける私を黙って見ていた
「ぐすん・・・」
精神耐性MAXは伊達じゃなくすぐに落ち着いてきてしまった
「ずっとここ、廃村に居ようかな」
『このまま居ても、春に王子があなたを迎えに来ます』
「え?なんで?」
『プロポーズされてたでしょう』
「平民だよわたし」
『王様より偉い平民です、それに世界中にあなたのことはもう知れ渡りました』
「何してくれてんの」
『この世界のシステムで職業は世界中の神殿に送られてしまうの』
いつのまにかテーブルに座ってお茶を飲んでる私たち
『王子のことは嫌いでは無いでしょう?どちらかといえば・・』
「はー・・・・そーですよ好みですよめっちゃ好みですよ・・・でも王子だしなぁ・・・」
『・・・あなたには、縁談や神殿への囲い込みが激化するでしょうね・・・王子にはそれを伏せられる地位がありますよ』
「打算的なのは悲しい」
『お互い気持ちがあれば打算的でもいいのでは?』
「世界を見て回りたいし」
『王子にお願いしてみれば?』
「やけに王子を勧めるね」
『あなたには幸せになって貰いたいから』
「王子のプロポーズを受けると幸せになれると?」
『あなた次第です』
「そこは投げるんだ・・・」
『春まで時間があります考えてみては?』
「・・・うん・・・」
ふっと宙に浮く感じがすると白い空間が消え目の前に女神像が見えた
廃村の朝は早い
神殿の横に作ったビニール(スライム粘液使用、雪が浅いときに小川で確保)ハウスに行って野菜(野生化していたものを移植)を収穫
オーク肉(冬眠?していた洞窟発見)のベーコンをさらに隣の倉庫(プレハブ)に取りに行って
鶏(魔獣で木の上に生息していた)小屋に卵を取りに行く
かまどにフライパンを置きオークの脂身を引いてベーコンと卵を焼く
サラダにドレッシングをかけて
手作りパンを切ってテーブルに並べた(小麦と胡椒は町から持参していた)
「いただきます」
手を合わせてお箸で塩(岩塩を発見)を振った目玉焼きをつまむ
「美味しい・・でもお醤油ほしい~」
はやくも、廃村の暮らしも3か月、雪もあまり降らなくなり春の日差しが増えてきた今日この頃
私は充実した生活を送っている
「まだ雪は深いよね~」
神殿の周りはなぜか雪はないが少し行くと4メートルはあるんじゃないかと思う雪の壁になってる
「つもりすぎだわ・・・神殿が壊れない理由はこれか・・・」
(いえあなたがいるから加護で降らないだけ、いつもは埋もれてます)
たまに女神から念話が届く
「溶けるまでどれくらいかな?・・・ずっとここに居たい」
ビニルハウスの野菜の雑草取りをしながらため息をつく
そんな生活がさらに2か月続いた
雪もすっかり解け4m程あった雪は1mほどになっていた
私は神殿の周りのビニールハウスの野菜やプレハブ、神殿の冬季に利用していたものを闇魔法を使って収納してまわった。レベルが上がってそれによりアイテムボックスの魔法を展開出来たのだった。
まだ、雪崩等の心配があるため、入山してくる者はいない
迎えが来る前にさっさと下山して隣国へ向かおうと思っていた。
(待っていてもいいと思いますが)
「もう少し時間が欲しい、この神殿がばれてるのならさっさと離れたほうがいいし」
(ステータスを確認されなければ大丈夫ですよ、ギルドとかに顔を出すとばれますが)
「路銀はまだあるし当分働かなくても、生活は出来ると思うそしてこの変装、けっこういい感じでしょ?」
魔法で出した目の前の鏡には、焦げ茶色の髪に茶色い目、前世に近い自分の顔が映っている
「肌の色も日焼け風に少し黒くしてみた。普通に日焼けしたかったのに、自動治癒されて出来なかったからなぁ・・・」
(せっかくの透き通る肌が・・・)
「健康そうでいい感じじゃない?庶民の子たち皆こんな感じだったし」
「さて行きますか」
風の魔法で体を少し浮かしゆっくりと森をめがけて進み始める
朝のまだ早い時間、透き通った青い空、まだ低い温度の空気が肌を刺す
白い息が後ろに流れていく
「ひゃっほう!」
スキーで滑るように雪の斜面を浮いて降りていく私
「きもっちいい~」
滑走(浮いている、滑ってはいない)は最高だった
調子に乗りました・・・ふもとについた頃は鼻水じゅるじゅるで、鼻は真っ赤・・・すぐに自動治癒で治ったけど・・・
馬はこっそりと取りに行った、追加の料金と手紙を置いて隣国へ旅立った私
国境の検問は冒険者カードで通れた、見た目も変わっているし、犯罪歴が無ければ大丈夫だと女神に言われていたがドキドキだった。
本当に犯罪者じゃ無いのなぁと思いながら、身バレを防ぐ為に途中の村や町には泊まらず、森にプレハブ(住居に改装済)を出して寝泊りしていた
到着した港町ロンディーヌ
さすがに海を渡るのは自力は大変なので船に乗るつもりで、
此処は宿に泊まることにした。
夕食を食べる為に宿の近くの居酒屋に入った
居酒屋は混んでいたが、目立たないように奥のテーブルに案内を頼んだ。
厚いステーキにスープとバケットが目の前に
いただきますと小さい声で言って大きく切ったお肉を口に・・・
デミグラスソースの味が口に広がる
「おいしい~・・・久しぶりの塩コショウ以外の味・・・」
「おいしそうに食べますね」
「・・・・」
目の前の椅子にすっと座ったのはフェルディナンド王子だった
「もぐもぐもぐ」
ひたすら口を動かして目の前の料理を食べる私
「探しましたよ、髪も目の色も変えられるなんてすごいですね」
「もぐもぐもぐ」
「いろんな人が貴方を探してますよ」
「もぐもぐもぐ・・ずるずるずる・・・ぱくぱくぱく」
「こっそり馬をとりに行くなんて、馬をずっと監視していてよかったですよ」
「・・・ごっくん」
つけられてた?
国境の町から?
気がつかなかった
女神もなにも・・・
(つけられてのはこの町に入ってからですね)
言ってよ
(あなたに危害があるわけではなかったので・・・)
馬・・・・ああ・・・馬屋か・・・・ばれたのは
(そうですね、魔法通信を受けて此処まですぐに来たようです。移転魔法はかなり術者に負担がかかりますが出来る魔術師はいますから)
隣国なのに・・・
(王子の留学先はこの国ですので融通が効くようですね)
「ずずずずっ」
食後の紅茶をすする私、音を立てるのは貴族としてはしたないが、私は貴族の教育を受けていないので気にしない、王子の後ろの従者は怪訝な顔をしている。
「私のほうを見てくれませんか?」
下をなるべく向きながら目を合わせないようにしていた私
優しい口調でそう言う王子
そっとティーカップの横に置いた手を握ってきた
あたたかい
(手を払うかと思いました)
女神が言う、でもその感覚は私には無かった・・拒む気持ちはわいてこなかった
「唐突ですが、愛してます結婚してください」
「けっけ結婚!?」
一気に顔が熱くなる
(直球ですね)
「わ・・・私王子様とは自由がなくなるのはいやで・・・」
「王子やめて来ました」
「へっ?」
思わずうつむいてた顔を上げて王子を見た、王子は満面の笑顔で
「貴方がそうおっしゃってたので、兄の皇太子と王(ちち)に御願いして降家させてもらい、一貴族になりました今は公爵です」
「こっ公爵?・・・せ・・世界を見てまわりたくて・・・」
「外務大臣補佐官の任をいただきまして、世界中を回る仕事をすることになりました、一緒に回りましょう」
「え?えぇ~」
(重いねぇ・・・愛されてるねぇ)
「綺麗な顔、好みだわ~・・・・じゃなくて顔近いです」
目の前に綺麗な顔があった
ちゅっ
王子がキスしてきた
「な・・なに」
「いやでした?」
「・・・いやじゃないですけど、心臓が壊れる」
なぜか精神耐性が機能しない、なぜだー
真っ赤な私をにこにこと眺める王子
「貴方がいなくなった後の話聞きたくないですか?」
「はっ・・・父はどうしてますか?」
「此処ではなんですので、わたしの部屋に来ませんか?」
「・・・はい」
後ろの従者も一緒だと思い込んで返事をした私
馬鹿です・・・
しらふなのに、しっかりお持ち帰りされました。
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