第109話 リア充たちの秘め事

ワンの倉庫。


 倉庫の一室に加藤理子は椅子に座らされていた。その両手は逃げられないように椅子に縛つ付けられている。

 その部屋はディミトリが拘束されていた部屋だ。もちろん、リコはそんな事は知らない。


 リコは殴られていたのか顔は酷く腫れている。彼女は持ち前の強情な精神で拷問に耐えているようだった。

 大陸出身の中国人たちの拷問は過酷であるようだ。彼らには男女の区別は無い。利用価値が有るかどうかであるからだ。


 そこにブラックサテバの五人がやって来た。

 珍しく小木智昭(おぎともあき)も一緒なのは、車で移動する必要が有ったためであろう。


「ほっとけと言ったのに……」


 ボロボロになったリコを見下ろしながら守居が言った。


「そうよーーー。 拉致ってどうするのよーーー」


 ムツミも同じ様に非難していた。彼女も反対していたようだ。


「いや、コイツは俺達の周りをウロチョロしてたんですよ」

「しかも、何か知ってるって言ってたし……」


 荒井と土田が言い訳を話している。


「何を知ってると言ってたんだ?」

「それを聞き出そうかと……」

「商売の話だったら拙いと思ったんですよ」

「コイツが何か言い出すまで待てば良かったろ……」


 ムツミが言った。彼女の言うとおりだった。

 相手を脅そうとする人間は情報を小出しにしてくるものだ。何らかの証拠を持っているのなら、取引を持ちかけてくる。

 その取引を持ちかけてきた時に、拐って証拠諸共消してしまえば良かったのだ。


「脅そうとしていたけど、コケにされて頭にきたんで拐っちまったんです」


 ワンがリコの髪の毛を掴んで顔を上に持ち上げながら説明した。顔を五人に見せるためであろう。

 殴られて顔が変形はしているが、元の顔は判別できる程度だ。コケにされたと言うのは電車で追跡者を躱した出来事であろう。

 ディミトリが危惧した通りに、彼らを激怒させたようだ。


 リコは気を失っているのか目を瞑ったままだ。ワンが手を話すとガックリと下を向いてしまった。

 荒井はその顔を見てニヤニヤしていた。根っからのいじめっ子体質なのだろう。武道を習おうが性根は腐ったままのようだ。

 一方、小木はリコの惨状を見て顔を背けていた。彼は血が苦手なようだ。


「で、この始末をどうするんだよ……」


 そんな言い訳など歯牙にも掛けないで守居は荒井に尋ねた。

 最早、後戻りができない事態になっている。女の子を一人拉致するのは面倒が大事になるものだからだ。


「情報を聞き出して外国にでも売ってしまえば良いんじゃない?」


 荒井が映画などで見かけるような事を言い出した。土田も頷いている。


「……」


 守居は黙ってしまった。

 荒井も土田も人身売買の事を簡単に言葉にしているが、コレが中々大変な作業になるのだ。

 人を自分の意志に反して出国させようとするのは大変なのだ。まず、通常の飛行機などで出すことは叶わない。警察等に保護を求めて、暴れ出すに決まっているからだ。

 ならば船を使って出国させようにも、人間では隠せる場所は限られている。不審な船は海上保安庁に臨検され、鋭い嗅覚を持つ彼らに大概の場合はバレてしまう。


「じゃあ、バラして内蔵を売っ払う?」


 これも難しい。移植に使えるレベルに臓器を取り出すには専門的な知識を持つ医者が必要だ。それに、鮮度を保つためには病院並の設備が必要なのだ。

 守居には、そんな医者も病院も知り合いなどいない。親のコネを使おうにも、非合法過ぎて引き受けて貰えないだろう。


 ワンたちも宛が無いと言っていた。以前は便利な医者がいた。だが、自分たちの組織を壊滅状態にした少年が連れ去ってしまった。以後、連絡が取れなくなり彼が殺したのだと考えているそうだ。


「少年?」

「ああ、見た目はね…… アレは関わった者に死を運んでくる狂戦士だ」

「ふ~~ん、アンタたちが言うって事はよっぽど凶暴な奴なんだね」


 ワンたちは続けて大陸に連れていけばどうにか出来るが、自分たちの親組織は臓器売買は扱っていない言った。彼としては薬を使って日本で金儲けしたいだけなので関心が無かったのもある。


「じゃあ、どうするの?」


「……」

「……」

「……」


 一同は黙りこくってしまった。彼女の扱いに困ってしまったようだった。


「面倒だから殺しちゃいなよ」


 痺れを切らしたムツミが言い出した。速攻で結果を求める所を見ると、彼女は面倒事が嫌いなタイプらしい。


「ああ、そうだな……」


 守居が即答した。傲岸不遜な彼も彼女の言うことには素直に従うらしい。


「死体の始末は?」

「親父が持ってる会社に中古紙の処理工場があるからそこで処分するよ」


 ムツミの質問に守居は答えた。


「大丈夫なの?」

「前に売上金をくすねた奴を処分した」


 過去に処分した事がある守居が言った。


「へぇ」

「ダンボールを再生する機械を使って死体を処理するんだよ」

「直ぐに終わるの?」

「高速で撹拌刃が回転するタイプだから、丸一日くらい撹拌し続ければ骨すら残らずに粉砕出来るよ」

「……」

「後はダンボールの原料に混ぜてしまえば大丈夫」

「ふ~ん」

「前の奴はひき肉運搬用のダンボールになったよ」


 そう言って守居は笑っていた。ムツミも釣られて笑っていた。


「じゃあ、そうしようか……」

「なあ、その前に楽しんで良いか?」


 土田がニヤニヤしながら守居に聞いてきた。


「好きにしな」


 守居は土田に呆れたかのように言った。中々、お盛んな年頃のようだ。例え顔がボコボコにされた女でも平気らしい。


「何だったら見学していくか?」

「ソッチの方が興奮するの?」

「まあね……」


 ムツミの質問に荒井が答え、土田は横でニヤニヤしながら頷いていた。彼も似たような性癖を持っているらしい。


「呆れた……」


 ムツミはそう言い残すと守居を連れて出ていった。彼女は他人が楽しむより自分が楽しんだほうが好みのようだ。


「私らはアチラに行きますんで……」


 ワンも部下を連れて出ていった。後に残された土田と荒井は顔を見合わせてニヤリとしている。

 そして、気絶しているはずのリコもニヤリとほくそ笑んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る