第112話 転がる悪意
ワンの倉庫。
倉庫を侵入しようと入り口に取り付いたディミトリは違和感を覚えていた。人の気配が無いのだ。
(普通、出入り口には見張りを置くものじゃねぇの?)
不思議に思いつつ入口横の窓を壊して中に入っていった。
どこかの凶悪な少年が組織を壊滅状態にしてしまったので、人員を用意する事が出来なかったのが実情だ。だが、当事者の凶暴な少年はその事を知らないでいた。
(あん時は屋上のヘリコプターをかっぱらって逃げたからな……)
脱出した経路を思い出しながら倉庫内を動き回っていた。そして、問題の部屋に辿り着いた。
すると、悲鳴のようなものが聞こえて来て、ワンの部下がショットガンを構えて部屋に入る所だった。
それは室内で何かしらの異常が起きたのであろう。
「ソイツを離せ……」
そう言ってるのが聞こえる。
(んー、リコが暴れたのか?)
恐らくは、中に居るのは探しているリコなのだろう。そして、リコが誰かを人質に取っていると推測した。
(まあ、いいか)
何だか分からんが、ディミトリは取り敢えず男を撃った。確認なんか後からすれば良い。銃を構えた奴には何も遠慮しないディミトリであった。
中に入ると加藤理子が土田を盾にしてナイフを構えていた。床には自分でも馴染みの有るブツが転がっていた。
そして、股間を押さえて蹲る荒井を見たディミトリは何が起きたのかを察した。
(ああ…… ちんこを噛みちぎったのか……)
随分と痛そうだなとも思った。
(外人は強制的にフェラをさせることはしないんだよな……)
(だって、噛みちぎられるんだもん)
そう言えば、車を運転中に女に奉仕させて事故った話を思い出した。運転手は死亡したが原因が失血死だったそうだ。女の方はイチモツが喉に詰まって窒息死したのだそうだ。
(底抜けの馬鹿ってどこにもいるもんだよな)
ディミトリはクックックと笑っていた。
「よお、お楽しみの邪魔をして悪いな」
ひとしきり笑った後、見張りの男に止めをさしたディミトリはリコに声をかけた。
そんな少年を不思議そうに見つめるリコであった。
「アンタ…… 誰?」
リコが土田の首にナイフを当てたまま尋ねてきた。まるで道端で怯えている捨て猫のような目をしている。
敵に囲まれていたのだから仕方がないであろう。
「君の敵ではないよ…… ある人に依頼されて迎えに来たんだ」
敵意丸出しのリコにディミトリが答える。
そこで、土田が顔を上げた。すると、カラオケ屋で不良たちに連れ去られたはずの、生意気な転校生が居るのに気がついた。
「あ、お前は……」
土田が何かを言いかけた時にディミトリは足を撃ち抜いた。
「ぐあああっ!」
土田が足を抑えて転げ回っている。目を抑えたり足を抑えたり色々と忙しい男である。
ディミトリは自分の話を邪魔されたのが気に入らなかったので撃ったのだろう。
「ソイツらを殺すのは無しだ」
「どうして?」
「そういう契約だからだ」
「誰と誰の契約なの?」
「ソイツらに用事がある奴がいるんだよ」
「用事が済んだらどうなるの?」
「さあな…… 残ったクソみたいな人生を飼い殺しにされるんじゃねぇか?」
「そう……」
「それに、アンタ…… 人を殺した事が無いんだろ?」
「うん」
「じゃあ、止めておけ」
「……」
「糞溜めになんて手を入れるべきじゃない……」
ディミトリの言葉にリコは思案顔になった。
「でも、用事が済んだら放免されちゃうんじゃないの?」
「その時は……」
「その時は?」
「俺がソイツらを探してやるよ」
「分かった……」
リコは疑わしそうな顔をしているが、ディミトリの話には乗っかるようだ。
懸案の一つが片付いたディミトリは土田の方を向いた。
「まあ…… 役に立つように頑張ることだな」
ディミトリは土田に目線を落としながら冷たく言い放った。
「……」
それを聞いた土田はガックリと下を向いてしまった。色々と諦めたのかもしれない。
荒井は股間を抑えたまま唸っている。我儘な下半身は血塗れのままだ。
「ヒモか何かでソイツのチンコを縛ってやれ。 失血で死んでしまうぞ?」
ディミトリは土田にそう言ってやった。
「じゃあ、怖いおじちゃんたちが来て賑やかに成る前に逃げ出すか……」
ディミトリはリコに見張りの男が持っていたショットガンを渡した。武器を持てば安心できるだろうとの配慮だ。
リコは手に持ったナイフを自分のスカートの腰の所にぶら下げた。持って帰るつもりなのだろう。
それを見たディミトリがリコに言った。
「黒錆ナイフなんてマニアックなモンを持っているんだね……」
黒錆ナイフとは紅茶にお酢を混ぜてナイフを漬けて作成するナイフだ。こうするとナイフの刃が黒錆で加工が出来るのだ。
何故、そんな事をするのかというと、ナイフを目立たなくする為だ。キラリと光るナイフは闇夜には目立ってしまう。これでは密かに敵を制圧する前に目立ってしまう。それでは制圧行動にも支障がでてしまうだろう。
なので、ベテランの兵隊は自分のナイフを黒錆加工をする者が多いのだ。
「ふふん……」
ディミトリが黒錆ナイフの事を知っていて、自分の事を褒めたと思ったリコはニッコリと微笑んだ。
「誰だ? おまえ……」
後ろから声が聞こえた。荒井の叫び声に反応して、様子を見に来たのであろう。
声を掛けてきたのは守居だった。
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