第114話 ヘリで来た!

ワンの倉庫。


 倉庫の中を銃撃しながらずんずんと進む二人。

 リコがショットガンをぶっ放しながら、ディミトリが後ろから牽制射撃をしていた。


「そっちじゃない左に向かってくれ!」


 怒り心頭のリコが守居たちを追いかけて、更に奥に行こうとするのをディミトリが止めた。彼女は守居たちを殲滅するつもりなのだろう。気持ちは分かるが彼女の安全を確保することを優先したいディミトリの考えとは正反対なのだ。


「どこに行くのよ!」

「非常口だ!」


 ディミトリが脱出を急ぐのは、持ってきた銃弾に限りが有るのだ。倒したワンの部下から調達することも考えたが、リコが先に進んでしまうので時間が無かったのも有る。

 心許無い武装で戦うのは結構キツイ物が有るものだ。


「非常口?」

「そうだ」

「近くにヘリを停めてある」

「分かった……」


 相手の反撃が散発的なのは、まだ体制が整っていないお陰だと察したリコは彼の言うことに同意した。彼女も逃げ出すのなら今だと感じているのかもしれない。

 だが、リコはディミトリとのやり取りで異質な物を感じたらしい。少し首を傾げている。


「ヘ、ヘリ!?」


 彼女はディミトリが言っていた事の違和感に気が付いたようだ。驚いたような表情をして聞き返してきた。


「そう、屋根に付いてるプロペラがグルグル回って飛ぶ奴だ」

「し、知ってるわよ! 何でヘリコプターが有るのよ!」

「乗って来たからに決まってるだろ?」


 変な質問をするリコに、ディミトリは不思議そうな顔をしながら答えた。まあ、一般的にはヘリコプターの操縦を出来る人種は限られているので彼女の驚きは当然だった。


「え…… 操縦できるの??」


 怪訝な表情を見せた。彼女もヘリコプターの操縦が、非常に難しいのを知っているらしかった。


(そういえばアオイも同じような表情を浮かべていたな……)

「ああ、学校の交通安全教室で習ったんだ」


 前回、剣崎の質問には保健体育で習ったと言ったら受けが悪かったので言い方を変えてみた。


「ちょ……」

「補助輪はしてないから大丈夫」


 補助輪というのは、幼児が自転車に乗る練習用に後輪のサイドに付けている車輪の事だ。勿論、ヘリコプターの練習などで、そんな物は使わない。彼としては初心者では無いと言いたかっただけなのだ。


「分かった! リロード!」


 リコはここで誂われていると思ったのか、少し怒ったように返事をしている。

 今回も受けが悪かったようだ。ディミトリは肩を竦めてみせた。彼のジョークは解りづらいのが難点だ。


(そう言えば、チャリで来たって画像が有名になった事があるが……)


 中学生ぐらいの少年たちがプリクラを撮った際に付けたコメントが『チャリで来た』だったのだ。何故かネットで受けてしまった。


(あれを真似してやろうかな?)


 ヘリコプターの前で画像を撮って『ヘリで来た』とやれば良いのではないかと考えたディミトリであった。


 そんな事を考えていると、非常口の影から男が一人飛び出してきた。銃撃音に驚いて駆けつけてきたのであろう。

 普通なら敵がいるかも知れないと、警戒しながら進むはずだが、酷く慌てていたのか廊下の角を確認もせずに曲がってきた。


「……」


 ディミトリは非常口の男を倒した。走ってきた勢いが付いていたせいか、身体がリコの足元まで滑ってきた。

 その時に右側の廊下から何かが投げ込まれたのが見えた。


ゴロン……


「え?」

「あっ!」


 鈍く光る卵大の物体。戦場では良く見かけたが、平和な日本ではまず見かけない物だ。

 手榴弾が投げ込まれてきたのだ。


「やべっ!」


 その事に気がついたディミトリは、咄嗟に近くの部屋に飛び込んだ。本来ならリコを引きずり込みたかったが、彼女は若干前に出てしまっていたのだ。

 手榴弾の脅威は破片にある。まともに浴びると肉をズタズタにされてしまうのだ。そして、それは横方向に向かいやすい。元々、塹壕などに籠もる敵を一掃する為の武器だからだ。


「ちょ!」


 そして、扉の側に居なかったリコは、死んだ男の死体を盾替わりにした。爆風や破砕片を男の死体で防ごうと言うのだ。これは、戦場でもよく見られる光景だった。


 爆発が起きて爆風の衝撃がリコの身体を襲う。爆片の直撃は無かったが、盾にした死体とともに廊下の壁に叩きつけられてしまった。


「……」


 廊下を手榴弾の煙で満たされてしまった。扉の影から顔を出したディミトリはリコの様子を見た。

 リコは盾替わりの男の下で動きがない。どうやら失神してしまったようだ。


「おいっ! 大丈夫か!」


 ディミトリはリコに駆け寄ろうとしたが、煙の向こうから銃弾が飛んでくる。壁に当たる様子から此方が見えている訳では無いようだ。しかし、当たる可能性がゼロでは無い。ディミトリはやむを得ず再びドアの影に隠れた。


「クソが……」


 再び廊下を覗き見ると、ワンの部下がリコを盾にして廊下の奥に向かっていく所だった。リコは気を失っているのか俯向いたままだった。ワンの部下は牽制の射撃も忘れない。


「ええい、ちくしょう……」


 下手に反撃するとリコにも当たってしまう。それは彼の望むことではない。壁から少しだけ顔を出してリコの行方を注視していた。

 すると、彼らは奥まった部屋の一つに入っていくのが見えた。


 上手くいかない事に苛立ちを覚えながらも、ディミトリはリコを追い駆けて入っていった。


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